あっという間に2009年も終わりである。そこかしこで言及されていることだが、2010年からは四桁の数字で真ん中に0が二つ連ならないため、2000年メガネの生産は今年で完全にストップする。次なる年号メガネは西暦3000を待たなければならないのだから、その尊さときたら、しし座流星群の比ではない。さて、今年もほぼ一年丸まるイタリアで暮らして、足繁く本屋に通い新刊本をチェックしてきた。本は売れない時代なのか、どうなのか。ともあれ次から次へと発売される新刊本の表紙に目を奪われ、わくわくしてはそのすべてが把握できないもどかしさに苛まれ、一年間読む本には事欠かず非常に楽しく過ごさせてもらった。今回は年末ということで、今年一年のイタリアの出版業界の動向をできるだけ客観的に記してみようと思う。
まず純粋に売り上げでいうなら、常にトップは海外の流行小説だった。ルイス・カルロス・サフォン、ダン・ブラウン、ステファニー・メイヤー。中でも2004年に他界したスウェーデンのジャーナリスト、スティーグ・ラーソンの長編ミステリーは大ヒットとなり、映画化もされた。その次に売れたのが、国内の人気推理小説家、アンドレア・カミレッリ。一年に何冊本を書くの?というペースで次々とトップ・テン圏内に違う名前の小説を放り込んできた。そのあとにようやく国内文学のビッグネームが現れるといった感じである。カンピエッロ賞を獲得したマルガレット・マッツァンティーニの『Venuto al mondo』、アントニオ・タブッキ『Il tempo invecchia』、ニッコロ・アンマニーティ『Che la festa cominci』、アレサンドロ・バリッコ『Emmaus』あたりは日本語に翻訳される可能性も高いのではないだろうか。ついでに言うと、すでに日本語訳されているが、2008年に発表されたパオロ・ジョルダーノの『素数の孤独』と2006年に発表されたロベルト・サヴィアーノの『死都ゴモラ』は、現在もベストセラーに名を連ねる異例のヒット作となっている。
売り上げとは若干距離を置いて俯瞰すると、政治家のプライベート・スキャンダルで終始にぎわった2009年のイタリア。過激な政治批判本を出し続けたキアーレ・レッテレ社は、タイトルだけで出落ちなんじゃないの?と思わせるものもあったが、やはり目が離せない存在だった。中でも、ブリガーテ・ロッセの誕生についてのドキュメンタリーDVD『Il sol dell'avvenire』、ベルルスコーニのスキャンダルにいち早く反応したマルコ・トラヴァーリオたちの『Papi-uno scandalo politoco』、訳すと「バチカン株式会社」となる『Vaticano S.p.A.』などは注目すべきだろう。それにしてもベルルスコーニである。奇しくも一連のスキャンダルの直前に社会学者マルコ・ベルポリーティが『Il corpo del capo』というタイトルで、ベルルスコーニの肖像について解き明かしたが、その約八ヵ月後には、音楽誌ローリング・ストーンで、今年を代表するロック・スターとして表紙を飾った。日本では存在しえないタイプのスターであることは間違いない。
その他に素晴らしい仕事をした出版社となると、もちろんミニマム・ファックス社だ。レイモンド・カーヴァーのイタリア語訳の出版などでも知られているが、ジョルジョ・ヴァスタの『Il tempo materiale』は国外でも高い評価を受けたし、ストレーガ賞でも第二次選考までコマを進めた。そのヴァスタが監修を行った『Anteprima nazionale』は、三千代女史も触れていた、イタリア建国150周年を掲げ創設されたCircolo dei Lettori di Torinoのアンソロジーで、すなわち良質な若手作家の短編集となっている。そこにも名を連ねるトンマーゾ・ピンチョ、ボローニャのウー・ミン、さらにはトリノのアンドレア・バイヤーニ、ストレーガ賞を獲得したティツィアーノ・スカルパなど、新進気鋭の作家たちが続々と登場している。彼らはそれぞれかなり違ったスタイルをしているのだが、イタリアにまつわる重々しい歴史、過去の社会問題などを反映させて新しい問題意識を打ち立てるという共通項を持っているように思われる。こう書き進めていくと、冒頭に記した「客観的」ではもはやないかもしれないが、彼らにはぜひ、カルヴィーノ、ウンベルト・エーコで止まったままだと思われているイタリア現代文学界を突き動かしていってほしいと心から思っている。(代助)
