調布市にある鬼太郎茶屋に行ったとき、屋根の上に居座る妖怪に目を奪われた。


鬼太郎茶屋の2階は妖怪ギャラリーになっていて、そこにも「おとろし」がいた。

この妖怪は、鳥山石燕「画図百鬼夜行」、佐脇嵩之「百怪図巻」、絵双六の「十界双六」に描かれている「おとろし」である。

作者不明の「化物づくし」では「おどろおどろ」、尾田郷澄「百鬼夜行絵巻」では「毛一杯」の名前で描かれているが、その姿は、長い髪に覆われ顔に前髪を垂らした姿で統一されている。

これらの妖怪画には、解説がほとんど無く、どんな妖怪なのか、よくわかっていない。

珍しく解説のある「化け物尽くし絵巻」では「ししこり」という名前で、高さ8尺(約1.8メートル)、8畳ほどの大きさで、口の広さは1丈1尺(約3.3メートル)とある。

さらに豊前国の奈良林(福岡県飯塚市綱分字奈良林)に現れ、牛馬を全てひと呑みに食ってしまったが、山狩の末、岩穴に潜んでいたところを竹槍でしとめた、と書かれている。

江戸時代の旅行家、菅江真澄の「雪の出羽路」には、秋田県湯沢市稲庭町の「さへの神坂」に妖怪が出現したことが記されていて、「ぬらりひょん、おとろし、野槌なんど百鬼夜行することあり」という記述がある。

「久保田城下百物語」には「長野坂檜山屋敷のおとろし」という妖怪が描かれているが、頭部の巨大な人の姿である。

このようにいまいちはっきりしない妖怪だったが、昭和に入り、藤沢衛彦が「妖怪画談全集日本篇」で、「不信仰にして神をないがしろにする者を鳥居より入らせぬオトロシの怪」と記したことにより、現在は、神を信じない不信仰者が鳥居をくぐろうとすると鳥居の上から襲う妖怪、というイメージが定着した。

山田野理夫は「東北怪談の旅」の「オトロシ」で、「福島県で一度も寺の参拝などをしたことのない不信心な者が、母の葬式に寺の門をくぐろうとしたところ、突然太い腕に捕まえられて吊し上げられた」と記しているが、これは山田野理夫による創作とされる。

これが「ゲゲゲの鬼太郎」だと、「おどろおどろ」という名前で、長く伸ばした毛で相手の血を吸う吸血妖怪となっていた。

アニメでも2期以外全てに登場しているが、全て設定が違う。

1期では、科学者が毛生え薬の副作用で妖怪に変身してしまった。3期では不老の研究の結果、妖怪に変身してしまった。4期では1期同様に、科学者が毛生え薬の実験により突然変異した。5期では大学教授として人間社会に潜伏する妖怪だった。6期では、不老不死細胞を発明した科学者が自分の身体で人体実験をしたため妖怪に変身してしまった。

妖怪ウォッチではAランクだった。

さて名前の「おとろし」であるが、これは「恐ろしい」の上方訛りとされ、「おどろおどろ」は「君が悪い、恐ろしい」の「おどろおどろしい」の名詞化したもの、という説がある。

ぼうぼうとした長髪を「棘髪(おどろがみ)」と呼ぶことも関係があるのでは、と、考えられている。