結局、彼らはすべて、同舟の輩(ともがら)であり、打勝とうとする同じ欲望に燃える人たちだった。リヴィエールは、いま思い出す、彼が夜間飛行のためにしてきた他の戦いのことを。

―サン=テグジュペリ『夜間飛行』(堀口大学訳、新潮社、昭和45年)

SEVENTEEN NEW RINGS CEREMONY: The Sun Risesよりスクリーンショット。
 
今回は
前回に引き続き、
POWER OF LOVEプロジェクトにおける
ウジの役について
書いていきたいと思います!
 
※この記事はこちらの続きです。

※考察をはじめから読むにはこちらをご覧ください。

 

 

★・ ・  ★ ・ ・ ★
 
(12) WOOZI《支配人リヴィエール》

[画像1] SEVENTEEN 9th Mini Album 'Attacca' Op.3 のウジ。

 

 前回は、ウジがPOWER OF LOVEにおける『星の王子さま』の続編的な部分の、「ヒツジの生まれ変わり」なのでは?というお話をしました。

 

 今回は、ウジのもう一つの役、『夜間飛行』のリヴィエールついてお話ししたいと思います。

 

『夜間飛行』と'Ode to you'

 前回お話しした通り、POWER OF LOVEのストーリーは、現代のパートに入ってからは、NEW RINGS CEREMONYの映像と同じ流れで進んでいきます。

 

 

 2015年にデビューしたSEVENTEENは、2016年の"Pretty U"で初めて1位を獲得。その後、ワールドツアーを行うまでに成長し、2019年には3rd Album "An Ode"を引っ提げて二度目のワールドツアー"Ode to you"を開始しました。

 

 しかし、公演も残すところあと6つとなった冬、世界的なパンデミックが発生します。

 

 マレーシア、台湾、スペイン、フランス、イギリス、ドイツ。初めて訪れる予定だった国を含む6つの公演は中止となり、"Ode to you"は完走することのないまま、突然の終わりを迎えました。SEVENTEENがこのツアーにどれほどの思いと力を注いでいたかは、ドキュメンタリー 'HIT THE ROAD(Youtube)'にて垣間見ることができます。

 

 サン=テグジュペリの『夜間飛行』とのつながりにおいて注目したいのは、先ほどのNEW RINGS CEREMONYのアニメーションです。この動画では、ワールドツアーがパンデミックに襲われたことが、空飛ぶ船が雲の上に座礁してしまうようすに喩えられています。

 

 

 また、'Attacca'のリリースが近づいた2021年10月に開催されたThe Fact Music Awardsでは、飛行機の機内のようなセットの中でReady to loveが披露され、その直前にジョシュアの声で「果てしなく続くように思える暗闇の中で乱気流に襲われ、躓いても、耐え抜けばいつか新たな地平線が広がる」という英語ナレーションが流れました。

 

 これらは、サン=テグジュペリの『夜間飛行』のイメージとぴたりと重なります。

 

 『夜間飛行』は、夜間飛行を先駆的に行った航空会社の物語です。

 現代では夜に飛行機が空を飛ぶのは普通のことですが、当時は飛行機の性能も現代よりはるかに劣っており、見晴らしのきかない夜間に飛行機を飛ばすことは、一部の軍事行為にしか許されない非常に危険なことだと思われていました。

 そんな中、航空会社の支配人リヴィエールは、事業としての夜間飛行に着手します。夜間の定期航空事業など成功するはずがないという周囲の意見に抗い、多年奮闘の末に、事業として成立させました。

 

 ある晩、リヴィエールは、欧州行きの郵便物を積んだ二機の飛行機の到着を、いつものように責任者として飛行場で待っていました。その二機が到着したら、荷物を別の飛行機に移し、次の操縦士が欧州まで届けることになっています。

 しかし、二機のうち、ファビアンという飛行士が操縦している飛行機からの通信が途絶えます。ファビアンは予想外の悪天候のために、夜空の中で身動きがとれなくなってしまったのです。

 

 彼にとっては、この闇は、岸べのない夜であった、なぜかというに、彼はいま、港へ向って進んでいるのでもなければ(どの港へも手がとどきかねるように思われた)といって、夜明けに向かって進んでいるのでもなかったから。燃料はあと一時間四十五分で尽きるはずだ。おそかれ早かれ、この深い闇の中に盲人のように沈み行くべき運命だった。

