人気のない家族待合室でポツンと座っていたら
次から次に別の看護師さんがやってきて
日常の暮らしぶりやアレルギーの有無、常用していた薬の有無、
家族の症病歴、当日の様子、倒れた時間など
いろんなことを尋ねられる。
同時に、いろんな承諾書にサインさせられる。
「なるほど…これって一緒に暮らしてなければ
わからんことだらけだよなぁ…」と、妙に感心しつつ
治療に役立つ情報がひとつでもあればと
せっせせっせと答えていく。
でも
「どんな様子ですか?」と聴いても、どの看護婦さんも
「後ほど先生からご説明差し上げます」と言うだけ。
やきもきしていたら、何人か目の人(今考えると、ドクター?)が
「左脳の真ん中に6×6×4センチの出血があります」と答えた。
瞬間、絶句する。でかい…。とたんに生死が頭をよぎる。
「もうしばらくお待ち下さい。担当医から説明があります」
ただ「倒れた」だけではかえって不安にさせると思い
少なくとも病名と状況を見てから…と思って控えていた、
親友夫妻とカカの両親へ電話を入れる。
彼らが飛んできた頃、担当医に呼ばれた。
病名は『左被殻内出血』。
出血量は確かに多く40cc。30cc以上は手術する場合が多いが
搬入時の反応の状態を見れば、手術はしなくてもいいのではないか。
もちろん今後悪化すれば、救命の意味でも手術が必要になるが。
との所見に一同ホッとする。
同時に予想される障害について説明があり
場所と出血量からいって、
言語障害、失語症、感覚障害、右半身の麻痺が残るのは
ほぼ間違いないでしょう、と伝えられる。
頭の中で「料理教室はキャンセルだな、すぐ全員に連絡しなきゃ」と考える。
「会えますか?」と尋ねると「どうぞ」と言われ
一同、ベッドサイドに集まる。
カラダのあちこちに管がつながれ、口には人工呼吸器。
みんな三々五々に呼び掛けるが、応答はない。
「おかーさん、もう大丈夫だよ、ゆっくりおやすみ」と囁いて
額や眉間や瞼にキスをする。
両親が見ている前でも、へっちゃらなんだな、こういう時って(笑)。
待合室に戻っていろいろと話す。
「あのコは太く短い人生やったねぇ…」 おいおい!まだ生きてるって!
「あんなによぉしゃべるヤツが
しゃべられんようになって…もう、ワヤや…」 おいおい!まだわからんって!
老いた両親は悪い方に考えが及ぶらしい。
それよりも何よりも、私の脳裏には大きな懸案があった。
健康保険が、ないのだ。
ICUは高度医療。自費だと一体いくらかかるというのか…。