私は中学に入学した後、なかなかクラスになじめなかった。


あんまり積極的にいくようなタイプじゃないし、「親友」っていえる友達もいなかった。


でも、


「ねぇねぇ、河西みなみさんだよね?私、谷垣里梨っていうの。


 このクラス、あんまり仲いい子いないからさ、仲良くしてくれない?」


って、一番初めに里梨が声を掛けてきてくれた。


「うん、もちろん!よろしくね!」


めちゃくちゃ嬉しかった。


なのに・・・。


今は・・・・。


悲しすぎるよ―――・・・。



チャイムがなり、クラス中が動き出す。


私は里梨の所へ行こうとしたけど、沙弥達と楽しそうに話していた。


(里梨って、沙弥達と仲良かったっけ・・・?)


沙弥は、小学校が同じだったけど、あんまり気が合わないし、しかも気が強いから、苦手だった。


だから私は沙弥達とはあまり話さない。


ちなみに、「達」ってついているのは、もう1人、沙弥といつも一緒にいる、朝美のこと。


朝美は、いつもベタベタと沙弥にくっついている。


本当に仲がいいんだと思うけど、ウワサでは、


『沙弥が怖いから、一緒にいれば自分のことは悪く言われたりしないだろう』


って思ってるとか。


里梨も、そうなのかな・・・・。


それとも、小塚さんのことで私から離れたの?


もちろん、里梨以外にも仲いい子はけっこういて、昨日も普通に楽しく話していた。


でも、今日は誰も来ない。


みんなが、私を避けている。


「ねーねー里梨ってさぁ、ヤバイ人と仲良かったよねー」


沙弥が少し大きな声で言う。


多分、クラスの3分の2は聞こえたと思う。


「そーなんだよねー。この前までは親友だと思ってたんだけど。」


「だよね。犯罪者でしょ?」


私だ。


私のことだ。

「小塚さんは昨日、先生に頼まれて倉庫へ行きました。


 その時、1人じゃ大変なので、副部長の河西さんも一緒に行きました。


 そして、河西さんがトイレに行っている間に、小塚さんの頭上に、重いものが入った段ボールが数個落ちてきました。


脚立に乗っていた小塚さんは段ボールが頭に当たり、脚立から落ち、頭を強く打ったと考えられています。


河西さんが帰ってきたときには、小塚さんはすでに倒れていたそうです。」


先生は、LHRでこのように切り出した。


「じゃあ、河西さんが倉庫を出なかったら・・・彩乃は助かったんですか!?」


「もしかして、わざと倉庫をでたとか・・・?」


ざわざわし始める。


「いいえ、河西さんは関係ありません。」


「でも!もし河西さんがその時にいたら・・・」


「佐々木さん。これは事故なんです。誰かが意図的にやったものじゃないんです。」


先生はそう言ってくれたけど、佐々木さんは私を睨んでいる。


きっと、不満があるんだろう・・・。


でも、私は悪くない・・・・・よね・・・・・。

先生と私は、生徒指導室へ入った。


こんなところ、初めて入った。


「河西さん、そこに座って」


ふかふかの、エンジ色の2人がけのソファーに座った。


「いきなりなんだけど、昨日私が2人に荷物運びを頼んだ後、何かあったの?」


やっぱり、予想通りだ。


「倉庫についてすぐ、私はトイレに行ったんです。

 

 戻ってきたときには、小塚さんはもう・・・・」


これ以上、言葉にできなかった。


「そっか・・・・。正直に話してくれてありがとう。


 もうすぐ1時間目が始まるから、教室に戻りなさい。」


かなり短かったけど、先生はどう思ったんだろう。



「先生・・・彩乃は、昨日学校に来てたじゃないですか。」


立ち上がったのは、小塚さんと仲のよかった佐々木さん。


「亡くなったのは、夕方です。遺体が発見されたのは、吹奏楽部倉庫です」


「校内で!?」


クラス中が騒ぎ出す。


「落ち着いてください。今日は2時間目に学年集会、3時間目にLHRがあります。

 

