追憶
肌を刺すような寒さの中にも、
少しずつ春の訪れを感じ始める3月。
制服の上から羽織ったコートのポケットに手を入れて、
空を仰ぎ、口を開けると
柔らかくちらつき始めた粉雪が、
そっと落ちてきて溶けるのを感じた。
成海は卒業証書を片手に持ったまま、
友人たちの卒業祝いの誘いを断ってでも、
行きたいところがあった。
瞬が通っていた、今は涼の通う、そして、
来年、自分が通うだろう大学。
瞬がまだ生きていた頃、
何度か遊びに行ったことがあった。
学祭の時、瞬は、学友たちに囲まれて 笑っていた。
そして、成海と涼を見つけると、 ホットドッグを持ってきて、
「いらっしゃい。これ、うちの店の。おごってやるよ。」と
言って、成海と涼にホットドッグを手渡して、優しく微笑んだ。
成海は、久しぶりに会う瞬の笑顔が嬉しくて、
照れくさそうに笑って、「ありがとう。」と言った。
夕方の大学構内は、人もまばらにしかいなかった。
成海は、寒さを増した風に身震いしながら、
コートのポケットに手を突っ込んで、
そばの柵に腰掛けた。
目をつぶると今でも鮮明に浮かぶ
瞬の優しい笑顔。 目を開けると、
そこに瞬がいて笑っているように感じた。
少しずつ春の訪れを感じ始める3月。
制服の上から羽織ったコートのポケットに手を入れて、
空を仰ぎ、口を開けると
柔らかくちらつき始めた粉雪が、
そっと落ちてきて溶けるのを感じた。
成海は卒業証書を片手に持ったまま、
友人たちの卒業祝いの誘いを断ってでも、
行きたいところがあった。
瞬が通っていた、今は涼の通う、そして、
来年、自分が通うだろう大学。
瞬がまだ生きていた頃、
何度か遊びに行ったことがあった。
学祭の時、瞬は、学友たちに囲まれて 笑っていた。
そして、成海と涼を見つけると、 ホットドッグを持ってきて、
「いらっしゃい。これ、うちの店の。おごってやるよ。」と
言って、成海と涼にホットドッグを手渡して、優しく微笑んだ。
成海は、久しぶりに会う瞬の笑顔が嬉しくて、
照れくさそうに笑って、「ありがとう。」と言った。
夕方の大学構内は、人もまばらにしかいなかった。
成海は、寒さを増した風に身震いしながら、
コートのポケットに手を突っ込んで、
そばの柵に腰掛けた。
目をつぶると今でも鮮明に浮かぶ
瞬の優しい笑顔。 目を開けると、
そこに瞬がいて笑っているように感じた。
涼
僕は2年前、成海に告白をした。
ずっと、子供の頃から成海だけを好きだった。
ひとつ年下で、妹のように思っていたはずの成海を
いつから意識しだしたのかは覚えていないけれど、
気付けば成海を女の子として見るようになっていた。
たまたま一緒になった学校からの帰り道、
突然の僕からの告白に成海は驚きながらも、
小さく頷いてくれた。その日からの毎日は
輝くほどに楽しいものだった。成海の笑顔を見るだけで
幸せだった。だけど、成海が僕のことを好きじゃないことに、
僕は次第に気付くようになった。
成海が僕を通して別の人物を見ていることに僕は気付いてしまった。
そして、僕はもうずっと前から知っていた。
その別の人物が、僕と同じように小さな頃から
成海のことを好きだということを。
兄貴が死んでしまった日、成海は、
兄貴の恋人を見つめて、静かに泣いていた。
あれから、一年の月日が流れた。
もう2度と楽しかった幼い頃の3人に戻ることは
できなくなってしまった。
僕たちは、いつの日か一緒にいても
話をすることができなくなっていた。
成海は今年、高校を卒業し、兄貴の通っていた、
今は僕の通う大学へ入学する。
肌寒い季節は、ゆっくりと新しい息吹の目覚める季節へと
移り変わっていく。
僕たちもいつか変わることができるのだろうか?