 夜さえ明けてくれたら……。

 ファビアンは、夜明けを思った、――あたかもそれが、この困難な一夜のあとで、自分たちが打ち上げられるはずの黄金色の砂浜でもあるかのように

―サン=テグジュペリ『夜間飛行』(堀口大学訳、新潮社、昭和45年)

 

 このあたりはThe Fact Awardsのジョシュアのナレーションによく似ていますよね。

 そして、燃料が徐々に消費されていく中、ファビアンはそれが「落とし穴」だとわかっていながら、彼の頭上の暴風雨の切れ間に見えた星の光に誘われ、静かな雲の上に昇ります。

 

 浮び上がったその瞬間、機はいきなり、異様な静けさの世界に入り込んでいた。機を傾斜させるうねりなぞ一つもなかった。堰を乗越えた舟のように、機はいま静かな水に浮かんでいた。機はいま、見慣れぬ空の一部分、幸福な島影に抱かれた入江の水のような、隠れた部分へ入って行った。嵐は、機体の下方で、狂風、竜巻、雷電の荒れ狂う三千メートルの厚さのある別の世界を形成しているのだが、星の方へ向っては、水晶と雪でつくられているかと思える顔を向けていた。

 

 ここではファビアンの乗っている飛行機が、はっきりと船に喩えられています。

 NEW RINGS CEREMONYのパンデミックの部分で、が雲の上に座礁してしまう展開は、まさにこの物語と同じです。他にもいろいろな表現方法が考えられるのに、SEVENTEENの歩みを紙飛行機や船が進むようすに喩え、さらに、パンデミックの部分を雲の上で静かに停止するようすで表しているところに、意図が感じられるように思います。

 さらに、ファビアンの場面は以下のように続きます。

 

 「あんまり具合がよすぎるぞ」とファビアンは思った。彼は徘徊した、宝物のようにたっぷり集められた星に交じって、彼ファビアンとその同僚以外には誰ひとり生きた人間のいない世界の中をお伽話の中の盗賊どもと同じように、永久に出ることのできないはずの宝物庫に閉じ込められて。冷たい宝石のあいだを、いとも富んで、しかも死刑を宣告されて、さまよっている彼らであった。

 

 このあたりが、前回の記事でお話ししたように、Darl+ingのネバーランドと現実世界(パンデミック以降のSEVENTEENの願いの世界と、その裏に隠された影の世界)のイメージに繋がっているのでしょう。しかし、今回は、そちらには進まず、『夜間飛行』の部分に焦点を絞ってお話ししていきたいと思います。

 

 『夜間飛行』では、この後ファビアンがどうなったか描かれません。しかし、燃料がなくなって墜落するのは時間の問題であり、飛行場で彼の到着を待っていた同僚たちは皆、彼の死を確信します。

 ファビアンが来ないのならば、今日の欧州行きの便は予定通りには飛ばないだろう。誰もがそう考える中、リヴィエールは、ファビアンが帰って来なくても、もう一機の便が無事ここに来るのなら、その分の郵便物だけ積んで予定通り欧州へ届けるべきだと考えます。そして、部下のロビノーに命じます。

 

  ――二時だ。アスンション機は二時十五分に着陸するはずだ。欧州機を二時十五分に離陸させる手はずにしたまえ」

 ロビノーは早速、夜間飛行は停止されないという、この驚くべきニュースをふれ歩いた。

 

 このように、リヴィエールは、まるで操縦士ファビアンの死など気にかけていないかのように、予定通り欧州行きの便を離陸させることを指示するのでした。

 

 この冷徹にも見える人物は、サン=テグジュペリが勤めていた航空会社で操縦士たちを指揮した実在の人物、ディディエ・ドーラをモデルに書かれたと言われています。サン=テグジュペリは『夜間飛行』の献辞でドーラの名前を挙げ、この作品をドーラに捧げています。

 

 私は、POWER OF LOVEプロジェクトのストーリーの前世の部分におけるウジの役割は、このリヴィエール(=ディディエ・ドーラ)ではないかと思っています。

 

