今日のお昼は、
‘立ち食いそば’だった。
「お客さん!はい、天玉うどん!」
30代前半くらいだろうか、
昔、一世を風靡した『キョシンシーズ』に登場する「スイカ頭」のような容貌の彼は、
元気に、
ニコっと笑いながら、
それを差し出してくれた。
「今揚がったばっかりなんで、うまいですよ!」
なんて素晴らしい接客であろう。
立ち食いソバ屋さんは、客との実質的な会話がほぼない。
ほとんどの店のほとんどの従業員が、
余計な言葉を交わさないスタイルで接客を行っている。(方針によって、そうしている。)
その中で、
こういう食欲をそそる、
気の利いた一言をヒョっと添えることができるのは、
出来そうで出来ない、尊い接客スキルだと思う。
が、
残念だったのは、
彼の上の歯に2つ、
下の歯に1つ、
つまり計3つ、
堂々とニラがはさまっていたことである。
余裕で唇からはみ出る程のなが~いニラが、
色鮮やかに顔をのぞかせ、
まるで歯にネイルアートを施したかのようだ。
「いらしゃい!」
彼がそう叫ぶたび、
風になびく、どこかの国の国旗のように、
真緑のニラは激しく揺れている。
「彼に教えてあげたほうが良いのだろうか?」
そばを食しながら、
俺はすごく悩んでいた。
「余計なお世話になるだろうか?
頑張っている彼を傷つけてしまうだろうか?
それとも、
教えてあげないことのほうが不親切極まりない行為になるだろうか?」
せっかく揚げたてだった天ぷらは、
汁を吸って、お椀の底へ沈んでしまった。
「いや・・・・・きっと、彼は受け入れてくれる。
彼ほどの士気の高い従業員であるなら、
指摘されたことを受け入れてくれるはずだ!
不快な思いもしないだろうし、
失礼な態度も取らないだろう。
むしろ喜ぶだろう!
よし!教えてあげよう!」
決意の証に、
つゆを飲み干し、
いざ彼のもとへ!
「あ、あ、あのぉ!」
「はい~?!」(笑顔で)
でも、もう、
ニラ3兄弟はそこにはいなかった。