初恋
「すみませーん、この魚、欲しいんですけど」
店にいた女性客が、声を張り上げて、店員を呼んでいた。
「あ、はい、お待ち下さい。」レジで電話をしていた店員が、
彼女に答えていた。
僕は、子ガメの水槽の前で立ち上がり、
クリスマスに染まっていく街を振り返った。
たくさんの人が、いろいろな顔で通り過ぎていく。
彼女と出会って、初めての恋をして、初めての失恋をして、
その過程で、 僕の目に映る世界は、色を持ち始めたような気がする。
浄化できない思いを抱いて、店を出ようとした。
その時―
店にいた女性客が、声を張り上げて、店員を呼んでいた。
「あ、はい、お待ち下さい。」レジで電話をしていた店員が、
彼女に答えていた。
僕は、子ガメの水槽の前で立ち上がり、
クリスマスに染まっていく街を振り返った。
たくさんの人が、いろいろな顔で通り過ぎていく。
彼女と出会って、初めての恋をして、初めての失恋をして、
その過程で、 僕の目に映る世界は、色を持ち始めたような気がする。
浄化できない思いを抱いて、店を出ようとした。
その時―
子ガメ
―これは、ある人の恋のお話です―
二ヶ月ほど前だっただろうか?
届いたばかりの子ガメを水槽へ移し変えた日だった。
水槽をよじ登ろうとしている子ガメの水槽を、
じっと見つめている男女がいた。
それから、その二人は、店をよく訪れるようになっていた。
なんとなく、よく見かける二人を、気にかけるようになった。
けれど、ある日を境に、女性の方は、彼の前に姿を見せなくなった。
男性は、それでも、日課のようにうちの店を訪れていた。
そして、10日ぐらい前、彼がいない時間帯に、彼女が久しぶりに店を訪れた。
少し前までは、化粧も厚く、服装もけして地味ではなかった彼女だったが、
その日の彼女は、まるで別人のようだった。
化粧も薄く、服装も、ベージュのパンツに白いシャツ、
そして、黒のコートというとてもシンプルな格好だった。
けれど、2ヶ月前の彼女よりも、どこか、明るい表情をしている気がした。
彼女は、例の子ガメの水槽の前で、座り込んで、子ガメに話し掛けているようだった。
そして、レジの前まで来て、僕にこう言った。
「あの子ガメを買いたいんですけど。」
僕は、「あ、はい、わかりました。」と言って、
子ガメを水槽から出してあげた。
それから、しばらくして・・・一週間ぐらい前だったと思う。
彼女から、店に電話が掛かってきた。
「もう一匹、同じ子ガメを買いたいんです。一匹じゃ寂しいから。
同じ子ガメ、いますか?」と。
僕は、「いますよ。来週あたまぐらいに新しい子ガメが入ってきます。」
と、返答した。すると、彼女は、
「じゃあ、お願いがあるんです。」と、切り出した。
二ヶ月ほど前だっただろうか?
届いたばかりの子ガメを水槽へ移し変えた日だった。
水槽をよじ登ろうとしている子ガメの水槽を、
じっと見つめている男女がいた。
それから、その二人は、店をよく訪れるようになっていた。
なんとなく、よく見かける二人を、気にかけるようになった。
けれど、ある日を境に、女性の方は、彼の前に姿を見せなくなった。
男性は、それでも、日課のようにうちの店を訪れていた。
そして、10日ぐらい前、彼がいない時間帯に、彼女が久しぶりに店を訪れた。
少し前までは、化粧も厚く、服装もけして地味ではなかった彼女だったが、
その日の彼女は、まるで別人のようだった。
化粧も薄く、服装も、ベージュのパンツに白いシャツ、
そして、黒のコートというとてもシンプルな格好だった。
けれど、2ヶ月前の彼女よりも、どこか、明るい表情をしている気がした。
彼女は、例の子ガメの水槽の前で、座り込んで、子ガメに話し掛けているようだった。
そして、レジの前まで来て、僕にこう言った。
「あの子ガメを買いたいんですけど。」
僕は、「あ、はい、わかりました。」と言って、
子ガメを水槽から出してあげた。
それから、しばらくして・・・一週間ぐらい前だったと思う。
彼女から、店に電話が掛かってきた。
「もう一匹、同じ子ガメを買いたいんです。一匹じゃ寂しいから。
同じ子ガメ、いますか?」と。
僕は、「いますよ。来週あたまぐらいに新しい子ガメが入ってきます。」
と、返答した。すると、彼女は、
「じゃあ、お願いがあるんです。」と、切り出した。
恋
―これは、ある人の恋のお話です―
僕の告白の日から、彼女と逢うことはなかった。
だけど、あの時、告白した事に後悔はなかった。
認めたくはないけれど、それも運命だったんだろう。
