社会の問題を解決することが収益になる~Porter教授のShared Value  | 平野敦士カールオフィシャルブログ「プラットフォーム戦略®経営講座★」Powered by Ameba

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ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が主張するシェアードバリューShared Value, Platformという言葉がこれからの経営戦略のKEYWORDとなるだろう
1企業だけの戦略から社会的問題の解決を経営理念に抱き、複数企業,関連する企業や社会と如何にプラットフォームを創れるかどうか?が重要になる
これは日本に昔からある 三方良し と類似する思考法でありPorter教授自身昔からある考え方だと言っている

具体的には社会的な問題 具体的にはEnergy Use and Logistics(エネルギーと物流)
• Resource Use(リサイクル)• Procurement(調達)• Distribution(途上国の発展)
• Employee Productivity(従業員の生産性)• Location(地域発展)を解決することこそが企業にとっての長期的な収益向上になる、とする考え方だ

従来の企業は儲け批判から社会貢献をすること(CSR)とは全く逆の考え方だ

例えばフェアトレードという事例をPorter教授はあげているがこれは発展途上国との貿易取引などで先進国が不当に利益配分を得ていることを是正しようとするものだ
しかしPorter教授はそれではパイが増えない CreatingSharedValueとは
発展途上国に例えばより効率的に原材料の農作物を作れるような指導や技術を提供することで効率をあげることで生産性をあげパイ全体を大きくすること、それによって雇用が生まれ社会的問題を解決していく 企業はそれによってより安定的な調達が可能になり原価も下がることで競争力が増し収益も長期的にあがるとする主張だ

従来のCSRやNPOは何の経済的価値を生まないのに対してSharedValueは付加価値を産む  儲けたから寄付するのではなく 社会の問題を解決することで儲ける!という真逆の主張だ

その場合自社のValueChainを見直して関係する企業や関係者から実践することができるとしている 例えば電力を大量に消費しているならばそれを省電力にする対策を講じる
などだ Googleが自社で太陽光発電を行っているような例かもしれない

以下Porter教授の動画(YoutubeでShared Value Porter といえるとかなりたくさん出てきます)
日本企業でもキリンなどがこの取り組みをしている 今後重要な視点になると思うので
以下Porter教授のインタビューなどをご紹介しよう

Creating Shared Value

The State of the Shared Value Field with Michael E. Porter
https://www.youtube.com/watch?v=7AUCoJcutQI


CSRの呪縛から脱却し、「社会と共有できる価値」の創出を
マイケル・ポーター米ハーバード大学教授が提示する新たな枠組み
2011年5月19日(木)  中野目 純一,広野 彩子
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110516/219999/?rt=nocnt

 東日本大震災でサプライチェーンや物流網が寸断され、日本企業の多くは事業活動の停止を余儀なくされた。その反省から、新たに創造していくべき経営のモデルとは──。企業で経営再創造の最前線に立つ実務家の取り組みや識者の論考を通して模索していく。

 今回のテーマは、CSR(企業の社会的責任)。企業がこぞって多額の義援金を寄付し、社員をボランティアとして被災地に送る動きも出てきている。一方で、原発事故を起こした東京電力は、放射性物質の拡散や電力不足によって、社会に広く深刻な影響を及ぼしている。

 CSRとは何か。企業は社会といかにかかわり、どのように貢献していくべきなのか。これらの問いについて企業は再考する必要がある。企業の競争戦略論の大家として知られるマイケル・ポーター・米ハーバード大学経営大学院教授はここ数年、このテーマについて探究してきた。同氏へのインタビューから、企業と社会との新たな関係を考えるヒントをくみ取れるはずだ。

(取材構成は、中野目純一=日経ビジネスオンライン記者、広野彩子=日経ビジネス記者)

 ポーター教授は最新の論文で、「CSR(企業の社会的責任)」に取って代わる新たな概念として、「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創出)」を提唱した。それはどのようなものなのか。2010年12月に行ったインタビューで、教授は次のように語った。

── 最近、CSRはやめて、CSVをすべきと主張されているそうですが、その真意は。

ポーター 確かにCSRからCSVへの移行について議論してきました。私は2006年、米ハーバードビジネスレビュー誌の同年12月号に『Strategy and Society』と題する共著の論文を発表しました(注1)。

