帰りに小塚さんの家に行ってみよう。


帰り際に、ふと思った。


小塚さんが亡くなって、もうすぐ1週間。


小塚さんの両親に、謝っておきたい。


こんなこと、『自分は犯罪者だ』って認めるみたいだから、ちょっとためらった。


でも、話がしたい。


先生が書いた地図を片手に歩き回り、ようやく着いた。


ピンポーン


一軒立ての、庭の広い家だった。


「はーい」


戸が開き、とても優しそうな女性がでてきた。


(この人が小塚さんのお母さん・・・)


でも、どこか悲しそうだった。


「小塚さんと同じクラスだった、河西みなみです。


 お話しさせていただいてもいいですか?」


「えぇ、どうぞどうぞ。上がって。」


廊下を進んでいくとリビングがあり、そこを通り抜けると和室があった。


その奥には、仏壇があった。


笑顔の小塚さんが写っている。


「親よりも早く逝っちゃうなんてね・・・。」


そういった小塚さんのお母さんの頬を、一粒の涙がつたっていた。



「あ・・・秋本さん。さっきは・・・ありがとう・・」


「ううん、ずっと思ってたことが言えて、私もスッキリしちゃった。」


秋本さんって、何でこんなに明るくて、優しいんだろう。


自分の席に戻りながら、ふとそう思った。




「なんなの、秋本さん。そんなに河西のこと守りたいわけ?」


「沙弥は正しいこと言ったのにね。」


「ねぇ、里梨はいないの?」


「教室じゃない?うちらについてこなかったし。


 なんか里梨もよくわかんない。本当にうちらのこと好きなのかなって。」


「もうマジでいろんなことがムカツク。なにかスッキリする方法ないかな――」




「なんなの・・・・・」


突然誰かがつぶやいた。


「なんでそんなに簡単に『死ね』って言えるの!?おかしいじゃない!


 自分が言われたらどう思うの!?言われた人の気持ちも考えてみてよ!


 それに、最近の河西さんに対するその態度、意味わかんないよ。


 河西さんがどれだけ苦しんでると思ってるの!?」


そう叫んだのは、さっきまでじっと話を聞いていた秋本さん。


大声なんて出すイメージのないような、ふんわりした感じの子。


「なに、秋本さん。犯罪者の味方するんだ。あっ、もしかして、共犯者?」


「河西さんは犯罪者なんかじゃない。犯罪者は、あなた達のほうじゃないの?」


沙弥達にずばずばと言う。


かっこいい。


それに比べて私は・・・。


いつも逃げてばかりだった。立ち向かったことなんて、なかったかも。


「ふん、でも河西みなみは小塚さんを殺したのよ?


 正真正銘の犯罪者じゃない。」


「殺してない。あれは事故なの。河西さんは悪くない!」


数秒間、沈黙になった。


「あーあ、しつこいなぁー。


 もう飽きちゃった。おもしろくねーなー。」


そういって、教室を出て行った。


その後ろを、朝美がパタパタとついて出て行った。


「ふー」と大きくため息をつき、秋本さんは席へ戻っていった。


その時の秋本さんは、すごく輝いて見えた。


「ねぇ、マジで死んでくれないかなぁ?」


沙弥が言った。


「本気でうざいんですけど。消えてよ。今すぐにさ。


 そこから飛び降りなよ。楽になるよ?」


ベランダを指差した。


ドンッと押された。よろけて、窓の近くへ。


「ほら。早くしなよ。」


じりじり近寄ってくる。


「死ね。」


窓が開けられた。それも、里梨の手によって。


ここは3階。


しかも、下は駐車場で、アスファルトだ。


落ちたら、命の保障はない。


再び押され、ベランダへ出た。


ベランダの塀は、高さは私の胸のあたり。


イヤだ。


こんな終わり方なんて、絶対に。


でも・・・・・・・。


ダメかも。

私はそのまま気を失っていたらしい。


意識が戻り、がばっと起き上がった。


クラス中の視線が痛い。


それまではにぎやかだったのに、しーんと静まり返っている。


「あっれ、河西さんどうしたのー?


