もぁらすの遊び場 -25ページ目


「パパみたい、って言ったのは、そういう意味じゃないよ」


俺が「パパになるんだろ」って言ったあと、夏美は濡れた瞳を細めて笑った。


「功一といると、家族以上に安心感があった」


弱い声で、申し訳なさそうに夏美が言う。


「でも、それってただ甘えてるだけだったね」


夏美がそう言った言葉は、俺の中でも小さく響いた。


「お互いに、そうだったかも」


「功一は頼り甲斐があったよ」


ゆっくりと、2人の会話が交差していく。


「怖かった。自分がしてる事がわかってたから、怖くて、迷って。

頼るところ、間違えたね」


夏美はそう言うと、手で優しくお腹を撫でる。


「でも、日に日に。どうしても、誰にも言い出せなくなっていくのに。

このお腹の子が、愛しくて」


「そうだな」


「でも、どうして私ばっかり、って」





ごめんね、と。


俯いた夏美の身体が、小さく見えた。



「思い浮かんだのが、功一だけだったの。絶対、助けてくれる、って

自分勝手なこと、考えた。

でも、功一は本当に私のこと、助けてくれちゃうから……」


目が覚めたよ、と。


顔をあげた夏美の顔は、さっきまでの夏美の顔とは違った。



「巻き込んで、ごめんね」



何も、言えなかった。



軽はずみな同意は、どれもが安っぽくて、嘘になる。





「ごめんな、力になれなくて」


「充分」




覚悟はあった。


それは、確かだ。




「ね、功一」


「うん」


「……何でもない」




そのあと、夏美が何を言おうとしていたのかはわからない。


俺は夏美と一緒にマンションを出ると、


「こってり怒られてくる」


と、笑って手を振る夏美と別れた。



一緒に行こうか、と言葉が出そうになったけど、「またそうやって甘やかす。好きじゃないくせに」と、夏美が言った。




「でも、お互い様だったね」




いつしか、恋心を無くしていた。


はじめから、そんなものがあったのかさえ思い出せないほど、長い月日を過ごしてきた。



駅に向かって歩く背中が淋しくて振り返る。



夏美の姿はもうそこにはなくて、俺は地下鉄に乗り込んだ。



さっきまでの哀愁もすぐ何処かへ飛んで、



俺は田村の事を思い出していた。