ずっと、子供の頃から成海だけを好きだった。
ひとつ年下で、妹のように思っていたはずの成海を
いつから意識しだしたのかは覚えていないけれど、
気付けば成海を女の子として見るようになっていた。
たまたま一緒になった学校からの帰り道、
突然の僕からの告白に成海は驚きながらも、
小さく頷いてくれた。その日からの毎日は
輝くほどに楽しいものだった。成海の笑顔を見るだけで
幸せだった。だけど、成海が僕のことを好きじゃないことに、
僕は次第に気付くようになった。
成海が僕を通して別の人物を見ていることに僕は気付いてしまった。
そして、僕はもうずっと前から知っていた。
その別の人物が、僕と同じように小さな頃から
成海のことを好きだということを。
兄貴が死んでしまった日、成海は、
兄貴の恋人を見つめて、静かに泣いていた。
あれから、一年の月日が流れた。
もう2度と楽しかった幼い頃の3人に戻ることは
できなくなってしまった。
僕たちは、いつの日か一緒にいても
話をすることができなくなっていた。
成海は今年、高校を卒業し、兄貴の通っていた、
今は僕の通う大学へ入学する。
肌寒い季節は、ゆっくりと新しい息吹の目覚める季節へと
移り変わっていく。
僕たちもいつか変わることができるのだろうか?
最後の言葉
瞬は、私に一通だけ手紙を残してくれた。
それは、彼の死後に彼の机の引き出しから見つかったものだった。
自分の愛する家族と私だけに彼は手紙を残してくれた。
その手紙は、まるで自分が生まれてきたことは
間違いだったのだというような内容のものだった。
そして、家族へ向けた手紙と私へ向けた手紙の両方の文章の終わりには、
『悪いのは僕です。雪を責めないで下さい。』
と書かれていた。涙が止まらなかった。
とても優しい人だった。彼を本当に愛していた。
だからこそ、許せなかった。そして耐えられなかった。
私は、最後の夜、電話で別れを告げた。
そして、その電話を最後に彼はこの世から消えてしまった。
今でも、耳の奥に残っている。彼の最後の言葉。
『忘れないで・・・。』
それは、とても悲しい声だった。
一年経った今も忘れられずにいる。
できることなら、もう忘れてしまいたいのに・・・・・。
それは、彼の死後に彼の机の引き出しから見つかったものだった。
自分の愛する家族と私だけに彼は手紙を残してくれた。
その手紙は、まるで自分が生まれてきたことは
間違いだったのだというような内容のものだった。
そして、家族へ向けた手紙と私へ向けた手紙の両方の文章の終わりには、
『悪いのは僕です。雪を責めないで下さい。』
と書かれていた。涙が止まらなかった。
とても優しい人だった。彼を本当に愛していた。
だからこそ、許せなかった。そして耐えられなかった。
私は、最後の夜、電話で別れを告げた。
そして、その電話を最後に彼はこの世から消えてしまった。
今でも、耳の奥に残っている。彼の最後の言葉。
『忘れないで・・・。』
それは、とても悲しい声だった。
一年経った今も忘れられずにいる。
できることなら、もう忘れてしまいたいのに・・・・・。
風音
こんな季節はずれの時期に墓地を訪れる人間はいないようで、
高台にある彼の墓は冷たい北風の音の中、静かにひっそりとたたずんでいた。
僕は手にした黄色い菊の花を供えて、手を合わせた。
あまりにも若すぎる年齢で人生を終えてしまった友人のことを思い、
想像の及ばない死後の世界で彼が幸せでいることを心から願った。
静かに目を開けて立ち上がったとき、冷たい一陣の風が通りすぎた。
背後に人のいる気配がした。振り向いた先に立っていたのは、
長い黒髪のきれいな女性だった。新聞紙にくるまれた菊の花を抱いたその女性は、
誰もいないはずの墓地でひとり手を合わせていた僕の姿に驚いているようだった。
彼女には見覚えがあった。彼女は墓地に眠る友人の恋人だった。
校内で何度か見かけたことがあった。少し愁いを帯びたように微笑む女性だった。
廊下で肩を並べて話をしている友人とその女性を見かけるたびに、
言い表せない違和感を感じた。
“心ここに非ず”
二人は寄り添って笑い合っていたが、 なぜか、僕には、
