「わ、後ろへ動くよ!」

 盆に来た姪が台所の椅子に座って驚く。
 妹と姪孫もいて椅子が足らないのでデスクチェアを引っ張り出して座った。

 この椅子はずっと昔に母が椅子からの立ち上がりに次第に苦労するようなって買ったものだ。
 ダンパーで上下調整ができるから良かろうと考え、何年か使った。
 が更に足腰が弱ると回転したり自在に動くのが逆に危険になって家の片隅に…

 だろ?床が傾いているから車いすもブレーキかけておかないと動くし…と私。

 築後50年以上。基礎の不十分な田んぼの造成地に立てた欠陥住宅だ。


 台風が日本列島縦断をしかねない進路で進んでいる。
 超強力クラス。風速65mだの70mだの…

 備えは早く…とTVで各局声をそろえるので、家の周りの飛びそうなものを片付ける。
 背の高い鉢は軒下に寄せたり、幾つかまとめて寄せ合うように並べたり。

 飛びそうな小物は倉庫の中に全部入れ、物干竿は降ろして地面に寝かせ、布団干しも裏の塀と家の壁との間に運んで寝かせる。
 特に今年は裏手以外の3方向の塀を撤去したので、その影響が怖い。

 来るとしてもまだ先だが暴風に先立って雨でも降りだすとこういう戸外の作業はできないので。

 35℃近いかんかん照りの中、家に入ったり出たりしながらほぼ一日かけてだいたい片付けは終わる。
 だが勢力が衰えぬまま上陸とでもなったら…

 家の周りのものではなく、この木造の欠陥住宅そのものが飛んでしまいかねない。

 今回ばかりは避難所行きかなあ…