あー。秋晴れ。
昼間の暖かい太陽の熱が、そのへんにある草やアスファルトを優しく焼いて、
地球が美味しく仕上がったような匂いがする。
オレンジ色の光が俺と田村を照らして、アスファルトには紅茶色に光った夕日が俺たちの影を浮かび上がらせていた。
離れた、2つの影を。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あー、ん。大丈夫。……ンゴホッ!」
上がったり下がったりの不安定な秋の気候のお陰で、俺はまんまと風邪を引いた。
部活を引退してから、体力が落ちたのかな。
「無理しないで休んじゃダメだったんですか?」
休んじゃったら、田村に会えないじゃん。
「そんな大した事ないからさ」
「けど、他の受験生の人達にうつったら恨まれちゃいますよ?」
う、ぐ。
田村の正論に、言葉が出ない。
「あー、はいはい」
じゃあ、明日休むよ。休めばいいんだろ?
そうするよ。
心なしか、田村も俺から距離をとっていることだし。
ゴッホン、と喉で絡まる病原菌の塊が悪化している気すらしてきた。
頭も、熱い。
ヤベ、これホント明日無理だわ。
生暖かい夕陽の日差しは心地いいのに、そのせいか頭が朦朧としてきた。
「先輩?」
ぼけっとしていたからか、いつの間にか駅に到着。
後は階段を登って、改札を通り抜けたら田村との下校デートは呆気なく終了する。
あーあ。
今日も短かった。
しかも、なんも覚えてねー。と、鼻をズズッとすする。
その時、クイクイ、と、
田村が俺を見上げで制服の裾を引っ張った。
「ん?」
もはや鼻声がやばい。これは相当末期だ。
と、田村を見ると、
田村が小さな声で、
あっち。
という。
あっち?
そこは階段下だけど?
と、クイクイされるがままに俺は階段下に連れられた。
田村、と声を出すほんの寸前。
ぴょんと飛び跳ねた田村が俺のマスク越しに、キスをした。
「早く良くなって下さいね。先輩に会えないと、寂しいですから」
「あ、……う、うん」
「じゃ、帰りましょう。今日は早く寝て、明日も1日安静にしててくださいね」
「は、はい」
田村、って。
前から思ってたけど、ホント。
何処から編み出してくんの、その男を腰砕けにする小技。
指先でキスしてきたり、マスク越しにしてきたり。
いや、直接的な唇は最高だけどね。
けど、そういう男の本能を煽るワザ、って。
まんまと田村にヤられた俺は、
「もー、お休みして下さいよー」
翌朝。
いつもの改札。
「俺の治癒能力の高さ、パないから」
「えー」
風邪は性欲で治癒するという事を知った初秋の出来事。