 私がそう思う理由は以下の通りです。

 

①同志であり、責任者である。

Ode to youなどを行った2019年~のSEVENTEENの活動を追ったドキュメンタリー'HIT THE ROAD'のウジ。作曲にかける思いや、「終わらせられなかった」Ode to youについて語っています。

 

 リヴィエールのモデルであるディディエ・ドーラは、彼自身飛行士でした。ただ、後にドーラはラテコエール郵便航空会社の空路開発主任となります。サン=テグジュペリが同社の就職試験を受けた際には面接官を務め、彼を採用しました。

 

 つまり、彼は、「飛行士」と「飛行士たちの責任者」、二つの肩書きを持っているのです。

 

 これは、彼自身アイドル(メンバー)でもありながら、SEVENTEENの楽曲のほぼすべての作詞作曲を担当し、他のメンバーのレコーディングの指示なども行うプロデューサーでもあるウジのイメージによく合います。

 

 ウジは、作曲という作業が好きだと語っていますが、他のメンバーより仕事が多いのは事実でしょう。ダンスや歌の練習の時間以外に、新曲の詞と曲のアイディアを練り、制作チームと話し合いを進めて完成させ、モデル音源を作り、メンバーが代わる代わるレコーディングに臨む時も、ウジはずっとプロデューサー側の席に居て、「ここはもっとこう歌ってみたら?」などと提案しています。ウジのそのような一面は、リヴィエールの以下のような立場によく似ています。

 

 疲れた搭乗員は、新しい搭乗員と交代して、眠りに行くはずだ。ただひとり、リヴィエールにだけ、休息は許されない、なぜかというに、そのときはまた、欧州便が彼に新しい不安を背負わせるはずだから。いつになっても、こうあるはずだから。

 

 常に新しい飛行の責任を負うリヴィエールの存在によって夜間飛行が事業として成立しているのと同じように、ウジは休むことなくSEVENTEENの活動を支えています。

 

責任者として、同僚に厳しい態度を取る。

 実際のドーラもそうだったようなのですが、『夜間飛行』のリヴィエールは、夜間飛行事業の成功のために、同僚たちに非常に厳しく接します。自分の個人的感情は決して表に出さず、少しでも過失を犯した同僚には理不尽なまでの処罰を与えます。すべては、飛行機が安全に飛び続けるために。周囲の反対を押し切って敢行しているこの新しい事業を、失敗に終わらせないために。

 

 愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情はしない。いや、しないわけではないが、外面に現わさない。(中略)僕がなげやりにして、万事をただ原則まかせにしておくようだと、不思議に早晩事故が生じる。いわば、機体が飛行中にばらばらになるのを、また暴風雨が来て便の到着を遅らせたりするのを防ぐのは、すべて僕の意志ひとつにかかっているような気がするのだ。

 

 今では柔らかい印象も強く、映画POWER OF LOVEでも同じチームのメンバーから「上に立とうとせず、メンバーを対等に見てくれる」と言われているウジですが、練習生時代や結成当初はメンバーたちに非常に厳しかったと言われています。


 

"SEVENTEEN's dawn is hotter than day' 

"Attacca"がリリースされた2021年10月に配信された、手紙を読むような形式で質問に答え、過去のことなどを語った動画。Ep.1では、Vocal teamが練習生時代の思い出などを語りました。

 

 この動画以外でも、メンバーたちは、度々、練習時代のウジの厳しさについて語っています。

 

 例えば彼らのデビュー直前のミッションを追ったドキュメンタリー番組『SEVENTEEN PROJECT』(アマゾンプライムで視聴できます)でも、ウジの態度が厳しすぎるということが話題になる場面がありました。

 しかし、その裏で、当時のウジは「もしSEVENTEENが成功しなかったら、すべて僕の落ち度である気がして」と言って涙を流しています。

 

 メンバーの中では年上の方ですが、当時まだ20歳ほどであったウジ。自分が書いた曲でデビューするというのは大変誇らしいことであったと思いますが、もしも曲が世間に受け入れられなければ、メンバーたちのこれまでの努力はどうなるんだという不安やその不安から生じる負担の大きさは、想像を絶するものだったと思います。

 