(注1:邦訳版『競争優位のCSR戦略』は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌の2008年1月号に掲載)

 CSRからCSVへの移行という考え方の転換について初めて書いたのは、この論文です。その中で、寄付やフィランソロピー(社会貢献)を通して自社のイメージを向上させるという従来のCSR活動は、事業との相関関係がほとんどなく、正しいアプローチではないと指摘しました。

従来のCSR活動は社会に何の影響も及ぼさない

ポーター 実際、従来のCSR活動は必ずしも効果的なものだと言えなかった。社会に大きな影響を及ぼすには至らなかったからです。それも無理はありません。企業は、自社のイメージ向上だけに関心があり、社会にインパクトを与えて実際に社会を変えようとは真剣に考えていなかったのですから。

 この最初の論文では、共有価値の創出については簡潔に触れただけでした。米ハーバードビジネスレビュー誌の2011年1月・2月合併号に発表した共著の論文『Creating Shared Value』(注2)で、CSVのコンセプトについて詳述し、それが資本主義をどう変えていくのか、企業はどう対応していくべきなのかを考察しました。

(注2:邦訳版『共通価値の戦略』は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌の2011年6月号に掲載)

 ただし、CSVに対する基本的な考え方は2006年の最初の論文から変わっていません。最新の論文では、CSVとは何かについて掘り下げ、そのコンセプトを論理的に発展させました。CSRとCSVの違いについてまとめた図も掲載しています。


── 2006年の論文では、従来のCSR活動を「受動的CSR」とし、共有価値の創出を目指す取り組みについては「戦略的CSR」と呼んでいました。最新の論文では、戦略的CSRという呼称をなくして、CSVに統一しています。

ポーター 企業のメンタリティーに変化を促し、社会とのかかわりについて従来とは全く異なる視点で見るようになってほしいと考えたからです。戦略的CSRとCSVの意味するところは基本的に同じです。

 最初の論文では、CSVの定義はまだ十分に固まっていなかった。それもあって戦略的CSRという呼称を使いましたが、それはCSVのしっかりとした定義に至る第1歩だったのです。

 まずは、寄付やフィランソロピーを中心とする従来のCSR活動から脱却することが必要でした。ですから、CSRは事業から乖離してはならず、事業戦略と結び付いたものでなければならないという意味を持たせるために、戦略的CSRと呼んだのです。

社会との共有価値を創出する3つの方法

 最新の論文では次の段階に入りました。そして、社会との共有価値を創出するには3つの方法があると指摘しています。

 (1)製品と市場を見直す、(2)自社のバリューチェーンの生産性を再定義する、(3)企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスター(集積)をつくる──の3つです。それぞれの具体的な方法については、実際に論文をご覧いただきたい。

── 2010年の「ポーター賞」(注3)を受賞した医療機器メーカー大手のテルモは、CSVを追求している企業と言えるでしょうか。

(注3:一橋大学大学院国際企業戦略研究科がマイケル・ポーター教授の名前を冠して2001年7月に創設した賞。独自性がある優れた戦略を実行し、その結果として高い収益性を達成、維持している企業を毎年表彰している)

ポーター その通りですね。テルモは(注射器などの)汎用品で独自の技術を生かし、使いやすさや治療の効率性を実現した点で優れています。患者の肉体的負担を最小限に抑え、総合的なコスト削減にも貢献している。

 また医師向け研修などを通じて医療の効率性、経済性を上げることにも力を入れています。戦略的に企業と患者、医師が共有できる価値を創出していますから、CSVを追求している企業の好例と言えます。

企業と社会の関係は第3の段階に入っている

 上記のインタビューでポーター教授は、企業と社会が共有する価値がどのようなものかを詳しく説明しなかった。その定義については、2007年12月のインタビューで言及している。

ポーター 企業の社会的な問題への関与には、これまで2つの段階がありました。企業は次の3番目の段階に進む必要があります。


まずは2つの段階について振り返りましょう。第1の段階は、「圧力政治」と私が呼んでいる形です。動物の権利保護や遺伝子の組み換え、公害といった問題に活動家が抗議して、デモを行って企業を困惑させたり、訴訟を起こしたりしました。活動家のグループと良好な関係を築くため、企業は寄付を行ってきました。

