「そんな告白いらねえんだよ」
凄んだ大谷の目は真っ赤。
「告白じゃなくてさ、頂戴よ。田村」
その瞬間、大谷の拳が腹に飛んできた。
ごふっ、と背中を丸めて前のめりになる。
「何かっこつけてんだよ、今の本気じゃねーから、外出ろよ。長嶺さん」
「外出ろよなんて言う奴いたんだ」
イッテェ。
マジで入れやがって。
「実花がどうのこうのじゃねーから、わかってますよね?」
お前、振られたくせにかっこ悪いぞ、と言いそうになったけど、
俺が横槍入れたせいだから何も言えない。
この自分の事を棚上げして俺に殴りかかれる自己中なところ、憧れるわ。
その後、抜け出して外で本気のパンチがみぞおちに入って、
酒を全部吐き出した。
手加減しろよ。
俺が吐いているのを見て、ちっとも申し訳なさそうに「今度はそっちが奪われる側なんで、隙あらばガンガン行きますから」と、宴の席に戻っていった。
冗談じゃない。
とてもじゃないが、店に戻る状態でもなく、
タクシーを拾って帰宅した。
翌日の展示会。
あのままぶっ倒れて寝て、トラの餌やって風呂入って、会社についたものの
身体全体が鈍痛につつまれ、腹は痛いし、内出血してるし。
でも、そのくらいの方が気が楽だった。
展示会で田村とすれ違うたび、かすかに香るその香りに何度も気をとられた。
話すタイミングが見つけられず、日中の商談が落ち着いた頃にはもう、田村の姿を見失ってしまっていた。
翌日、歳なのか、昨日よりも身体が痛い。
だんだんと大谷にムカついてきて、なんで俺あいつに殴らせたんだ?
と、自分にも腹がたってきた。
今日こそは、田村に鍵を渡そう。と、意気込むものの、片桐さんに絡まれているうちに、またもや田村を見失う。
そんな風に、行き違いは翌週まで続いた。
電話をするにも、大谷打撲が日々追うごとにダメージを主張してきて、万全を期せない。
すぐ歩けば、近くにいるのに。
でも、こんな腹も見せれない(上手くいく前提の下心が俺を邪魔する)
そして、週が明けた。
田村は店回りが多いのか、本社には姿を現さない。
だから、油断していた。
突然、コンビニの出入り口で田村に遭遇した時は、
あまりにも業務的な田村の「お疲れ様」の声に、そのまま声をかけそびれた。
そして意を決し、不在通知の郵便を受け取る大義名分を片手に、コンビニから出てくる田村を待ち伏せする。
そもそも、この後に及んでまだ、信じられなかった。
大谷に、騙されてるんじゃ、と思った。
あの、憎しみに満ちた瞳は、悪態をつきかねない。
俺を騙して、おとし入れそうだ。
さっきの「お疲れ様です」なんて、嫌悪感すら感じた。
やはり、時間が経ち過ぎたのか、
俺がひどいことを言ったから、
もう、手遅れなのかもしれない気がする。