二人の気持ちがとても遠くにあるように感じた。
そして、多分二人とも、それを暗黙のうちに理解しているようであった。
彼女はゆっくりと僕の目の前へやってきて、
「こんな時期に墓参りに来る人なんて、私ぐらいだと思ってた。」
と言って微笑んだ。痛いほどに寂しい笑顔だった。
彼女は、花を生けながら、背中で小さく呟いた。
「ありがとう。」
そして、また一陣の北風が通り抜けた。
その風音に紛れるように僕の耳に寂しげな声が響いた。
その声は、とても近くにいるように感じて、僕は思わず振り向いた。
けれど、そこには整然と並ぶ墓がたたずんでいるだけだった。
驚いてあたりを見回している僕を振り返って、彼女は、
「どうしたの?」
と不思議そうに問いかけた。
僕は、苦笑しながら、「なんでもないよ。」と答えた。
墓地で聞いた声は気のせいだったのかもしれない。
彼女の心に呼応した北風が嘆いた声だったのかもしれない。
高台にある彼の墓は冷たい北風の音の中、静かにひっそりとたたずんでいた。
僕は手にした黄色い菊の花を供えて、手を合わせた。
あまりにも若すぎる年齢で人生を終えてしまった友人のことを思い、
想像の及ばない死後の世界で彼が幸せでいることを心から願った。
静かに目を開けて立ち上がったとき、冷たい一陣の風が通りすぎた。
背後に人のいる気配がした。振り向いた先に立っていたのは、
長い黒髪のきれいな女性だった。新聞紙にくるまれた菊の花を抱いたその女性は、
誰もいないはずの墓地でひとり手を合わせていた僕の姿に驚いているようだった。
彼女には見覚えがあった。彼女は墓地に眠る友人の恋人だった。
校内で何度か見かけたことがあった。少し愁いを帯びたように微笑む女性だった。
廊下で肩を並べて話をしている友人とその女性を見かけるたびに、
言い表せない違和感を感じた。
“心ここに非ず”
二人は寄り添って笑い合っていたが、 なぜか、僕には、
二人の気持ちがとても遠くにあるように感じた。
そして、多分二人とも、それを暗黙のうちに理解しているようであった。
彼女はゆっくりと僕の目の前へやってきて、
「こんな時期に墓参りに来る人なんて、私ぐらいだと思ってた。」
と言って微笑んだ。痛いほどに寂しい笑顔だった。
彼女は、花を生けながら、背中で小さく呟いた。
「ありがとう。」
そして、また一陣の北風が通り抜けた。
その風音に紛れるように僕の耳に寂しげな声が響いた。
その声は、とても近くにいるように感じて、僕は思わず振り向いた。
けれど、そこには整然と並ぶ墓がたたずんでいるだけだった。
驚いてあたりを見回している僕を振り返って、彼女は、
「どうしたの?」
と不思議そうに問いかけた。
僕は、苦笑しながら、「なんでもないよ。」と答えた。
墓地で聞いた声は気のせいだったのかもしれない。
彼女の心に呼応した北風が嘆いた声だったのかもしれない。
彼の記憶
去年の夏、大学の友人が亡くなった。
とても優秀な学生で、大学卒業後は、大企業の研究室への
就職も決まっていた。卒業間近のことだった。
卒論提出期限の3日前に彼は自殺した。
彼とは幼なじみだった。幼なじみと言っても、
小さな頃、少しの間一緒に遊んだだけだった。
僕が、両親の離婚で、引っ越してからは、
一度も会うことはなかった。
だから、再会するまでは遊んだ頃の記憶すらなかった。
大学で再会したとき、まるで魔法が解けたように、
記憶が蘇ってきた。これは後から聞いたことだが、
彼もそうだったらしい。
クリスマスが近くなると蘇ってきていたその淡い記憶の断片は、
いつの間にかおもちゃ箱に忘れ去られたおもちゃのように
少しずつ色褪せていくのだろう。
クリスマスに染まった街を歩きながら流れ込んでくる
クリスマスソングに混じって彼の声が聞こえたような気がした。
僕は、この世界から消えてしまった友人を思いながら、
年が明けたら、彼の墓参りに行こうと思ったー。
とても優秀な学生で、大学卒業後は、大企業の研究室への
就職も決まっていた。卒業間近のことだった。
卒論提出期限の3日前に彼は自殺した。
彼とは幼なじみだった。幼なじみと言っても、