 現在はCSRと呼ぶべき第2段階に入っています。この段階が第1段階と異なるのは、社会的な問題が企業の責任としてとらえられるようになった点です。ただし、それは企業の事業活動とはリンクしていない。

 CSR活動ということで、慈善事業としての寄付やボランティアに取り組んでみせる。企業はそれらの活動を通じ、自社が社会に及ぼしている影響に関心を持っており、敏感であることを世間に示そうとします。企業はネガティブな影響を軽減したり回避したりして、良き市民であろうと努力するのです。 

 我々は今、第3の段階へ移行しようとしています。それは価値を共有する段階です。この段階では、企業の事業戦略と社会を結び付ける。社会問題を企業の事業活動とは切り離して別の課題として見るのではなく、事業戦略と一体のものとして扱うのです。

── なぜ企業は事業戦略と社会を結び付けることが必要なのでしょうか。

 いくつかの理由から重要です。まず、世界のありとあらゆる問題を解決し、すべての人を幸福にできる会社はありません。企業があらゆる社会運動をサポートしようとしても効果的ではないし、それで感謝されることもない。

 次に、社会に及ぼす影響について考えると、企業は単にイメージや宣伝だけではなく、CSR活動で結果を出すことに集中する必要があります。CSR活動を宣伝と考えている限り、様々な取り組みに手を出して結果を出せないままで終わってしまう。何をすれば本当に変化を生み出すことができるのか。そのことを考えなければなりません。

 変化を生み出すことができるのは、企業が事業活動に密接した社会問題の解決に取り組む時だと私は信じています。なぜなら、社会と共有できる価値を創造するのに必要なスキルや技術、人脈は企業の事業活動の中に蓄積されているからです。

 社会と企業との間で価値が共有されるようになるのは、社会だけでなく企業も利益を得るからです。長い目で見れば、より持続可能な競争上のポジションを企業は作り上げることができます。

 企業は地域の団体を支援し続けるべきですし、従業員がボランティアをしたり社会運動に参加したりすることを許容すべきです。このように良き市民であることは企業にとって必要なのですから。また、企業がもたらすネガティブな影響を軽減することは、企業にとって所与の条件であると言えます。

 ですが、それだけでは十分ではありません。事業戦略と社会との間に強い関係を築くことが可能な分野に企業は最も力を入れるべきです。

 今日、最も優れた事業戦略を構築するためには、社会とのかかわりを考慮することが欠かせなくなっています。どんな企業でも、価値ある提案をするためには、社会的な意義を持たせる必要がある。今日では顧客も取引先も、事業戦略に社会的な価値のある企業を評価するのです。

 事業戦略の社会的な価値はまた、製品の特徴や独特の生産プロセスよりも模倣することが難しい場合が多い。事業戦略と社会を結びつけることは、企業にとって新たなチャンスの1つになりつつあるのです。

資金提供だけならやめるべき

── それはどのようなチャンスなのでしょうか。

ポーター 米ゼネラル・エレクトリック(GE)の「エコマジネーション」というアイデアを例に取りましょう。GEは排ガスやエネルギーの使用量の削減に大いに役立つ製品を世に送り出している。この分野でリーダーとなると決意したからです。

 ある社会問題に対してできることがお金を出すことだけである場合は、恐らくその問題に関与すべきではありません。企業に求められるのは、スキルや人脈、専門知識などを提供することだからです。企業が肯定的に評価される要因は、提供したお金の額ではなく、達成した成果なのです。

 スイスのネスレのように原材料の供給を農家に依存している企業であれば、社会的にも価値のある事業戦略の一環として、農業の持続可能性を高め、農村地域を保存し、発展させることにフォーカスすべきでしょう。

 ネスレは、小規模農家が環境に対する意識を高め、より健康な家畜を育てることを支援し、農村地域に安定をもたらすことに貢献しています。

 その結果は、ネスレと農家の双方が得をする「win-win(ウイン・ウイン)」の関係をもたらします。ネスレは競争力が高まる一方で、農家と農村地域は豊かになります。

 こうした投資の収益性を測定するには、5年や10年、あるいは20年といった年月がかかります。その代わり、社会に及ぼした影響の度合いによって短期的な成果を測定すべきです。