少し肌寒かった秋風が、いつのまにか刺すような北風へと変わっていた。
そして、街中は、気の早いクリスマスに染まっている。
まだ後一ヶ月も先なのに・・・と思いながら、なんとなく、
日課になってしまった、アクアリウムの店へと足を運ぶ。
そして、いつのまにか買われていってしまった子ガメのいない水槽を覗き込んだ。
すると、2日前まではいなかった、新しい子ガメが、以前の子ガメと同じように、
水槽の壁をよじ登ろうとしていた。
その子ガメを見た時、突然、悲しみが心の中に広がっていった。
僕は、彼女に恋をしていた。
逢いたかった―。今、初めて思う。僕は彼女と出会う運命だったんだと。
きっと、僕は、このまま、彼女に恋をしたまま、歳をとってゆくのだろう―
―僕は、運命は信じていますが、それは、幾通りもある道のようなものだと
思っています。この物語の彼は、きっと、彼女を思いつづける道を
たまた ま選んでしまったのでしょう― 恋愛研究家
僕の告白の日から、彼女と逢うことはなかった。
だけど、あの時、告白した事に後悔はなかった。
認めたくはないけれど、それも運命だったんだろう。
少し肌寒かった秋風が、いつのまにか刺すような北風へと変わっていた。
そして、街中は、気の早いクリスマスに染まっている。
まだ後一ヶ月も先なのに・・・と思いながら、なんとなく、
日課になってしまった、アクアリウムの店へと足を運ぶ。
そして、いつのまにか買われていってしまった子ガメのいない水槽を覗き込んだ。
すると、2日前まではいなかった、新しい子ガメが、以前の子ガメと同じように、
水槽の壁をよじ登ろうとしていた。
その子ガメを見た時、突然、悲しみが心の中に広がっていった。
僕は、彼女に恋をしていた。
逢いたかった―。今、初めて思う。僕は彼女と出会う運命だったんだと。
きっと、僕は、このまま、彼女に恋をしたまま、歳をとってゆくのだろう―
―僕は、運命は信じていますが、それは、幾通りもある道のようなものだと
思っています。この物語の彼は、きっと、彼女を思いつづける道を
たまた ま選んでしまったのでしょう― 恋愛研究家
無償の愛
―これはある人の恋のお話です― それから、僕たちは、ことあるごとにアクアリウムへと足を運んだ。
子ガメは、いつのまにか、水槽から出ることを諦め、元気に泳ぐようになった。
僕たちは、いろいろな話をするようになった。彼女は歌舞伎町の風俗店で働いていた。
イラストレーターになりたいという夢を持って、上京し、様々な理由で、挫折し、
歌舞伎町で働くようになったのだそうだ。けれど、夢半ば、納得できない形で
あきらめてしまった事を、吹っ切れずにいた。
僕は、失ってしまった、いや、得られずに過ごしてきた何かを、見つけ出そうと
していた。思いの欠片をなくした僕たちは、まるで、水槽に漂う水草のようだった。
社会の流れに逆らうことなく、ただゆらゆらと揺れている・・・。
けれど、そこは、僕にとって、とても心地のいい場所だった。
この水槽を二人で見ている時、僕は時間が止まったように感じていた。
ある日、僕は、彼女に打ち明けた。
「僕は、きっと本当に人を好きになったことがないんだ。」
「え?」彼女は突然の僕の言葉に驚いたように振り向いた。
「女性と付き合ったことはあるけれど、付き合うときも、別れるときも何の感情も湧かなかった。友人、家族にしてもそうなんだ。嫌いなわけじゃないけれど、何の興味も湧かない。人間として何かが欠落してるんだ。」
無表情に淡々と結果を報告するように話す僕を、彼女はずっと見つめていた。
そして、「どうして、そんなこと私に話すの?」と、言った。
「君と初めて会ったとき、予感がしたんだ。君を好きになるって。」
彼女は、何も言わずに、僕を見つめていた。
見返りが欲しいとは思わなかった。ただ伝えたかった。
昔、学生の時、国語の授業で、「無償の愛」という言葉を習った。
そのとき、僕はそんなものはあり得ないと思った。
世の中に溢れている愛は、「求められるもの」、「見返りの愛」だと思った。
僕は、色んなことを知っているようで、何一つ知らなかった。
彼女は、立ち上がって、「そろそろ仕事に行かなきゃ。」と言った。
僕は、「ああ、そっか。じゃあ、がんばって。」と笑顔で言って、
いつも通り、お互いの道へと別れて行った。
子ガメ
―これは、ある人の恋の物語です―
「自分の周りを取り巻く世界を、窮屈だと思うか、広いと思うかは、
その人次第だと思う。」
子ガメを見つめながら、僕は言った。瞳に涙をためて、俯いていた彼女は、
ふいに僕を見上げた。そして、その拍子に涙が頬を伝った。慌てて、