小さな頃、少しの間一緒に遊んだだけだった。
僕が、両親の離婚で、引っ越してからは、
一度も会うことはなかった。
だから、再会するまでは遊んだ頃の記憶すらなかった。
大学で再会したとき、まるで魔法が解けたように、
記憶が蘇ってきた。これは後から聞いたことだが、
彼もそうだったらしい。
クリスマスが近くなると蘇ってきていたその淡い記憶の断片は、
いつの間にかおもちゃ箱に忘れ去られたおもちゃのように
少しずつ色褪せていくのだろう。
クリスマスに染まった街を歩きながら流れ込んでくる
クリスマスソングに混じって彼の声が聞こえたような気がした。
僕は、この世界から消えてしまった友人を思いながら、
年が明けたら、彼の墓参りに行こうと思ったー。
涼
一年前、涼は兄の棺の前で、一筋だけ涙を流した。
兄の彼女が泣き崩れていたのを見ながらも、
「兄貴は、あの女のどこが良かったんだろう。」と
冷めた口調で呟くように言っていた彼が初めて見せた涙だった。
瞬と涼は正反対の兄弟だった。そして、けして仲の良い兄弟ではなかった。
私は、冷めたままの瞳でなんの感情もなく棺を見つめる涼の横顔を見ながら、
寂しさがこみ上げてくるようだった。
幼い頃、私にとって二人は、ナイトのような存在だった。
いつも二人のあとをついて回っていた。泣き虫だった私を二人は
困ったように慰めてくれた。
あの頃は、それが当たり前だと思っていた。
仲の良い兄弟の一人が永遠にいなくなって、冷めた瞳でその兄の棺を見つめる
涼の姿など、想像すらしていなかった。
けれど、一年前の棺の前で涼が流した涙を見たとき、
計り知れない彼の悲しみを垣間見た気がした。
石で棺に杭を打ち付けながら、彼は静かに俯いたまま涙を流したー。
記憶
それは、蒸し暑い夏の出来事だった。
学校から帰った私に赤く泣き腫らした目の母が告げた。
「瞬が自殺したって・・・。」
うるさい蝉の声が耳にこだましていたのを覚えているー。
あれから、一年。
まるで昨日のことのように思い出される。
燃やされた彼の体から残った骨はとても脆く、崩れ落ちた。
彼の恋人は、静かに現れて、叔母の前で頭を下げ続けていた。
そして、崩れ落ちた骨を見て、その場で泣き崩れた。
「あの子は、繊細すぎたんやろね。この世界では生きられんかったとよ。」
イスに腰掛けていた祖母が、つぶやいた。
座り込んで泣き続けている彼の恋人を見つめながら、
私は静かに泣いていたー。
学校から帰った私に赤く泣き腫らした目の母が告げた。
「瞬が自殺したって・・・。」
うるさい蝉の声が耳にこだましていたのを覚えているー。
あれから、一年。
まるで昨日のことのように思い出される。
燃やされた彼の体から残った骨はとても脆く、崩れ落ちた。
彼の恋人は、静かに現れて、叔母の前で頭を下げ続けていた。
そして、崩れ落ちた骨を見て、その場で泣き崩れた。
「あの子は、繊細すぎたんやろね。この世界では生きられんかったとよ。」
イスに腰掛けていた祖母が、つぶやいた。
座り込んで泣き続けている彼の恋人を見つめながら、
私は静かに泣いていたー。
運命
「3年後か,10年後か、20年後かは分からないけれど、
いつか聞こえなくなりますよ」医者は、抑揚のない言葉で言った。
「手術をしても治らないんですか?」突然の言葉をうまく飲み込めずに問いかけた。
「治りません。とにかく進行を遅らせるようにするしかありませんね 。」
医者は、相変わらず抑揚のない話し方で断言した。
僕は、不思議と平静に受け止めることができた。
「治らない」そう断言されてしまっては、動揺したところで意味がないと思った。
どうあがいても、逃れられない運命ならば受け入れるしかないんだろう。
まさか、耳が聞こえなくなるなんて運命が、僕に待ち受けているとは思わなかった。
クリスマスのメロディーが流れる街を歩きながら、不思議な気持ちでいた。
12月になると聞こえてくるクリスマスソングにワクワクさせていた子供の頃。
この時期になると20年以上たった今も、あの頃の気持ちが蘇ってくる。
だけど、例えば、突然聞こえなくなったら、そんなメロディーが頭の中を流れることも
なくなるんだろうか?