 しかしながら、メンバーたちもそれをよく理解していたようです。上に引用した動画では、ウジより年上のジョンハンやジョシュアも当時のウジの厳しい言葉をよく聞いてくれて、それがありがたかったと語っています。

 

 これは、『夜間飛行』で、責任者としてすべての飛行士の命を背負いながら飛行場に立つ支配人リヴィエールと、彼の指示に従って命を懸けて夜空を飛ぶ飛行士たちについて語った次のような関係にもよく似ています。

 

  そのくせ、この夜の征服の戦いにあって、リヴィエールとその配下の操縦士たちは、心の奥底で、人知れぬ友情に結ばれていた。結局、彼らはすべて、同舟の輩(ともがら)であり、打勝とうとする同じ欲望に燃える人たちだった。リヴィエールは、いま思い出す、彼が夜間飛行のためにしてきた他の戦いのことを。
 

 

 リヴィエールは意志が固く実行力のある人物として尊敬されることはあっても、同僚たちに決して甘い顔をしないので、いわゆる「好かれている」人物ではありませんでした。公私混同を嫌い、部下や同僚に友だちのように話しかけることもしません。

 しかし、上に引用した通り、彼は、同じ目標のために心を燃やす飛行士たちと、心の奥底で結ばれていました。

 

 このような「同志」の考え方は、POWER OF LOVEプロジェクトにおいて重要である『人間の土地』の言葉「愛とは、互いに見つめ合うことではなくて、同じ方向を見ること」とも重なる、サン=テグジュペリの信念のようなものだと思います。

 

 また、リヴィエールとその配下の飛行士たちを一つの船の船員に喩えた「同舟の輩(ともがら)」という表現は、メンバーたちが空飛ぶ飛行船のクルーに扮した"My My"(2020)のSEVENTEENのイメージにもぴったりですよね。

 

 

 ウジは、(特に現在は)リヴィエールに比べるとたいへん柔らかく温かで、メンバーたちを家族のように愛し、メンバーたちから家族のように愛されていますが、プロデューサーとしてグループの成績の責任を誰よりも感じている彼の立場や練習時代のエピソードを踏まえると、この役に合っていると思います。

 

ルールを作るということ

 リヴィエールの考えの中で印象的なものに、次のようなものがあります。

 

 夜間の定期航空は必ず失敗するはずだといわれていた。それに対するリヴィエールの抗弁は次のごときものであった。

 「せっかく、汽車や汽船に対して、昼間勝ち勝った速度を、夜間に失うということは、実に航空会社にとっては死活の重要問題だ」

 リヴィエールは、退屈な思いをしながら、要綱のことや、保険のことや、それから世論のことが議論されるのを何度聞いたことか。

 「世論なぞは、自分で導けばよろしい!」これが彼の返答だった。彼はこう考えていた。「何をぐずぐずしているんだろう!そんなことなんかすべてことごとく償うてなおあまりある大事なことがあるのだ。生命力のあるものは、生きるために、創造するために、自らの法律を生活するために、あらゆるものをけちらかすものなのだ。それは防ぎようのないことだ」

(中略)

「僕の条理は、自分ながら重いほどの力強さを持っている。僕は必ず打勝つに相違ない。これが物事の順序だ」と。危険を一掃する完全な対策を示せと迫られると、彼は答えたものだ、「経験が法を作ってくれるはずです。法の知識が経験に先立つ必要はありません」

 

 私はこのリヴィエールの抗弁に、2021年の'Anyone'のウジのパート、"We make the rules"が重なって聞こえました。

 'Anyone'は「あなたを絶対に離さない、あきらめない」という力強い恋愛の歌にも解釈できますが、ウジのチームへの思い、そして、おそらく「成功は難しい」と言われたこともある自主制作アイドルという険しい道を進みながら、絶対に成功する、自分たちがルールを作るんだという気持ちで突き進んで来た姿勢を表したもののようにも感じられます。

 

’Anyone’には、「砂漠に舞い降りた小さな花」など、『星の王子さま』を思わせるパートもあり、サン=テグジュペリ作品への引喩がはっきりとしてきた作品であるように感じられます。

 

