本日の懐かしのホラー映画は、「盗まれた顔」(1952)。

ただ、人間と言うものは、そう簡単に変われるものではありません。昔の悪習(盗癖)が抜けないリリーは、玉の輿に乗ったにも関わらず、盗みを続け、その尻拭いをフィリップがする羽目になってしまうのでした。
ハマーフィルムが製作したモンスターが登場しない作品になります。
(殆どホラーの要素ないのですが、ホラービデオカタログに掲載されている為、ホラーの括りとして紹介しています。)

フィリップ・リターとジョン・ウィルソンは、2人で開業医をしていました。
貧しき人には無償で診療を行う傍ら、人間の皮膚を移植する研究を密かに行っていました。中には、権力者の身内である事を傘に着て施術を要求する者も居ましたが、金儲けが目当てではなかったので、対象者は選んでいました。
フィリップ達は、ホロウェー刑務所へと向かいます。
そこには、新しい女性の囚人が収監されたと聞かされます。
新しい囚人リリーは、空襲で顔に酷い火傷を負った事が原因で心が荒んでしまい、窃盗などを繰り返す前科8犯でした。フィリップ達は、彼女を被検者にしようと考えます。
フィリップは、休日宿泊先で隣部屋になったピアニストのアリスと知り合い、2人は瞬く間に恋仲となります。滞在期間を延ばし、ギリギリまで幸せな時間を過ごす2人。しかし、アリスにはピアニストとして次の目的地へ移動しなければならない時がやって来ます。
離れ離れになる前に・・とフィリップは、アリスに結婚を申し込みます。
既に婚約者の居たアリスは、その事実を告げる勇気が持てず、ただフィリップのプロポーズを拒むのでした。
アリスから距離を取られ、失意のまま現実の世界に戻ったフィリップは、リリーの新しい顔の創作に着手します。
美しい顔として真っ先に浮かんだのはアリスの顔だったフィリップは、アリスと瓜二つの顔をリリーに移植し、アリスの替わりとして愛そうとします。
リリーも新しい顔と人生を手に入れ有頂天になり、2人は周囲の反対を押し切って結婚をします。
顔を替えただけでは人の本質が変えられないと知り、失意のフィリップの前に、婚約を破棄したアリスが現れるのでした。
今の技術があったら、顔を移植するシーンが盛り込まれたかと思いますが、1950年代の作品の為、グロテスクな顔の手術シーンはありませんでした。
顔に纏わる映画で真っ先に思い浮かぶのは、「顔のない眼」「フェイスレス」、そして狂気としては突出している「狂ったメス」でしょうか。
共通しているのは、愛する対象の為に狂気に走る男が主人公と言う点です。
本作のフィリップは、そこまで狂気には走っていませんが、自分が結ばれたいと願った相手の顔を別の人物に付けて、本命の「替わり」として愛そうとした点では共通しています。愛ゆえに暴走した人々の物語と言えますね。
自分の顔を無断で使用されてしまった女性の側からしても心境は複雑かと思います。
自分の顔を他人に植え付けて好き勝手して・・と激怒する気持ちは当然あるでしょうし、その反面 そこまで自分の事を想ってくれたのか・・と嬉しい気持ちもあろうかと。ただし、後者に関しては、相思相愛の場合であって、そうでない場合は無断で使用して・・の一択になると思います。(;'∀')
物語のヒロイン・アリス役と整形後のリリーをアメリカの俳優リザベス・スコットが見事に演じ分けていました。今ならCGで処理できますが、当時は2人同時に映るのは物理的に難しいので、片方は頭部を映して別の俳優さんが演じる形を取っていました。
幾ら、見た目だけ同じに真似ても、人の内面までは同化させる事は出来ません。
人間、そう簡単には変わらないと思う一方、本人が必死に努力すれば、変えられる部分もあると思います。色々と制約のある世の中ではありますが、可能な範囲で新しい人生をやり直す事だって出来ると思います。その道のりは、決して容易ではないかも知れませんが。そんな事を本作を観て思ったのでした。
かく言う自分は、コレクター道から抜ける事は最早出来ないので、リリーの様に抜けられないタイプの人と言う事になります。困ったものです。
まっとうな人生は、パラレルワールドの自分に託したいと思います。
(こんな古い映画の話をして、最後にマルチバースかい!)
残念ながら、本作はVHS止まりで、今は視聴困難な作品となっています。
顔に纏わる映画としては、「狂ったメス」がお勧めです。
ホラービデオカタログに未掲載作品ですが、いずれ紹介予定のタイトルです。