それを隠すように俯く。
「たぶん、子ガメもいつか気づくと思うよ。この水槽が意外と広く快適だったってことに。」
僕はそう言って、少し照れながら、彼女にティッシュを渡した。
彼女は俯いたまま「ありがとう。」と言った。
その何気ない、「ありがとう。」という言葉に、僕は少し動揺した。
今まで、失ったと思っていた感情。それが、少し顔をのぞかせたような気がしたからだ。自分の中に存在しないと思っていた感情が存在していたという事に、動揺し、
そして、少し嬉しくもあった。だから、そのなんでもない一日の出会いで、
そのまま終わりにしたくなかった。もしも運命があるとしたなら、たぶん、そのとき、
僕は運命の岐路にいたんだと思う。
言葉にしなければ訪れない運命と、言葉にしたことで訪れる運命。僕は後者を選んだ。
「そんなに心配ならさ、この子ガメが、この水槽で元気に泳ぐまで、一緒に見届けようよ。」
言い訳がましい、その言葉に照れを感じ、彼女を見ることができずに、
子ガメを見ながら僕は言った。水槽に映っていた彼女が驚いた顔で見上げた。
「だから、えっと、明日、また同じ時間に、ここに見に来ようよ。」と、
早口でまくし立てた。彼女は大きな目を更に大きく見開いて、
「明日は、予定がある・・」と、途切れ途切れに言った。
僕は、「あ、そっか、じゃあ、明後日は?」と切り出す。
「明後日なら・・・」彼女は、また途切れ途切れにそう言った。
「じゃあ、また、明後日、ここで。」僕は、笑顔でそう言った。
彼女は、赤く泣き腫らした目で、少し僕を見つめて、可笑しそうに微笑んで
立ち上がった。「うん、また明後日ね。」そして、僕らはその店を後にした。
あの時、彼女が微笑んだのは、子ガメが引き合わせたそのめぐり合わせを、
僕と同じように妙だと感じながらも、その先に何が待っているのかという期待感を
感じたからだろうと思う。 僕は、2日後が待ち遠しくて仕方なかった―。
「自分の周りを取り巻く世界を、窮屈だと思うか、広いと思うかは、
その人次第だと思う。」
子ガメを見つめながら、僕は言った。瞳に涙をためて、俯いていた彼女は、
ふいに僕を見上げた。そして、その拍子に涙が頬を伝った。慌てて、
それを隠すように俯く。
「たぶん、子ガメもいつか気づくと思うよ。この水槽が意外と広く快適だったってことに。」
僕はそう言って、少し照れながら、彼女にティッシュを渡した。
彼女は俯いたまま「ありがとう。」と言った。
その何気ない、「ありがとう。」という言葉に、僕は少し動揺した。
今まで、失ったと思っていた感情。それが、少し顔をのぞかせたような気がしたからだ。自分の中に存在しないと思っていた感情が存在していたという事に、動揺し、
そして、少し嬉しくもあった。だから、そのなんでもない一日の出会いで、
そのまま終わりにしたくなかった。もしも運命があるとしたなら、たぶん、そのとき、
僕は運命の岐路にいたんだと思う。
言葉にしなければ訪れない運命と、言葉にしたことで訪れる運命。僕は後者を選んだ。
「そんなに心配ならさ、この子ガメが、この水槽で元気に泳ぐまで、一緒に見届けようよ。」
言い訳がましい、その言葉に照れを感じ、彼女を見ることができずに、
子ガメを見ながら僕は言った。水槽に映っていた彼女が驚いた顔で見上げた。
「だから、えっと、明日、また同じ時間に、ここに見に来ようよ。」と、
早口でまくし立てた。彼女は大きな目を更に大きく見開いて、
「明日は、予定がある・・」と、途切れ途切れに言った。
僕は、「あ、そっか、じゃあ、明後日は?」と切り出す。
「明後日なら・・・」彼女は、また途切れ途切れにそう言った。
「じゃあ、また、明後日、ここで。」僕は、笑顔でそう言った。
彼女は、赤く泣き腫らした目で、少し僕を見つめて、可笑しそうに微笑んで
立ち上がった。「うん、また明後日ね。」そして、僕らはその店を後にした。
あの時、彼女が微笑んだのは、子ガメが引き合わせたそのめぐり合わせを、
僕と同じように妙だと感じながらも、その先に何が待っているのかという期待感を
感じたからだろうと思う。 僕は、2日後が待ち遠しくて仕方なかった―。
2004-11-15
みなさま、お久しぶりです。
えっと、「ある人の恋のお話」ばかり書いてたので、
自分としてのコメントを書くのは初めてで、何書いていいのか・・・って、
感じなんですが、ちょっと、しばらく、旅に出ていたもので・・・・
ほんとに久しぶりです。だから、ちょっと、今日は頑張っていっぱい書こうと思います!