 ところがCSR活動の場合、ほとんどの企業は、支援活動に費やした金額や参加した人数といった数字でCSRに費やした費用だけを測定している。こうしたインプットではなくアウトプットを測定することを提案します。

 社会に及ぼす影響について一般的な測定方法はありません。ネスレのように小規模農家にフォーカスを当てるなら、農村の環境の改善度や貧困者の比率といった農村地域の状況に関連した指標で測定すべきでしょう。

 今日のグローバル経済においても、競争上の優位性は、自社の強みが何であるかを理解したうえでユニークな存在になることからもたらされます。

 従来のCSR活動から、社会と共有できる価値の創出を追求する段階に日本企業が進めば、さらに強い競争力を手にできると信じています。


ハーバードビジネススクール マイケル・ポーター教授
社会問題の解決と利益の創出を両立 企業に新たなビジネス機会をもたらすCSVとは(上) - 特集 : 日経Bizアカデミー http://s.nikkei.co.jp/XiEjZq
2013/1/9 
 近年、ビジネスの手法によって社会問題を解決しようとする新たな動きが広まってきている。社会的価値と経済的価値はこれまで、企業のビジネス活動展開において相反する概念であると考えられてきた。しかし、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)教授が提唱する共通価値の創出(Creating Shared Value=CSV)という概念によると、それらは相反するものではなく、両立することによって企業はむしろ新たなビジネスチャンスをつかめるという。このほど、一橋大学大学院国際企業研究科が主催するポーター賞表彰式のため来日したポーター教授に、CSVを構想した経緯や意義について聞いた。9日と16日の2回に分けて掲載する。

◇   ◇   ◇

■共通価値の創出とは何でしょうか。


 世の中には環境問題や住宅問題、健康問題、飢餓、障害者雇用など様々な社会問題があります。共通価値の創造(CSV)とはビジネスと社会の関係の中で社会問題に取り組み、社会的価値と経済的価値の両立による共通の価値を創造するという理論です。

 自社の事業の特性や社会との接点をよく考え、3つのコンセプト、すなわち(1)市場における製品、(2)バリュー・チェーン、(3)ビジネス環境、を見直すことで実現されうると考えます。

 社会問題とビジネスは分けて考えられるものではありません。そして大きな社会問題には実は大きなビジネスチャンスがあり、CSVの概念により企業は、よりユニークで他社にはない戦略を策定することができます。市場の拡大においては多くのチャンスが潜んでいて、例えば製品製造過程の改善のプロセスにおいても社会問題にインパクトを与える要素は潜んでいるのです。

■CSVのアイデアはどのように発想しましたか。ファイブフォース分析(Five Force Analysis「Competitive strategy」1980)からバリュー・チェーン(Value Chain「Competitive advantage」1985)を経てCSVに至る変遷を伺わせてください。

 ファイブフォース分析(=FFA)は産業に視点を置き、バリュー・チェーン(=VC)は企業に視点を置いた理論でした。CSVはVCのコンセプトの一部から生じた概念で、ビジネス環境に多大な影響を与えます。

 これまで企業が公害や二酸化炭素排出を削減しようとする場合、更なる多額のコストが発生し、それに比例して働かなくてはならないと考えられていました。しかし、労働者が毎日、より効率的に仕事に励むには健康的な労働環境と経済的利益が必要です。ここ10~15年、問題となっていた環境や健康といった基本的な社会問題をわれわれが解決するためには、その前提として社会改善や効率的な企業運営が必要になります。そこに論争はありません。

>> CSVは企業が現在見落としている市場があるという前提に立つCSVは企業が現在見落としている市場があるという前提に立つ


 CSVの根底にはこういった全体的な働きがあり、私の研究はCSVの発想には企業が現在見落としている市場があるという前提から派生します。私は日ごろから多くの企業経営者と出会いコンタクトを取る機会があります。その対話を通じて、CSVは寄付やCSR(企業の社会貢献)ではなく資本主義に基づいていて、社会問題は巨大市場を生み出す可能性があり、それは企業が従来の顧客や市場を見直すことで獲得されるということに気付きました。

■2011年のハーバードビジネスレビューに掲載されたCSVの論文がその年の最高の論文ということでマッキンゼー賞を受賞されたわけですが、その反応は今までになく大きかったと聞きます。どうしてだと考えますか。

