本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・道尾秀介 「球体の蛇」(角川文庫,2012 初出単行本は2009年11月)

 

 

 著者は1975年兵庫県は芦屋出身。さてはお坊ちゃんだな(笑)。

 玉川大を出て商社勤務のかたわら小説を書き始め、2004年 「背の眼」 でホラーサスペンス賞を受賞し作家デビュー。2011年、5度目のノミネートで 「月と蟹」 が直木賞受賞、という華々しい経歴です。

 

 ロック歌手の顔もあるそうで、自分としてはNHK BSの文芸番組 「深読み読書会」 に出て横溝正史フリークぶりを見せていたのに好感を持ち、いつか一作読んでみようと思っていた作家さん。

 

 1992年秋、17歳のトモちゃんこと、主人公友彦の ‟私” 一人称で語られます。

 裕福な両親とは離婚で疎遠に。今は近所馴染みだったシロアリ駆除業者・乙(おつ)太郎さんとその娘ナオに世話になっています。

 

 乙太郎はもともと4人家族。しかし妻とナオの姉サヨを亡くしており、将来トモちゃんとナオが結婚して家業を継いでくれることまで願っていました。

 

 しかし ‟私” にはサヨの死にある負い目を感じています。大学受験に通ったら東京に出て下宿生活の予定。家族以上に可愛がってくれる乙太郎さんとナオとも、家を出たら所詮は他人という現実に思い悩むなか、サヨに面影似る智子と出会い、想いを寄せるうち、運命的な事件の当事者になってしまうのでした-

 

 

 う~ん、あらすじ紹介のヘタさに自分でイヤになる(笑)。

 310頁の長編で、人の命が奪われるサスペンスタッチながら、謎解きの興趣もあれば純文学としても読めるというフトコロ深い小説です。さすが本作でも直木賞にノミネートされただけのことはある。

 

 タイトルからスケール大きい国際スパイものでもあるかと思って ‟ジャケ買い” した次第ですが、内容は意外やずいぶん所帯じみてるというか、地に足ついた生活感にあふれてる。タイトルには意味があるとはいえ、僭越ながらいささかヒネり過ぎかも。

 

 途中まではけっこう陰鬱な展開で、こんなだったらイヤだな、と予期される結末に向かうかと思いきや、素晴らしくいい方向に裏切ってくれました。読了後に感動あり。

 

 登場人物は、いわゆる悪人のいない等身大の思いやりある人ばかりなのに、良かれと思った行動やウソが悪い結果をもたらしてしまう皮肉。同情や親切はただの欺瞞、自己満足なんじゃないかと責任に懊悩する描写は胸つまるものがありました。

 

 短いエピローグがまことに物語すべての救いをもたらしてくれて、ほう~~~ っとため息が出たほど。途中で止めず読了してよかった、と心底思いました。