 詳しいことは、その時間に話します。」


そう言って、教室を出て行った。


みんな、それぞれのグループに分かれていく。


里梨のところへ行こうとした時、教室の戸を半分あけ、


「河西さん。ちょっといいかしら?」


先生が顔を出し、私を呼んだ。


「あ、はい」




「あれ、みなみは?」


「あぁ、なんか先生に呼ばれてた。」


「なんでだろ」


「そういえば!昨日部活終わった後、里梨はすぐに帰っちゃったけど、部長の彩乃と副部長のみなみが先生に頼まれごとして、倉庫に行ってたよ!」


「じゃあ、そのことで呼ばれたってわけ?」


「そうだとしたら、みなみが彩乃を殺したの・・・?」

「おはよー」

いつものように教室に入った。

(違う)

何かが違う。絶対に違う。

ほとんどの女子が泣いている。いつもにぎやかな男子も静かだった。


とりあえず、自分の机に座った。


ぐるっと教室を見渡してみると、小塚さんの机の上に、花が置かれていた。


(もしかして・・・)


「ねぇ里梨、何があったの?」


おそるおそる聞いてみた。だいたいの理由は分かってるけど。


「見てわかんないの!?小塚さんが・・・亡くなったんだよ・・・」


いつもの元気な里梨とはちがった。


その時、先生が入ってきた。みんなが席に戻っていく。


担任は、吹奏楽部の顧問の平松先生。


「HRを始める前に、悲しいお知らせがあります。


 昨日、小塚さんが亡くなりました。」


先生も、いつもとは違った悲しい声だった。


そのとき、ガタッと音をたて、誰かが立ち上がった。

いつの間にか、倉庫を飛び出していた。


(どうして・・・・。私のせいなの・・・?)


「あら河西さん。終わった?ありがとう」


平松先生の声で、やっと自分が昇降口にいることが分かった。


「あ・・・・、はい」


とっさにウソをついてしまった。


「ありがとう。助かったわ」


そう言って、職員室へ入っていった。


これから、どうしたらいいんだろう。


すでにパニックになっていた。


走って家へ帰った。



家が一番落ち着くはずだったのに、今日は落ち着かない。


里梨とのメールも、昨日みたいに楽しくない。


録画しておいた番組も、大好きなマンガを読んでも。


明日、どうすればいいんだろう。


不安で、心配で、お腹が痛くなってくる。


明日、学校になんか行きたくない。

トイレから戻り、倉庫へ入った。


「ごめん小塚さん、もう終わっちゃった?」


しかし、返事はない。


倉庫の電気は点いたままだったから、多分まだ中にいるだろう。


「小塚さん?」


でも、返事はなかった。


最近使ってないため、電球の数を減らされていた。


そのため、薄暗く、3m先くらいまでしか見えない。


うろうろしていると、何かがつま先に当たり、「コン」という音がした。


それは、段ボールだった。


しかし、乱雑に積まれており、人が置いたものとは思えない。


何か、嫌な予感がする。


そっと段ボールをどけていく。


目の前が、真っ暗になった。



「小塚さん、河西(かさい)さん、ちょっと手伝ってくれる?」


部活終了後、吹奏楽部部長の小塚さんと副部長の私は、顧問の平松先生に呼ばれた。


「これを吹奏楽部倉庫に置いてきてほしいの。頼める?」


「分かりました。」と快く引き受けた。


でも、小塚さんとは今年同じクラスになったのが初めてて、あまり話したことがなかった。


1人でいるのを見たことがないくらいクラス(いや、学年?)の人気者の小塚さんと、

自分なんかが話していいのかなって思っていた。


そして、しーんとしたまま、倉庫についた。


この倉庫は、吹奏楽部の使わなくなった楽器や、今までの楽譜、楽器の手入れをする道具などがたくさん置いてある。


でも、最近は全然使ってないせいで、ちょっとほこりっぽい。


荷物を降ろした後、


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」


「うん、分かった」


そう言って、私は倉庫を出た。


トイレは近いから、すぐに戻れる。


でも・・・。


この瞬間に、私の幸せが消えたんだ。

「みーなみっ!おはよーっ!!」


「里梨(さとり)!おはよー」


「ねぇ、昨日のあのドラマ見た??」


「見た見た!チョーおもしろかったー!」


数日前。親友の里梨との会話。


こんな風に楽しいの、当たり前だって、ずっと思ってた。



その日の部活。ちょっと熱っぽいけど、出席した。


「みなみ、無理しないで」


っていろんな人に言われたけど、休んでみんなから遅れるのは大嫌い。


でも・・・。やっぱり、休んだらよかったんだ。