「猩々(しょうじょう)」は中国から伝わった伝説の生き物で、日本では「寿老人」の代わりに七福神として描かれたこともある。

中国で「猩々」というと、オランウータン のことを指す。

中国の古書「山海経」では、「猩々」について、禺(サルの一種)に似て耳が白く、四つん這いで歩くが走るときは人のよう、その肉を食べると足がはやくなる、人の顔をしているが豚に似ている、人の名がわかる、と記されている。

「唐国史補」には、酒と屐(はきもの)を好み、それを使って「猩々」を誘い捕らえることに成功した、とある。

「本草綱目」では、交趾の熱国に住み、毛色は黄色で声は子供のようだが、時に犬が吼えるように振るまい、人の言葉を理解し、人の顔や足を持ち、酒を好む、と記されている。

このように異国の生き物を、想像力を生かして記している。

この「猩々」が日本に伝わると、様々な伝説が生まれた。岩手、山梨、富山、兵庫、和歌山、山口などの昔話や伝説に、その名前が見られる。酒を好み、山に棲む人に似た猿のようなもの、と言われながら、なぜか、日本では海に出没する話が多い。

富山県では、身長1メートルほどの「猩々」が船に6、7匹、船に上がってきて舳先に腰をかけるという話が伝わる。

船乗りが騒ぐと船をひっくり返してしまうので、船乗りは黙って船底に打ち伏したという。

山口県民代島では、「猩々」が海から船に、樽をくれ、と声をかけ、言うことに従うと船を沈められてしまうという。

江戸中期の地誌書「裏見寒話」には、山梨県の西地蔵岳で猟師が7尺(約2メートル)の「猩々」に遭遇して銃で撃った話が記されている。

また、徳川将軍に「猩々」の皮が献じられた、という記録も残っている。

やがて、能「猩々」や歌舞伎「寿猩々」で扱われるようになった。真っ赤な能装束で飾った「猩々」が、酒に浮かれながら謡う。

次第に酒家や赤色のものを「猩々」と呼ぶようになった。

名古屋市緑区を中心に行われる「猩々祭り」では、真っ赤な猩々人形を大人が被り、子供を追いかける。尻を叩かれた子供は夏病にかからないという。

鳥取市周辺で行われる麒麟獅子舞という民俗芸能では、先払い役として「猩々」が登場する。

埼玉県の秩父神社には、能楽を題材にした彫刻が施されていた。

映画「妖怪大戦争(2005年)」では、主人公が引っ越した町で「猩々」が祀られていて、全身赤い姿で近藤正臣が演じていた。

ジブリアニメ「もののけ姫」では、森の賢者と呼ばれる赤い目の猿のようなもののけとして、登場していた。森を蘇らせるために植樹を行なっていた。

今では、紅色を示す言葉としても使われている。

目の赤いショウジョウバエは、酒に誘引される性質を持つこともあって、この名前が付けられた。

「和漢三才図会」には、「猩々」の血は深く鮮やかな紅色をしており、その血で染めた毛織物を猩々緋と呼ぶ、とある。

赤毛のオランウータン を「猩々」と記すことから、チンパンジーを「黒猩々」、ゴリラを「大猩々」と記す。

動物園に行ったら、大きなオランウータンがのっさのっさ動き回っていた。昔の人はこの異様な生き物を見て、神秘的なものを感じたのだろう。