④音楽家的側面

 ウジはアイドルを目指す前、クラリネットを習っており、楽器演奏者の道に進もうかと考えていたそうです。また、クラリネットの他にもピアノ、ギター、ドラムを演奏することができ、時々披露してくれますよね。

 

 実は、リヴィエールにも、音楽家的側面があります。彼は楽器を弾くわけではないのですが、鑑賞者として嗜んでいる描写があります。

 

彼は、狭い道路の上空に、伝記広告の光でなかば消されて光る星の方へと目を上げながら、考えた。「今夜は、二台も自分の飛行機が飛んでいるのだから、僕にはあの空の全体に責任があるのだ。あの星は、この群衆の中に僕をたずねる信号だ、星が僕を見つけたのだ、だから僕はこんなに場違いな気持で、孤独のような気持がしたりする」

 ある音楽の一節が彼の唇にのぼった。それは、彼が友人といっしょに聞いたあるソナタの一節だった。友人たちには音楽の意味がわからなかったので、「この芸術は、君にも僕にもただ退屈なのだが、ただ君はそれを白状しないだけなんだ」と言った。

「そうかもしれない……」と彼が答えた。

 今夜と同じように、そのときも彼は自分を孤独に感じたが、すぐにまた、このような孤独が持つ美しさを思い知った。あの音楽の伝言は、凡人たちのあいだにあって、秘密のような美しさを持って、彼に、彼にだけ理解されたものだ。あの星の信号もまさにそれだ。それは、多くの肩を乗り越えて、彼にだけわかる音楽でものを言っていた

 

 この場面のほか、印象的なのは、『夜間飛行』の最後の文章です。この小説は、以下の文章で締め括られます。

 

 すでに、飛行機というこのパイプ・オルガンの歌が、天へ上りつつあった

 リヴィエールは、いま、静かな歩を運んで、自分のきつい視線の前にうなだれる事務員たちのあいだを通り、仕事が待っている支配人室へと戻る。偉大なリヴィエール、自らの重い勝利を背負って立つ勝利者リヴィエール。

 

 ここに、SEVENTEENのPOWER OF LOVEプロジェクト全体に大きく関わる「飛行機=歌」のイメージが登場しています。

 そして、リヴィエールは、空を駆けて遠い場所へと届いていくその「音楽」の指揮をとり、その勝利を背負っています。

 

 私には、まだ朝の来ない夜更けに、次の仕事に取り掛かるため「支配人室」へ向かうこのリヴィエールの姿が、彼の作業部屋である「宇宙工房」へと向かうウジと重なって見えます。

 

⑤ファビアンは雲の上、リヴィエールは飛行場で。

 前回の記事では、あまり根拠は無いものの、ウジが、POWER OF LOVEにおける『星の王子さま』のイメージの中で、ジュン扮するヒツジと重なっているのでは…というお話をしました。

 そのことと補強し合うかのかのように、『夜間飛行』のイメージにおいても、二人は対になっている可能性があります。

 

 『夜間飛行』は、三人称小説です。先ほど引用したラストの文からもわかるようにリヴィエールを中心に書かれている部分が多く、リヴィエールが主人公であると考えられますが、途中、飛行機が雲の上に昇っていく場面などでは、操縦士ファビアンが主人公となります。

 天上を彷徨うファビアンと、地上で(外側には表さないが)彼を思うリヴィエール。『夜間飛行』では、例えば以下の引用部分のように、「同舟の輩」である二人の世界が交互に描かれます。

 

 いまファビアンは、夜の雲の海のはなやかさの中をさまよってはいるが、一歩彼の足下には無窮の世界がひろがっている。彼は自分以外に住む者もない星座のあいだに迷い込んでしまった。彼は今、なおその両手のうちに、現在を握り、自分の胸とすれすれなところでそれを揺り動かしている。彼はそのハンドルの中に、人間の華麗さの重みを握りしめて、絶望的に、一つの星から他の星へと、このやがて返還しなければならないはずの宝物、生命を運んで回っている……。

 リヴィエールは考える、たぶんまだどこかの無電局が彼の声を聞いているはずだと。わずかに今ファビアンを現世につなぐものは、この音楽的な電波であり、かすかな音の高低でしかない。嘆きもない。叫びもない。あるものはただ、かつて絶望が発した最純粋な響きなる、電波だけ。