 インターネットの発展や、通信による情報普及のメカニズムの普及で世界は小さくなり、色々な考え方がスピード感を持って世界中を巡っています。かつて情報は発表されてから翻訳を経て世界中を回るのに何年もかかったわけですが、今では数秒で受信可能な時代になったというのが理由のひとつです。

 しかしそれ以上に重要な理由として、ビジネスにおける企業の果たすべき役割や社会における企業の役割は何なのかというのが、今現在この歴史の瞬間において最も注目されているがゆえに高い反応があったのではないかと思います。世界中の企業が社会における自分たちの見られ方を気にするようになっています。

 多くの企業が、もっと寄付して欲しいとか、もっといろんな社会貢献活動をやって欲しいというプレッシャーを感じているのです。そのため、企業は自社の活動の本質を考え、社会との接点を見つめなおし、新たなモデルを構築することで、持続可能な社会問題解決に寄与する新たなビジネスチャンスを広げることができるというCSVの理論を受け入れています。先進国のみならず途上国においてもさらに高い関心が寄せられていると考えます。

 もともと私が行った企業戦略についての研究の背景にあった動機というのは、全く新しい考え方、全く新しい企業の規律を導入したいということでした。そして私の学者としてのキャリアの成熟の中で、私は高い次元の目的に研究を進めたい、どうすればより高い目的のために貢献できるかと繰り返し考え続けてきました。そしてその都度より高い水準、高みを目指していった結果、今の時代に則して企業の存在目的を見直し、これこそが企業分野における一番重要だと考えるものが、CSVなのです。

>> 利益を上げる能力があるからこそ、社会問題の解決を考えることができる

利益を上げる能力があるからこそ、社会問題の解決を考えることができる


 私にとっては、企業の存在目的の見直しが生涯にわたっての中核となるような研究課題となっています。利益を上げることを良いこととしたい、ごめんなさいと謝りながら利益を上げなくてはならないような状況は変えなくてはならないと思うわけです。利益を上げられる能力があるからこそ資本主義社会においてはいかなる問題でも解決が考えられるわけで、利益を上げることを恥ずかしがる必要は全くない、これは祝福すべきことであると考えています。

■なぜ今の時代にCSVが必要だと考えるのですか。

 CSVとは、資本主義的アプローチによる社会問題の解決で、草の根的なアプローチや、寄付を基にしたNGO(非政府組織)などのアプローチよりも効果的です。企業が環境を改善しながら事業を展開できると理解したなら、二酸化炭素の排出量削減などの効果的な結果が出ます。

 一方、社会問題が解決されないのは資本主義に問題があるからで、社会主義の方がいいと考える人も増えています。しかし、資本主義はニーズに対応する仕組みであり、社会問題の解決にとても効果的で効率的な仕組みです。私たちは忘れがちですが、社会の中で富を生み出すことができるのは企業しかありません。企業活動で顧客ニーズを満足させることができ、利益を上げることができたときに社会における富が生まれます。

 なぜ、CSVが重要かというと、社会問題解決の従来の手法は、効果がなく事態は悪化する一方だったからです。政府もNGOも富を創り出すことはできません。政府は疲弊し、こういった問題に効率的に取り組む十分な資金や術も持っていません。

 いろんな方が政府は役割を果たしていないと言いますが、政府だけでこういった問題を解決するのは不可能です。我々はプライベートセクターを社会問題解決の一つの重要なプレイヤーであると考えますし、それには多くの事例があります。NGOやNPO(非営利組織)もがんばっていますが、彼らには大規模に展開する技能や資源がありません。小規模の人を助けることはできますが、何億人もの人々を助けることはできません。

 ビジネスの拡大において社会問題を解決することは可能ですし、多くの機会があります。東日本大震災時にユニクロが現地に新店舗を展開したと聞きますが、そうした企業活動が展開されるからこそ人を雇うことができ、必要なものを届けられます。

 例えば寒さという問題にテクノロジーを提供し応用できるということの方が、長期的インパクトから考えてもそれ以外の社会貢献活動より重要だと思います。資本主義においては自身の利益が更なる利益を生み出しますので、さらに増税によって資金を集める必要はありません。ソリューションは持続可能な経済活動を生み出し、規模拡大によってより多くの利益を生み出すことができます。

