本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・貫井徳郎 「被害者は誰?」(講談社文庫,2006 初出単行本は2003)

 

 

 この著者の作品は以前 「失踪症候群」 を読んだことがあり、文学性の高い社会派という印象でした。それが本作は、なんとユーモアミステリーです。

 

 売れっ子ミステリー作家・吉祥院(きつしょういん)慶彦は頭脳明晰でイケメンなので、態度は尊大です。

 今や雲の上の存在の彼と、警視庁捜査一課の ‟ぼく” こと桂島は大学サークルの先輩後輩ということで、付き合いが続いていたのでした。そのサークルは <太陽にほえろ!研究会> だとか。

 

 現実の事件を扱う桂島の持ち込む話題に、吉祥院は興味津々。ほんとは部外者に捜査情報をもらすなどもってのほかながら、吉祥院の推理で事件解決したことが二度や三度でないため、捜査に行き詰まると一課内でも吉祥院の名が出てくるようになりました。

 

 原稿執筆の合間を縫って桂島の相談に乗る吉祥院は横柄、ワガママの極み。振り回されながらもご機嫌を取り、おだて上げて事件を推理してもらおうとする桂島との軽快な会話がキモになっています。もちろん盛り込まれるトリックのタネも秀逸。

 

 本作は全370頁の連作中編集。100頁ほどの 「被害者は誰?」 「目撃者は誰?」 「探偵は誰?」 と、短編の 「名探偵は誰?」 の4本収録。名探偵が事件の真相に迫るという王道展開じゃなく、ひとひねりして副題どおりの謎を解く趣向です。

 

 第二次大戦直後、アメリカでデビューした女流ミステリー作家パトリシア・マガー(1917~1985)という方があり、彼女のデビュー作が 「被害者を捜せ!」。つづいて 「探偵を捜せ!」 「目撃者を捜せ!」 を出版したそうです。

 

 殺人犯が逮捕されたものの、いったい被害者が誰なのかがわからない-

 このユニークなアイディアを大胆に採用し、現代日本にアレンジしたうえ設定も一新、オリジナル作に仕立てたとのこと。楽しんで書いたんだろうな、という雰囲気がいかにも表れています。

 

 しかも、これぞ小説ならではの筋立ては映像化不可能。文章でないと意味をなさない仕掛けです。作家の矜持を感じました。