  

 ここで、私は、オンラインコンサートPower of Love(2021)でも歌われた'Network Love(2019)'や、日本シングル'あいのちから(2021)'のMVで空に電波を放っているように見えるウジや空に点在する家を繋ぐ紐を握っているジュンの姿を思い出しました。

 

'あいのちから'MVよりスクリーンショット。

 
 

 

 また、前回の記事には、POWER OF LOVEプロジェクトではディエイトとジュンがダブル主演なのでは、とも書きました。

 このプロジェクトのクライマックスとなった'Attacca'のカムバック期間中やオンラインコンサート'Power of Love'の開催時に一緒に居られない二人だからこそ、二人を主役にした、という話です。

 

 ここでひとつ、仮説を立ててみましょう。『星の王子さま』で星に帰ってしまった王子さまがディエイトなら、『夜間飛行』で雲の上に昇って戻って来なかったファビアンがジュンなのではないか、という仮説です。

 

 『星の王子さま』では王子さまとヒツジが空にのぼります。ただし、原作小説では王子さまがメインで、ヒツジはそのお供といった感じです。そして、POWER OF LOVEでは、王子さまがディエイト、ヒツジがジュンです。

 一方、『夜間飛行』では、操縦士ファビアンと、同乗の通信士が空にのぼります。こちらはファビアンを中心に描いており、通信士は台詞はあるものの名前が出てきませんが、実は、こちらの物語にも、空に昇る者は二人いるのです。

 

 もしファビアンをジュンが演じているとすれば、そのお供であるこの通信士がディエイトであり、POWER OF LOVEプロジェクトにおいては、『星の王子さま』と『夜間飛行』が、作品自体、対になるように描かれているのではないでしょうか。

 

 どちらも原作では、空に昇った二人の人物は帰って来ません。しかし、これまでの考察でお話ししてきた通り、これらの作品は、POWER OF LOVEにおいては、別れを描くためではなく、「大切な仲間たちが帰って来る物語」「離れ離れになっても、必ず再会できること」を描くために引用されています。

 

 「ヒツジ(ジュン)=空に浮かぶ白い雲や風船」のイメージも、最後の場面で雲の上に居るファビアンとも合い、ジュンがファビアンであると考えることは、証拠不十分ではありますが、納得のいく配役と言えます。

 

 そして、ディエイト扮する王子さまが帰って来ることを示すのがジョンハンならば、ジュンが演じるファビアンが帰って来ることを示すのがウジであり、だからこそ、あの'Attacca' Op.2の写真において、ジョンハンとウジは双子のように海で眠っているのではないでしょうか?

 

 また、ソロ曲がどの程度プロジェクトに関わっているのかわかりませんが、ジュンの'Fall in Love(2021)'のリリックビデオが明らかに『星の王子さま』を意識したものであることや、ホシの'Spider(2021)'の歌詞にも『人間の土地』のイメージが感じられること、ディエイトの'Side by Side (2021)'でディエイトの恋の相手がバラのイメージを纏っていることなどから、プロジェクトと全く関係が無いとは言えない気がしています。

 「グループの中の一人」とは違った個人の魅力を見せられることがソロ曲の醍醐味であり、歌詞の内容もより個人的な趣向や内面を反映したものとなっていると思われますが、そのように個人の創造性を尊重した上で、「SEVENTEENのプロジェクトと関連するキーワードやイメージも、歌詞か映像に最低一つは取り入れる」というような約束をしていたのではないかと私は推測しています。

 

 そのように考えると、ジュンの'寂寞号登机口(Silent Boading Gate)(2021)'が、ジュンが込めたその曲そのもののための意味と並行して、『夜間飛行』のイメージも持っているように思えてきます。

 飛行場の登場口に立って雲を見つめ、過去や未来に思いを馳せる孤独な語り手は、着陸できないファビアンでも、ファビアンを大切に思いながらそのことを言葉にせず夜間飛行を続行させたリヴィエールでもあるように感じられます。あるいは、夫の帰りが遅いので飛行場までやって来てリヴィエールに面会を求める、ファビアンの妻のその後を歌ったようでもあります。

