バクチクなりやまぬらんちき騒ぎ、趣きゼロの年越しに、なんだかちょっと落ち着かず、やっぱりお正月は日本だなぁとしみじみかんじた三千代です。とはいえ、この時期のイタリアにも楽しみはあります。それは何か?それはお菓子屋のウインドウを陣取る魔女、ベファーナ婆さん人形に鍵があります。
多くの日本人が西洋の「魔女」という響きにどこかひかれるように、私も御多聞に洩れず魔女好きです。小さい頃にはススキと棒きれを集めてほうきをつくったり、黒魔術だの白魔術だのと遊んだものです。そんな私がイタリアでとりこになったベファーナ婆さん。大学院入学当初、彼女についての研究をしたいと考えていたほどに、私の心をうばったこの老婆はいったい何者なのでしょうか?なぜこの時期ベファーナ婆さん人形が、お菓子屋のウインドウに所狭しと並んでいるのでしょう?
ベファーナ婆さんというキャラは、もともとトスカーナ州のある地方の民間伝承から生まれ、その後イタリア全土に広まったものとされています。(伝承の起源については、様々な説がありはっきり分かっていないようです。) 「ベファーナ」という名が示すように、彼女は「エピファニーア」(。語源はギリシア語の「epiphaninomai」。 公現を意味)というキリスト教の祭事(東方三博士が幼子イエスの礼拝にやってきたことを記念する1月6日の祭り)と密接な関係をもっています。つまり、トスカーナの民間伝承がキリスト教の祭事と融合してうまれたのが、ベファーナ伝承であり、ベファーナ婆さんは他のキリスト教国にはみられない、イタリア固有のお話なのです。
東方の三博士は、新たな王となる幼子イエスに贈り物をささげようと出発し、途中ヘロデ王に尋ねたところ返事はこうでした。ベツレムにいる。そこで彼らはベツレムへと向かいました。(ヘロデ王は三博士に幼子イエスを見つけた後、ヘロデ王のもとに連れてくるよう命じましたが、星のお告げにより、彼らはヘロデ王の意に従わず、別の道で帰路についたのでした。この「三博士の礼拝」を題材に多くの絵画が描かれています。)ベツレムに向かう中、日の暮れた深い森で道に迷ってしまいました。三博士は一軒の明かりのを見つけ、そこに住む老婆に理由を話し、一晩宿をとらせてくれないかと尋ねました。山奥ですごし、人と長くつきあいを持っていなかった老婆はとまどいました。というのも、老婆はその醜い姿と森の中での隠居生活ゆえに、町の住民に魔女だと恐れられ、すっかり人間嫌いの臆病者になってしまっていたのです。かつてまだ夫が生きていた頃、彼女は「子供を授かれなかったけれども2人でおもちゃをつくって子供たちに幸せをとどけよう」とおちゃ屋を営み幸せに暮らしていたのでしたが、夫の死以来おもちゃ屋をたたみ、森でひっそりと暮らす間に、身なりもひどくなり、魔女とのうわさが広がってしまっていたのです。 心の優しい老婆は、おびえながらも彼らを泊めてやりました。翌朝、三博士は彼女の親切に深く感謝し、また彼女に自分達と一緒に来ないかと薦めました。「真の王になられるお方にあなたの作ったおもちゃを差し上げようじゃありませんか。」 しかし、ひどく臆病で自信を失くしていた老婆は彼らの誘いを断固拒否します。あきらめた三博士は残念そうに老婆の家を後にしました。真の王となられるお子に、自分が作ったおもちゃを差し上げることができたなら、どんなに幸せなことだったろう・・・。 老婆はどうして彼らについて行かなかったのかと強く後悔し、自分を責めました。そこで勇気を出して決心し、おもちゃとお菓子を籠に詰め、一目散に彼らの後を追いました。しかし時すでに遅し。彼らの姿はどこにもなく、追いつくことはできません。それでも老婆はあきらめず、長い道すがら家々を回っては子供たちにお菓子を与えました。このうちの誰かが幼子イエスでありますように・・・と願って。こうしてある夜、寒空の下で眠る老婆はそのまま静かに息をひきとりました。すると天使があらわれ、ベファーナに言いました。「ベファーナよ。あきらめてはいけない。お前に力を授けよう。お前は今後、エピファニーアの前の晩に、空飛ぶほうきにまたがって、世界中の子供におもちゃやお菓子をとどけるんだ。」 こうしてベファーナは、エピファニーア(1月6日)の前の晩(1月5日の晩)、ほうきに乗って街にやってくるようになりました。煙突から家に入り込み、暖炉のそばにつるされた靴下にプレゼントをつめて立ち去ります。昨年いい子にしていた子供には飴やチョコや胡桃(くるみ)を、悪がきっこには真っ黒の炭、タマネギ、にんにくを入れていくのです。(とはいっても心の優しいベファーナは本物の炭は入れるわけではありません。それは炭そっくりのお菓子なのです。)
今では、サンタクロース(バッボナターレ)がイタリアにも定着し、クリスマスにはサンタさん(もしくは前々回にとりあげたように幼子イエス)がプレゼントを、エピファニーアにはベファーナがお菓子をというのが一般がしていますが、戦前はクリスマスプレゼントという習慣はみられず、エピファニーアにベファーナがプレゼント(おもちゃやお菓子)をくれるのが慣わしだったようです。
今宵、ベファーナ婆さんがほうきにのってやってきます。子供たちはどんな気持ちで眠るのでしょうか。
では次に、ベファーナにちなんだ詩を1つご紹介します。この詩は19世紀最大の作家の一人である、ジョバンニ・パスコリ(Giovanni Pascoli)によるものです。