>> 低所得層に対しても、市場を捉え直せば資本主義的手法が使える

低所得層に対しても、市場を捉え直せば資本主義的手法が使える


■CSVをチャンスと捉えるにはどうしたらいいのでしょうか。

 いわゆるマインドセットを変えることです。こういった考え方は少し前からありました。P.K.Praharadが提唱した「ボトム・オブ・ピラミッド」という考え方では、これまで消費のターゲット外とされてきた世界の約7割にあたる低所得層の人たちに対しても、資本主義や市場の捉え方を考え直すことで資本主義的手法が使えるというものです。共通価値を創造するとはまさにそういうことで、大企業にも理のあることです。

 かつて社会問題対策と利益の創出は相反するものだと考えられていました。社会問題というものは最大のビジネスチャンスであるというようには考えられてこなかったのです。

 環境対策はコストがかかると考えられており、規制や課税といったさまざまなルールで企業の行動を取り締まろうとしました。多くの人々が経済的な成功と、環境的な成功をトレード・オフしないといけない、この3者の間のバランスを取らないといけないという風に理解していますが、これは危険な考え方だと思います。

 経済的な成功という一つの問いについて考えればいいと思うのです。そして環境的な側面や社会的な側面がこれを強化する、つまり、どちらかを得るために別のものを減らさなくてはならない、バランスを取らなくてはならないという関係性にはないと思います。環境面のボトムラインを上げれば、経済面のボトムラインも上がると考えるのがCSVで、エネルギー効率が高くなり、労働者の福祉が増進すればこれはコスト増ではなくコスト減であると考えられるようになっています。

 最近はあまりに多くの企業がステイクホルダー間の利害関係のバランスを取らなくてはならないと考えているところが心配です。全部の方向性、ベクトルをそろえるということの方が重要です。微妙な違いではあるが重要な違いではないかと考えています。

■企業と社会の関係についての考えを聞かせてください。


 私はCSVの構想をまとめる中で、企業と社会との関係をどのようにみるべきか、どう再定義すべきであるかということを取り上げました。社会における企業の役割については近年、2つの根本的な問題があります。

 まず1点目は、一般の多くの人は企業を社会問題の発生源として見ているということです。例えば20年ほど前の米国では、日本の企業に対して良い内容ならアメリカという国にとっても良い内容だと考えられていました。


 しかし現在では企業にとって良いことは国にとって悪いことだと思われがちです。レイオフで多くの人が職を失って、所得がどんどん下がっていく中で、企業だけが成長している印象があるのです。このような認識は世界中で広がっているように思います。

 そして2点目は、社会の問題は企業の責任ではないという古い考え方があったということです。うまく企業経営をすることが企業の仕事で、利益を出せば社会のために役立っている、社会問題は他のセクターの役割だと多くの企業の人間は考えてきたわけです。

 しかし、この非常に狭い考え方のせいで企業は多くの機会を見逃しています。

 例えば途上国では多くの青少年が失業し低所得の負のループから抜けられずにいますが、多くの企業は「それは残念ですね。でもそれは社会問題です。我々とは関係がありません」という態度でした。それに対して例えばコカ・コーラは直接的・間接的に自身の事業活動につなげていくことができないかと問題を考え直し、ごく簡単な活動を始めました。

 コカ・コーラは、自分たちが活動している地域社会において、若者たちを対象とした支援プログラムを導入しました。これは生産性や売り上げの向上とともに、そのパートナーである地元の小売ネットワークにも十分なインパクトがあったといいます。

■CSVと戦略的CSRの違いは何でしょうか。

 それは従妹のように近い関係にあります。CSRはビジネスとよりよく密接に結びつくことによって確かに良い働きをしますし、企業はCSRのステップを経ることで、CSVに向かってきています。しかし、CSRは根本的にはCSVとは異なるものです。

 CSRは評価を受け、良い市民を生み出し、害悪を減少させ、ステークホルダーとの良い関係を生み出すものですが、どこの会社でも同じようなことが行われます。これに対してCSVは企業が持っている資源や専門性を使って社会問題を解決するということで、ただ単に危害というものを最小限に抑えるということではありません。自社の行っている事業の中で社会問題との接点や社会的ニーズを見つめなおすことを必要とするからです。