それでは、第4話お楽しみください(^^)
えっと、「ある人の恋のお話」ばかり書いてたので、
自分としてのコメントを書くのは初めてで、何書いていいのか・・・って、
感じなんですが、ちょっと、しばらく、旅に出ていたもので・・・・
ほんとに久しぶりです。だから、ちょっと、今日は頑張っていっぱい書こうと思います!
それでは、第4話お楽しみください(^^)
運命
―これは、ある人の恋のお話です―
「きみは、自分の事をかわいそうって思ってるの?」
僕は、座り込んで子ガメを見ている彼女を見下ろすように言った。
彼女は、目を大きく見開いて、「どうして?」と問いかけた。
僕は、なかなか諦めようとしない子ガメを見つめながら、
「子ガメは自分の事をかわいそうなんて思ってないよ。たぶんね。きみがそう思うのは、
もがいている子ガメに自分を重ねてるからなんじゃない?」と言った。
水槽に映った彼女の瞳は少し潤んでいた。
彼女は、僕の問いかけには何も答えてくれなかった。
僕は、待ち受けている運命は信じない。まるで、映画のような出逢いだったけれど、
それは、必然なんかじゃない。彼女と話したかっただけだ。
恋は、運命なんかじゃない。自分が、求めて探し出したものなんだ。
もしも運命だったとしても、それを、運命に変えたのは自分だと思いたい。
「きみは、自分の事をかわいそうって思ってるの?」
僕は、座り込んで子ガメを見ている彼女を見下ろすように言った。
彼女は、目を大きく見開いて、「どうして?」と問いかけた。
僕は、なかなか諦めようとしない子ガメを見つめながら、
「子ガメは自分の事をかわいそうなんて思ってないよ。たぶんね。きみがそう思うのは、
もがいている子ガメに自分を重ねてるからなんじゃない?」と言った。
水槽に映った彼女の瞳は少し潤んでいた。
彼女は、僕の問いかけには何も答えてくれなかった。
僕は、待ち受けている運命は信じない。まるで、映画のような出逢いだったけれど、
それは、必然なんかじゃない。彼女と話したかっただけだ。
恋は、運命なんかじゃない。自分が、求めて探し出したものなんだ。
もしも運命だったとしても、それを、運命に変えたのは自分だと思いたい。
水槽
これは、ある人の恋のお話です。
水槽から抜け出そうとしている子ガメの滑稽な姿を見つめていた。
社会で家庭の為にあくせくと働いているサラリーマンのようだと思った。
隣で「かわいそう」と、呟いたのは、少し化粧の厚い25,6歳ぐらいの女性だった。
子ガメを見下ろす彼女の目は、心なしか潤んでいるように見えた。
僕は、目を疑った。
この欲望で作られたような新宿・歌舞伎町で子ガメの為に
目を潤ませる人間がいるなんて思えなかった。
「かわいそう?」
思わず口をついて出た。彼女は少し驚いたように、僕の目を見た。
声をかけたのは僕なのに、反応した彼女に僕もまた驚いていた。
「あ、ごめん。」
僕は少しの間の後、目をそらした。
「かわいそうじゃない?だって出たがってるよ。
こんな限られた世界でしか生きられないなんて・・・。」
そう言って、彼女はまた、目を潤ませながら、子ガメを見つめた。
ああ、そうか。この街には、諦めた人間ばかりがいるんだと思っていたけれど、
諦めきれない人間もいたんだ、と気づいた。
「子ガメはいつか、この水槽が全ての世界だと理解するようになるんだよ。」
そう言った僕の言葉に、彼女は振り向いて、
「そんなのもっとかわいそうじゃない」と言って、
静かに僕を睨んだ。
その瞳を、僕はきれいだと思った―。
水槽から抜け出そうとしている子ガメの滑稽な姿を見つめていた。
社会で家庭の為にあくせくと働いているサラリーマンのようだと思った。
隣で「かわいそう」と、呟いたのは、少し化粧の厚い25,6歳ぐらいの女性だった。
子ガメを見下ろす彼女の目は、心なしか潤んでいるように見えた。
僕は、目を疑った。
この欲望で作られたような新宿・歌舞伎町で子ガメの為に
目を潤ませる人間がいるなんて思えなかった。
「かわいそう?」
思わず口をついて出た。彼女は少し驚いたように、僕の目を見た。
声をかけたのは僕なのに、反応した彼女に僕もまた驚いていた。
「あ、ごめん。」
僕は少しの間の後、目をそらした。
「かわいそうじゃない?だって出たがってるよ。
こんな限られた世界でしか生きられないなんて・・・。」
そう言って、彼女はまた、目を潤ませながら、子ガメを見つめた。
ああ、そうか。この街には、諦めた人間ばかりがいるんだと思っていたけれど、
諦めきれない人間もいたんだ、と気づいた。
「子ガメはいつか、この水槽が全ての世界だと理解するようになるんだよ。」
そう言った僕の言葉に、彼女は振り向いて、
「そんなのもっとかわいそうじゃない」と言って、
静かに僕を睨んだ。
その瞳を、僕はきれいだと思った―。
DNA
?これは、ある人の恋の物語です?
