週間イントラモエニア


 今さらですが2006年に新刊で買ったままほったらかしにしていたルイージ・マレルバのFantasmi romani(ローマの亡霊たち)を読了しました。マレルバさんはこれを発表した2年後に亡くなっておりまして、晩年の円熟した筆致と知性を感じさせてくれる佳作です。ローマ、ナヴォーナ広場近くのおしゃれなショッピング街、ゴベルノ・ベッキオ通りに住む中年夫婦。ジアーノとクラリッサ。どちらもホワイトカラーでアッパーな生活をしておったのですが、どちらも浮気をしておりまして、互いに黙認して良好な関係を保っていたのですが、指でドミノの一枚目を倒すみたいな軽いはずみがきっかけで、二人の関係はがらがらと崩れおちていくのです。そのきっかけとなったのは、夫がよく話す小噺を、愛人が口にしたことなのですが、この小噺というのがこちら。


岩壁の高いところにワシの巣がある。そこに二つの頭をもったワシが飛んできたものだから、他のみんながざわつきはじめた。ついに群れの中の一匹がそのワシに近づいてたずねた。

「遺伝子操作されたのかい?」

「いや、ハプスブルグ家のものだ」


※ハプスブルグ家の紋章は二頭のワシなのです。この学者ギャグが冒頭にあって始まるこの物語は本当に古き良き知的なボルゲーゼって感じのお話で、ちょっとモラヴィアみたいかな、とも思いました。あんまり読んだことないけど。物語は夫、妻が交互に独白していく形なのですが、作中の途中から、夫のほうが自分たちの関係をなぞった小説を書き始めそれを妻がこっそり読むという、作中の中にまた同じ作品があるという構造になっておりまして、こういうのを専門用語でなんて言うんかいな。和田先生教えて~!!で物語の中盤、妻側の愛人である建築家がニューヨークに出張に行きます。そこから連絡が取れなくなってしまい、バランスを保っていた妻が内部から崩壊していく…といった感じ。ラストのフレーズも本当に素晴らしい。(ほとんどネタバレですがどうぞ)


痛みを持ってしても人を愛することができるのだと分かった。しかし、だからといって何が変わるわけでもない。私たちはみな敗北してしまったのだから。