ざわついているこの街を歩いても、まるで一人でいるように
何も聞こえなくなるのだろうか?
いつか、そんな運命が自分に降りてくるなんて想像もできなかった。
だからかもしれない。不思議と、怖いとは思わなかったー。
いつか聞こえなくなりますよ」医者は、抑揚のない言葉で言った。
「手術をしても治らないんですか?」突然の言葉をうまく飲み込めずに問いかけた。
「治りません。とにかく進行を遅らせるようにするしかありませんね 。」
医者は、相変わらず抑揚のない話し方で断言した。
僕は、不思議と平静に受け止めることができた。
「治らない」そう断言されてしまっては、動揺したところで意味がないと思った。
どうあがいても、逃れられない運命ならば受け入れるしかないんだろう。
まさか、耳が聞こえなくなるなんて運命が、僕に待ち受けているとは思わなかった。
クリスマスのメロディーが流れる街を歩きながら、不思議な気持ちでいた。
12月になると聞こえてくるクリスマスソングにワクワクさせていた子供の頃。
この時期になると20年以上たった今も、あの頃の気持ちが蘇ってくる。
だけど、例えば、突然聞こえなくなったら、そんなメロディーが頭の中を流れることも
なくなるんだろうか?
ざわついているこの街を歩いても、まるで一人でいるように
何も聞こえなくなるのだろうか?
いつか、そんな運命が自分に降りてくるなんて想像もできなかった。
だからかもしれない。不思議と、怖いとは思わなかったー。
END
―これは、ある人の恋のお話です―
どこからか、ジングルベルが聞こえてくる。
小さな亀が引き合わせた二人の上に、
気の早いクリスマスソ ングが降り注ぐ。
2ヶ月前、全くの他人で、浮かない表情をしていた二人は、今、
お互いを見つめ合って、輝くように笑っている。
きっと、二人の目に映る世界は冬から春へと移り変わる季節のように、
色づいていくのだろう。
あの日、彼女は、電話で僕にこう言った。
「彼が来たら、私に電話をくれませんか。
そして、新しい子ガメをプレゼントして下さい。」
僕も、世の中は意外と悪くないと思う。
―恋をしただけで、周りの景色が変わって見えることありませんか?
それから、自分の信念が覆されることとか。
誰かと紡ぎ合っていくものだから、自分だけではない、
その誰かの心に影響される。だから、見えてくる世界は、
今までと違ったものに映るのではないでしょうか。と、僕は考えます。―
どこからか、ジングルベルが聞こえてくる。
小さな亀が引き合わせた二人の上に、
気の早いクリスマスソ ングが降り注ぐ。
2ヶ月前、全くの他人で、浮かない表情をしていた二人は、今、
お互いを見つめ合って、輝くように笑っている。
きっと、二人の目に映る世界は冬から春へと移り変わる季節のように、
色づいていくのだろう。
あの日、彼女は、電話で僕にこう言った。
「彼が来たら、私に電話をくれませんか。
そして、新しい子ガメをプレゼントして下さい。」
僕も、世の中は意外と悪くないと思う。
―恋をしただけで、周りの景色が変わって見えることありませんか?