>> CSVは資本主義に基づき、ビジネス活動を通じて社会を変革できる
CSVは資本主義に基づき、ビジネス活動を通じて社会を変革できる


 またCSVは資本主義の原理に基づき利益を生み出すもので、社会が直面している課題に対してとてもパワフルに応えることができます。私たちは資本主義の可能性について狭く捉えがちです。しかし資本主義の最も重要なことは、(便利な製品やサービスを生み出すだけではなく)マイクロファイナンスのように社会の変革を起こすことであり、ビジネス活動を通じた排出量の削減による環境改善のイノベーションによって環境へのインパクトを軽減したり、バリュー・チェーンを通じたイノベーションによりエネルギーをセーブしたりできることなのです。

■日本におけるCSVの実践についてはどのように評価しますか。

 日本では今でもビジネスと社会を切り離した考え方があります。日本の経営者と話をすると、震災が起きたら何ができるかと問うと、多くの企業は寄付をすると答えます。社会変革のためには、寄付からビジネスへの思考の変化が必要です。

 これに対して、50年程前、日本では少なくない数の企業がCSVの考えを持っていました。第二次世界大戦後の再建の過程において、当時の起業家の多くは資本主義を通じて国家を再建しようと企業活動を行っていたのです。戦後初期の経営者らは国家再建のために企業活動を行っていました。

 企業は、責任ある企業活動を行っていくという原則のもと、市場における様々なチャンスをとらえて社会のニーズをビジネスチャンスとしてとらえて収益をあげていくことができる訳です。こうした考え方は日本の社会に根付いていると思います。

 大戦後に日本の企業が発展したのはこうした哲学に基づいているのではないでしょうか。戦後の復興を果たし市場を整えていくにはどうしたらいいかと企業経営者は考えたと思います。戦後間もなく食糧不足も政府ではなく企業、資本主義、資本家によって解決されていきました。ですからビジネスリーダーはこういった共通価値の感性を既に持っていたと思うのです。

 ただし、ここ20~30年で事情は変わりつつあります。官僚主義体制が強化され、私たちのモノの見方が狭くなるに従って本来の企業の存在意義、あるいは企業が提供する社会的な価値、収益をあげることによってどのような社会的価値をもたらすことができるかを考えることをだんだん忘れていきました。しかし、私は日本の多くの企業は今でもCSVの考えを持っていると考えています。実証例として歴代のポーター賞受賞企業のオイシックスやガリバーインターナショナルなどいくつかの例があります。まだ大規模な例はあまりありませんが、展開次第ではグローバルに新たなイノベーションを創造するのではないでしょうか。

>> ソーシャルビジネスとCSVの強いつながり
ソーシャルビジネスとCSVの強いつながり


■日本では近年ソーシャルビジネスへの関心が高まっていますが、ソーシャルビジネスとCSVの関係についてどのように考えますか。

 強い関係性があると思います。ソーシャルビジネスは社会性の観点から発生し、寄付ではなくビジネスの観点から持続可能な社会活動を行うことを想定しているわけです。これはCSVと同じ基本的な発想から生まれており、ビジネスモデルとして利益を生みつつ社会性のある問題により効率的によりスピード感をともったインパクトを派生させるという意味でCSVに繋がるものだと考えます。

 私も社会企業家の例は引用していますが、社会企業家は非営利的な意志からスタートしCSVに繋がる利益を伴うモデルを創造し、栄養問題やホームレスといった問題に対処します。その手法はNGOより効率的で、ビジネスモデルを活用し、マネジメントや説明責任を伴い、効率的に社会問題に対して価値創造を行います。

■ソーシャルビジネスやCSVのグローバル展開により地球規模問題の解決に寄与できますか。

 私が当初着目していたのはネスレやトヨタ自動車のように大規模な事業展開を行っている企業でした。そのような企業が機会を見出し、CSVの概念を獲得すればより素早く利益を生み出すことが可能であると考えました。しかしソーシャルビジネスも次世代のトヨタになりうると考えます。

 というのは、多国籍企業でも国内市場に特化した企業でも、CSVの実践においては活動地域の社会問題に対して同様に機会を持つことができると考えるからです。多国籍企業には多くのニーズがあり、国内企業においても同様のことが言えますが、それは日本企業においても同様です。地方の銀行であっても、経済的インパクトを与えることが可能ですし、世界銀行のようにローカルあるいはグローバルを問わない働きをすることができます。

