2月1日から 《BS12(トゥエルビ)》 で順繰り放送してくれていた市川雷蔵主演の大映時代劇映画 「眠狂四郎」 シリーズ。せっかく観たので記事にしておきます。ラスト2本、これで完結です。

 

 

 4月12日は第11作 「眠狂四郎 人肌蜘蛛」。オリジナル公開は1968年5月です。

 

 甲府の主・土門家武は将軍家斉の庶子であることをカサに着ての暴虐の数々。妹の紫も、村のイイ男を召し出しては弄んだうえ殺すという魔物でした。

 

 今度のいけにえは、狂四郎の母の墓守をしてくれてる七蔵の息子・兵吾。狂四郎は身代わりを申し出て館に行きますが、逆に紫を侮辱したため怨みを買い、命を狙われるハメに。

 家武の手下たちの襲撃を切り抜けたことで家武の憎しみも買った狂四郎は、毒矢を受けるなどかつてない危難に見舞われます。七蔵は殺され、兵吾と兵吾の恋人・はるも鬼館に囚われてしまいました。

 

 憤然、狂四郎は鬼館に乗り込み、大勢の手下や鎖鎌を武器にする蜘蛛手と血闘。家武と紫に怒りの刃を向けます...

 

 

鬼館の血闘(左) レジェンド女優、緑魔子の怪演(右)

 

 

 土門家武には川津祐介さん(1935~2022)。テレビドラマでは 「Gメン’75」 の南雲警視とか、「3年B組金八先生」 の上林先生で有名でしょう。今作では狂気オンリーという感じのバカ殿役。

 

 紫は緑 魔子さん当時24歳。‟アンニュイ” ‟小悪魔” の元祖といえば芸風がわかりましょう。60年代白黒時代からヌード役ばかり要求され、しゅっちゅう監督とケンカして東映を解雇されるも、「必然性があれば脱ぎます」 の名言を発してその後にビッグブレイクしたという気骨女優です。夫君は石橋蓮司。

 

 本作はシリーズでもっとも画が残酷で、血風舞い手足が飛び、目が潰されるなどお子ちゃんにはおススメできませんが、ラストの狂四郎激怒の魔剣を振るうシーンが活かされています。

 

映画カチンコ

 

 4月19日は第12作 「眠狂四郎悪女狩り」。オリジナル公開は1969年3月です。

 

 江戸市中を震え上がらせる幕府要人の暗殺と大奥女中の姦淫。犯人は眠狂四郎を名乗り、その名は人々の憎しみの対象になっていました。

 

 世人の悪評など無関心の狂四郎。真相は将軍の子を身ごもった側室同士の権力争いで、とくに大奥総取締の錦小路は、大目付板倉将監と図り、隠れキリシタン一味を海外に避難させてやるとの甘言で利用、川口修馬(江原真二郎)をニセ狂四郎に仕立てて悪事を重ねさせていたのでした。

 

 修馬の妹佐用(藤村志保)は兄の悪行に心を痛め、口封じと狙われる狂四郎を手助け。降りかかる火の粉を払わんと大奥が繰り出す刺客の罠をかわし、張本人の修馬と相対します...

 

 

ニセ狂四郎はデスマスク(左) 幽玄な演出が暗示的(右)

 

 

 すでに直腸がんを患い、手術を受けたものの当時の医学では余命一年。肝転移を防ぎ得ず、雷蔵さんには病名を秘密にされ、大腸炎と伝えていたそうです。

 本作はニセ狂四郎という、ヒーローものにはよくある題材ながら、デスマスクのような狂四郎の面はなにやら暗示的です。

 

 巷説では、すでに体力衰弱の雷蔵さんは殺陣をこなせず、スタントマンを使っていたといいますが、画を観たかぎり、ちゃんと雷蔵さんが生身で演じてる。名誉のため断言しておきます。

 

 使い捨てられる隠れキリシタンの悲しみはシリーズおなじみのテーマ。修馬を演じる江原真二郎さんは昭和50年代、奥さんの中原ひとみさんとふたりの子どもとライオン歯磨きのCMに長く出ておりました。去年9月、85歳でお亡くなりです。

 

 1969年7月、雷蔵さん37歳の死によりシリーズは終了。もし雷蔵さんが健在でも、映画斜陽の世相ではどうなっていたか...勝 新太郎さんが 「座頭市」 を映画からテレビドラマに移したように、もしかしたら狂四郎もテレビ版が作られていたかも知れませんね。

 

 奇しくも大映は雷蔵さんの死から一年足らずで日活と統廃合。それも及ばず1971年12月に倒産しました。雷蔵さんの死で大映映画そのものが終焉、と昭和史に刻まれたのです。