本日は、最近読んでおもしろかった書物です。
・霧舎 巧(きりしゃ・たくみ) 「名探偵はもういない」(講談社文庫,2009 初出単行本は2006年4月)
著者は1963年横浜出身。駒澤大の推理小説研究会に所属していた作家志望生から、1999年に講談社主催の 《メフィスト賞》 を受賞してデビュー。「あかずの扉研究会シリーズ」 「私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ」 のヒットがあるそうです。
昭和53年3月、日光市を抜けた栃木県北部のとあるペンションは折悪しく雪崩に閉ざされ、宿泊客は当分孤立状態に。
犯罪学者の木岬研吾は義弟の敬二少年とともにこの山荘を訪れており、他の客はいずれもワケあり風、異様な言動を見せます。
やがて発生する怪死事件。迅速な警察の着到が望めないうえ、科学捜査の手段もない。古色ゆかしい限定された空間と人物相関から事件を解決すべく 「名探偵」 の出番です...
木岬という男は犯罪学者を名乗りつつも、富裕な一族に生まれ、何不自由ない身の上をもてあます有閑階級。彼に憧れる敬二は、ルパンや怪人二十面相のような ‟カッコいい犯罪者” になる夢を持っている困りものです。
ペンションの管理人・鈴影さゆみは東観寺支配人のサポートで親から経営を受け継いだうら若い女性。宿泊する琴沢夫人は金持ちのうえ、陰険ワガママな言動で威圧的に振る舞うありがちなマダム。外国人観光客リチャードもなにやら目的がありそう。
他にも少なくはない登場人物のキャラクターがいささかシンプル類型的ながら、個性がわかりやすいので混乱しない。ストーリーも練られており、500頁近い大著なのにスイスイ読めました。
どんでん返しというのとは違いますが、え″ という転がしが何度も出てくるので飽きない。爽快でも物悲しくもある結末に向けて破綻のないストーリー展開と謎解きは、読了のあと ほぅっ と息がもれました。著者の古典ミステリへの敬意と、それを現代版にアップグレードしたいとの意欲を感じさせます。ディス・イズ・探偵小説。