本日は、「MSI=みつまめスケプティック委員会」 からの活動報告です。
古今東西あまた世上をにぎわせたフェイク科学系の話題を総ざらいし、信頼に足る真相に迫ります。
今回は、カルタ・マリナ を特集しましょう。
《カルタ・マリナ(Carta Marina)》 とは ‟海景文書” を意味するラテン語。スウェーデン出身のカトリック大司教オラウス・マグヌス(1490~1557)が1539年に完成させた北欧の海図です。
16世紀の北欧地図カルタ・マリナ
マグヌスはドイツの大学で学問を修めたものの、おりから母国スウェーデンではグスタフⅠ世王による1527年の宗教改革でルター派に転向、プロテスタントを国教とします。カトリックのマグヌスは身の置きどころがなく、イタリアのローマに亡命しました。人生いろいろですねぇ...
北ヨーロッパの海域を記したその地図はあまり数が刷られなかったうえ、ローマ教会が学者や探検家だけの閲覧に止め、一般からは秘匿したため歴史に埋もれてしまいました。その存在が現代に知られたのは1886年にミュンヘンで発見されてから。今見られるのは1961年にスイスで見つかったのを、スウェーデンのウプサラ大学図書館が買い上げたものです。
オリジナルの図版は125×170センチの大きさがあり、スカンジナビア半島からアイスランド、東はバルト三国、西はイギリス北のへブリティーズ諸島までなかなか正確に製図されています。
その史料価値以上に目を惹くのは、この地図にはおよそ実在とは思えないヘンな怪獣がいっぱい書き込まれてること。船に巻き付く巨大ヘビとか、人間をハサミに捉える巨大ザリガニとか。
海には怪獣があふれてる?
当時、この図を見た船乗りは信じて恐怖し、航海には細心の警戒をもって臨んだのでした。こうした海の怪獣は現実的じゃないと確信されたのは実に100年以上あと。1700年代はじめに作られた海図には、ようやくこれらの姿が消えたのです。
マグヌスは船乗りを脅かすためテキトーを描いたのでしょうか、さにあらず。これは古代ローマの学者・大プリニウス(23~79)著 《博物誌》(77) など過去の書物や、聖書に出てくるリバイアサンなどの海の怪物伝説を参考にしており、海が未知の世界だった時代の認識を、宗教観を取り入れつつ反映させたのでした。
おりしも大航海時代、ヨーロッパの国々は広い太平洋大西洋を冒険しました。一方で船出は命がけ。暴風雨など海難事故、壊血病、感染症で多くの船乗りが落命しました。文字どおり、海には魔物が棲んでいたのです。ノルウェー海の強い潮流 <モスケンの大渦巻(=メイルストローム)> は現在でも要注意な現実のもの。
そうした恐怖に加え、海にはクジラやサメ、アザラシやアシカ、ダイオウイカ、リュウグウノツカイなど実在の大きな生物がいます。怪獣のモデルはそれらだと考えられており、海の生物の知識が増していくにつれ、地図から怪獣の姿は消えていったという次第。
それではまた、次回の報告会でお会いしましょう。