 ソーシャルビジネスは地域限定的で小規模であることが多く、インパクトを生み出す規模や資源が欠けています。しかし中には拡大しグローバルな展開をして国際企業になったものもあります。グラミン銀行やマイクロファイナンスなどは最初ごく小さな組織でしたが今では大きなものになり、世界的に大きなイノベーションを生み出しています。

 ただし、効果的なCSVの実現のためには、マネジメントを強化する必要があります。訓練によって経営や財務、マーケティングなどに精通することです。経営に精通することで、利益構造や社会的問題を理解することができます。

>> ビジネスを通じて社会にインパクトを与えることを若者に伝えたい
ビジネスを通じて社会にインパクトを与えることを若者に伝えたい


 多くのソーシャルビジネスは小規模で、起業家の情熱でプロジェクトを突き進めていきますが、経営技術や人事トレーニングといった技術が不足しがちです。ハーバード・ビジネス・スクールで我々は社会起業家プログラムを通じて関心のある多くの生徒に経営の訓練をしています。

■現代の若者はどうしたらCSVを実現できるでしょうか。

 現代の若者たちはまさに育ってきた時代背景から社会的問題に関心が高く、多くの人が医療や環境、低所得、貧困といったあらゆる種類の社会的課題の存在を認識しています。大学を卒業した私の娘の場合も、非常にこういった課題を強く認識しながら育ってきていて、私たちような前の世代とは違った意識を持っています。若者たちにとってみると、今の現在こそ彼らの現在であると同時に未来であるわけです。その結果、情熱をもって良いことをしたいと強く感じている若い人たちがいると認識しています。

 ところが残念なことにそういった若い人たちは貢献する手段は、NGOを始めることだと思いこんでしまっている節があります。例えばプリンストン大学の学生が目指す進路として最も人気なのはティーチ・フォー・アメリカというNGOです。非常に頭のいい優秀な若い人たちが都市部の公立学校に出かけて行って、ボランティアで教えるということをやっているところです。

 もちろん、その意識、その気持ちは素晴らしいと思いますが、これでは世界は変わりませんし、教育における根本的な問題も解決されません。教育問題における根本的なものは、やはり教育提供の仕方を考えるということで、これはまさにマネジメントの問題だと思います。民間の力を動員し、そして説明責任を持たせてやるということをやった方がきっと良い解決法になると思うのです。

 自分の時間やお金を寄付するNGOを設立し、この寄付金を使ってニーズに応えていくというのは素晴らしいことです。社会問題解決のためのNGOもとても価値があります。しかし何百、何千という多くの人に対して大規模なインパクトをもたらすことはできません。

 そのため、私は若者に社会問題解決の貢献の仕方として、NPO以外の選択肢としてビジネスを通じた社会的インパクトの可能性を伝えたいと考えます。

>> 日本の若者はビジネスを変革する潜在能力を秘めている
日本の若者はビジネスを変革する潜在能力を秘めている


 その手段は、大企業勤務でも、社会起業家となっても可能性はあります。しかし大企業を変えるのはなかなか難しく、CSVを優先事項と捉えるように企業目的を再定義することが重要です。

 例えばネスレでは企業理念としてCSVを取り入れていますが、多くの企業においてもそのような取り組みを進めることが期待されており、若い人の社会問題に対する情熱を歓迎するような環境となることが求められます。そのためにも、私はビジネスリーダーの意識を変えたいと考えます。

 優秀な若い人たちが資本主義の力というものを理解できたらどんなに素晴らしいでしょう。そしてビジネスモデルを作ることの効果について理解を助けるべきだと思います。寄付金に頼った財団というような形で安価な住宅を見つけるサポートをすることよりも、安価な家を建てる力を持つ企業のビジネスモデルを創造することができれば、規模はさらに拡大し問題解決にパワフルに寄与することができるのです。

 若者は真に世界を変える可能性を秘めていると考えます。世界中には多くの例があり、日本の多くにおいても寄付以外の貢献に取り組む萌芽があると考えます。日本の若者もビジネスを変革する潜在能力を秘めていると思います。彼らは古い世代には難しい、日本を新たな方向に導き、オープンで国際的で効率性やイノベーションに焦点を当てることができるでしょうし、そのように期待しています。