それから、自分の信念が覆されることとか。
誰かと紡ぎ合っていくものだから、自分だけではない、
その誰かの心に影響される。だから、見えてくる世界は、
今までと違ったものに映るのではないでしょうか。と、僕は考えます。―
初恋
「あ、すみません!」
突然、レジにいた店員から呼び止められた。
彼は、小走りで僕のところまでやって来た。
「あの、ある人から頼まれてたんです。
この子ガメをあなたにプレゼントしてほしいって」
そう言いながら、側に置いてあった小さなバケツをとりあげて、
水槽をよじ上ろうとしていた子ガメをそのバケツに移し替えた。
「ある人って?」
僕は、訳が分からなかった。そのある人が彼女であることは分かったが、
その真意が僕には分からなかった。
子ガメの入ったバケツを手に持ったまま、その店員は、
「えっと、あ、彼女です。」と言った。
僕は、店の入り口を振り返った。
そこに、彼女がいた。
「間に合った!」彼女は、肩で息を吐きながら、そう言った。
「私、前の仕事辞めたの!あなたが自慢できるような彼女になりたかったから。
今ね、小さな仕事だけど、広告のイラストを書かせてもらってるの。
それから、あの子ガメ、今、私の家の水槽にいるんだけど、
一匹じゃ、寂しそうだから、もう一匹入れてあげようと思ってるの。
だから、その子ガメ、一緒に運んでくれる?」
彼女は、走ってきたのか、頬を少し赤く染めて、苦しそうに息を吐きながら、
そう言って、はにかんだように微笑んだ。
「えっ?」
僕は、状況がつかめずにただ立ち尽くしていた。
そんな僕に彼女は微笑んで、
「私、あなたに出会ってから、私を取り巻いていた世界も悪くないって
思えるようになったの。意外と居心地良かったんだって・・・。」
そう言った彼女はとてもはつらつとしていた。
「うん、世の中捨てたもんじゃない。悪くないよ。」
僕も彼女に微笑んで言った。
突然、レジにいた店員から呼び止められた。
彼は、小走りで僕のところまでやって来た。
「あの、ある人から頼まれてたんです。
この子ガメをあなたにプレゼントしてほしいって」
そう言いながら、側に置いてあった小さなバケツをとりあげて、
水槽をよじ上ろうとしていた子ガメをそのバケツに移し替えた。
「ある人って?」
僕は、訳が分からなかった。そのある人が彼女であることは分かったが、
その真意が僕には分からなかった。
子ガメの入ったバケツを手に持ったまま、その店員は、
「えっと、あ、彼女です。」と言った。
僕は、店の入り口を振り返った。
そこに、彼女がいた。
「間に合った!」彼女は、肩で息を吐きながら、そう言った。
「私、前の仕事辞めたの!あなたが自慢できるような彼女になりたかったから。
今ね、小さな仕事だけど、広告のイラストを書かせてもらってるの。
それから、あの子ガメ、今、私の家の水槽にいるんだけど、
一匹じゃ、寂しそうだから、もう一匹入れてあげようと思ってるの。
だから、その子ガメ、一緒に運んでくれる?」
彼女は、走ってきたのか、頬を少し赤く染めて、苦しそうに息を吐きながら、
そう言って、はにかんだように微笑んだ。
「えっ?」
僕は、状況がつかめずにただ立ち尽くしていた。
そんな僕に彼女は微笑んで、
「私、あなたに出会ってから、私を取り巻いていた世界も悪くないって
思えるようになったの。意外と居心地良かったんだって・・・。」
そう言った彼女はとてもはつらつとしていた。
「うん、世の中捨てたもんじゃない。悪くないよ。」
僕も彼女に微笑んで言った。