 MVは恋愛映画のような仕上がりですが、ジュンはこの歌を、「時間と空間に閉じ込められ生きる私たちは皆、新たに出発するために搭乗口を探そうとする。この搭乗口は過去に行ったり未来へ向かって行ったりもする。そして夢の方向に導く」と説明しています。

 

 

 また、MVのテーマが「舞台に上がりたくない孤独なスター」だと本人が語っていたウジのソロ曲'Ruby(2022.1)'も、自身は空に飛び立たず、地上の飛行場で飛行士たちを指揮するリヴィエールと少し似た立場であると考えることができます。

 

 

 以上、私が、ウジが『夜間飛行』のリヴィエールであると考える理由でした。

 

★ ・ ・ ★ ・ ・ ★

 

 今回のウジの考察は、他のメンバーの考察と違ってSEVENTEENの作品内部に根拠を見つけることがあまりできず、単にウジのイメージに近いのはこのキャラクターだろう、ということに終始してしまったので、自分でもあまり信憑性がないなと思っています。

 ただ、The Fact Music Awards(2021)のナレーションとNEW RINGS CEREMONY(2022)より、『夜間飛行』のイメージがパンデミックに襲われた'Ode to you'に重ねられているのだろうということには確信を持っており、『夜間飛行』の主人公リヴィエールを演じるメンバーがいるとするならば、それはメンバーとしてもプロデューサーとしてもSEVENTEENを支えて来た音楽家・ウジしかいないだろう、という気がします。

 

 それを踏まえた上で、最後にもう一度、『夜間飛行』から、この記事の冒頭で引用した部分を引用したいと思います。

 

結局、彼らはすべて、同舟の輩(ともがら)であり、打勝とうとする同じ欲望に燃える人たちだった。リヴィエールは、いま思い出す、彼が夜間飛行のためにしてきた他の戦いのことを。

 

 この、彼が同じ船の船員たちとともにしてきた戦いとは、ウジにとって、何でしょうか。その最初の勝利は、どこにあったでしょうか。

 

 私は、ウジがいまどんな戦いを振り返っているのかと考える時、'Attacca(2021)'のOp.1と'Ruby(2022)'のコンセプトフォトで、彼が水を飲んいたことを思い出します

 

[画像2,3]

 

 夜明けに水を飲みながら

一人で誓うんだ

明日こそ必ず伝える

喉まで出かかって引っ込んでしまった言葉

君は綺麗だ

ーSEVENTEEN ‘Pretty U’(2016)

 

SEVENTEENが初めて一位を取った日のパフォーマンス。以下、パフォーマンスの画像はこの動画より。

 

 彼らは2016年に、‘Pretty U’で初めて1位を獲得しました。

 

 その後ほかの曲でもたくさんの1位を獲得しましたが、2021年は、SEVENTEENが事務所と結んだ最初の契約が満了する、いわば彼らの第一楽章が終わる特別な年でした。

 

 プロジェクトの準備を始めた2020年には、まだ全員で再契約できる確信も無かったかもしれません。

 

 でも、だからこそ、SEVENTEENは2021年に、『星の王子さま』を持って踊った少年時代の「夜明け」である‘Pretty U’を全員で思い起こしながら、 青年時代の新たな夜明けを目指してともに歩みたいという願いを、プロジェクトを通して表現しようとしたのではないでしょうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 私は当時まだ彼らのことを知らず、残念ながらこの頃のSEVENTEENは映像で見ることしかできないのですが、この頃から彼らを応援している方にとっては、これはどんなに大きな思い出であることでしょう。
 後から見た私でさえ、普段はきりりとした印象のウジがジュンの肩にもたれて顔を上げられないほどに泣いているこの姿を見ると、彼にとってこの勝利がどんなに大きな意味を持っていたのか、彼らがそれまでどんなにひたむきに走ってきたのかが、少し、わかるような気がします。
 

一位を発表された時のようす。受賞の瞬間の画像はこの動画のスクリーンショットです。

 
 以上、今回の考察は、ウジが『夜間飛行』のリヴィエールを演じているという説についてでした!
 次回は、ホシについて書き、この考察の最終回としたいと思っています。


ベストプロデューサー賞受賞、

改めておめでとう! 

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