街の雑踏が消える。まるで、僕の周りだけに見えないバリアがあるように。 ただただ、意思に反しながら、
両足は規則的に歩を進めていく。 この空虚感。けれど、それが僕にとってはたまらなく心地よかった。
別に、特別変わった環境で生きてきた訳ではないと思う。 普通の家族、普通の友人たち。
だけど、たぶん僕は何かが 欠落しているようだった。たぶん、僕は人として持つべき感情を 一つ無くしてしまったのだろう。
それが何かは、よくわからないけど・・・。
夕刻の新宿。ここは、時間の経過がよくわからない。 飲みに行くサラリーマンや学生が増え始める時刻だ。
秋の乾いた風が首筋を通り過ぎて行く。 時折、一人になりたいとき、僕は、新宿の東口を出た広場に座り、 本を読む。
この雑踏が、BGMのように頭に流れ、家に一人でいるとき以上の 孤独感を与えてくれる。
そうして、夕刻が迫ってくると、本を閉じて、 アクアリウムの店を訪れる。
水槽の中で作られた人工的な生態系を見ると、 自分もその中の一部のような気がしてくる。
苔の生えた石に上り、入れられたばかりの子ガメが水槽をよじ上ろうと 悪戦苦闘していた。
「かわいそう」
その滑稽な姿をずっと見つめていた僕の隣の女性が呟いた。
?人は、自分のDNAに組み込まれていない組織を持った相手を探し求めている。
そのDNAをもって、より優秀な子孫を残そうとする本能が働くからである。
一目惚れというのは、そのDNAが惹かれ合って起きる現象なのだそうだー
街の雑踏が消える。まるで、僕の周りだけに見えないバリアがあるように。 ただただ、意思に反しながら、
両足は規則的に歩を進めていく。 この空虚感。けれど、それが僕にとってはたまらなく心地よかった。
別に、特別変わった環境で生きてきた訳ではないと思う。 普通の家族、普通の友人たち。
だけど、たぶん僕は何かが 欠落しているようだった。たぶん、僕は人として持つべき感情を 一つ無くしてしまったのだろう。
それが何かは、よくわからないけど・・・。
夕刻の新宿。ここは、時間の経過がよくわからない。 飲みに行くサラリーマンや学生が増え始める時刻だ。
秋の乾いた風が首筋を通り過ぎて行く。 時折、一人になりたいとき、僕は、新宿の東口を出た広場に座り、 本を読む。
この雑踏が、BGMのように頭に流れ、家に一人でいるとき以上の 孤独感を与えてくれる。
そうして、夕刻が迫ってくると、本を閉じて、 アクアリウムの店を訪れる。
水槽の中で作られた人工的な生態系を見ると、 自分もその中の一部のような気がしてくる。
苔の生えた石に上り、入れられたばかりの子ガメが水槽をよじ上ろうと 悪戦苦闘していた。
「かわいそう」
その滑稽な姿をずっと見つめていた僕の隣の女性が呟いた。
?人は、自分のDNAに組み込まれていない組織を持った相手を探し求めている。
そのDNAをもって、より優秀な子孫を残そうとする本能が働くからである。
一目惚れというのは、そのDNAが惹かれ合って起きる現象なのだそうだー