 里梨を殴った後、気絶してたけどぉー?」


憎たらしく、沙弥が言う。


「えっ!!殴ったの!?」


「それってヤバイじゃん!」


ざわざわしはじめる。


「違う!やってない――」


「なにウソついてんの。サイテーだな」


沙弥は、私の悪いウワサを学校中に広めたいんだろう。


ありもしないことを勝手につくって広めるつもりだ。


「私は殴ってない。この制服をみて気付かないの?」


紺色のセーラー服は、お腹を中心に真っ白になっていた。


「竹森さんたちに、黒板消しでお腹を叩かれたんだ。


 私は何もしてない!」


必死で対抗した。けど・・・


「人のせいにするの!?私は河西さんに殴られたのに!」


沙弥がうそなきを始めた。


私に味方なんて、やっぱいないのかな。






「さーてと、やろっかー」


沙弥たちが私の周りに集まってくる。


手には、チョークで真っ白になった黒板消し。


「やっ――・・・」


教室を出ようとしたけど、思いきりお腹を黒板消しで叩かれた。


「何逃げようとしてんの?あんたはこれくらいされて当たり前なんだから!」


朝美に体を抑えられ、動けない。


息苦しい。どんどん目の前がボヤけていく。


私、もう終わりなのかな。

「みなみ・・・ひどい・・・」


いつの間にか、横に里梨が立っていた。


「私とおそろいだったのに・・・。一緒がイヤなの・・・?」


半泣きになっている。


多分、というか絶対、ウソ泣きだ。


「これは私じゃなくて――」


「うっわ、なにこれ!バラバラじゃん!」


沙弥と朝美も来ていた。


「あれ、これって、里梨も持ってなかったっけ・・・」


沙弥がつぶやいた。


「うん・・・。私と、おそろいだったのに・・・。みなみが、わざと壊したの・・・。」


「違う!里梨はウソ言ってる!」


そう反抗した。


「ウソ言ってんのはあんたでしょ?里梨はウソなんか言わないから。


 犯罪者のことなんか、誰も信用しないんだよ!」


でも、聞いてくれるわけなんかなかった。


「みなみ・・・。信じてたのに・・・・。」


里梨が泣き出した。


「裏切り者。」


沙弥が私を睨みながらそう吐き捨て、教室の隅へと行った。



チャイムが鳴り、みんなが席に着いた。


里梨は、ケロッとしている。


やっぱり、ウソ泣きだったんだね。


もう、誰も信用できない。


どうせ、信用してくれない。




「人殺し!あんたが死ねばいいじゃない!」


沙弥の顔は、笑い顔半分、残りの半分は真顔だった。


これが、今起きてること。現実なんだ。


「だから私は――」


「犯罪者は黙ってろ!」


そういったのは、里梨だった。


「沙弥、これいいんじゃない?」


沙弥と仲いい、朝美が何かを持ってきた。


黒板消しだ。


さっき、係の人が、黒板を消したばかりだ。


「いーじゃん、やってやりなよ」


朝美が一瞬ニヤッと笑ったと思うと、目の前が真っ白になった。


「ケホッ、ケホッ・・・」


苦しい。


「何これ、チョー楽しいじゃん!もっとやろーよ!」


体に投げつけられる。


息ができない。吸うと、のどがヒリヒリと、痛く、熱い。


しばらくすると、粉が減った。


「あーあ、もう終わりかぁー。つまんねーなー。次もやろっかぁー」


「もし先生になんか言われたら、『黒板消してました』って言えよ」


そう念を押したのも、里梨だった。


(前はもっと優しかったのに・・・)


席に着くと、ペンケースにつけていたキーホルダーがなくなっていた。


しかし、すぐに無残なすがたで見つかった。


クローバーの4つの葉が、ばらばらになって、机の上に置かれていた。


沙弥たちがやったとしか思えない。


里梨とのおそろいのキーホルダーだったのに・・・


水色の葉は、私の涙のように見えた。