2月1日から 《BS12(トゥエルビ)》 で順繰り放送してくれていた市川雷蔵主演の大映時代劇映画 「眠狂四郎」 シリーズ。せっかく観たので記事にしておきます。

 

 3月15日は第7作 「眠狂四郎多情剣」。オリジナル公開は1966年3月です。

 

 将軍家息女・菊姫は火傷を負い醜くなった顔を能面で隠しつつ、世を呪い残虐行為に悦楽する歪んだ性質に。その顔を狂四郎にさらされた怨みから、下曽我典馬率いる武州疾風組に狂四郎抹殺を命じます。

 

 狂四郎は江戸の岡場所・井筒で、父を侍に斬られ売られてきたはるという少女を憐れに思い身請けすることに。しかし狂四郎とて父の仇と同じ侍。かたくなに心を閉ざすはるは、狂四郎を誘い出すため囚われ、救いに奔る狂四郎を刺客たちが襲います...

 

 

弥七役の3年前(左) はるに硫酸をかけようとする非道(右)

 

 

 今作のライバル・下曽我典馬には中谷一郎さん(1930~2004)。

 仲代達矢や宇津井 健さんと俳優座の同期で、1969年8月スタートの 「水戸黄門」 でやった 《風車の弥七》 が有名でしょう。今作の典馬は狂四郎との対決を愉しむひょうひょうとした剣客。

 

 菊姫の魔の手は執拗で、色仕掛けの女刺客たちを放ちますが、そのひとり・おひさは水谷良重さん(現:二代目水谷八重子)。当時27歳ですでに新派のスターなのに、あまり良い役じゃない(笑)。

 

 そういえば水谷さんは、1995年に母の名を継ごうとしたとき、音楽をやったりタレントやったり、演劇に集中してなかったくせに、という理由でメディアバッシングを受けたものですが、今思うと意味不明です。落語界じゃあるまいし、いいじゃんねぇ。

 

映画カチンコ

 

 3月22日は第8作 「眠狂四郎無頼剣」。オリジナル公開は1966年11月です。

 

 町辻の女芸人・勝美大夫から 「格之助さま」(=大塩平八郎の養子・大塩格之助) に間違われた狂四郎は、飲み屋で臭水(くそうず=石油)が燃える火災事故に居合わせます。

 

 越後にしかない臭水が江戸に。それはかつて大塩平八郎が貧民救済の資金を得るため、精製法を研究した成果でした。

 しかしそれは油問屋の裏切りで挫折。大塩の遺志を継ごうとする愛染(あいぜん)とその一党は、油問屋はおろか、江戸の町を灰にして復讐せんと暗躍。愛染の流儀はなんと、狂四郎と同じ円月殺法でした...

 

 

命を狙われる勝美をガード(左) 拳銃で狂四郎を脅す愛染(右)

 

 

 今作のライバル・愛染を演じるは天知 茂(1931~1985)。

 デビューした新東宝ではサッパリでしたが、大映移籍後は勝新太郎や田宮二郎のライバル役でブレイク。テレビでは 「非情のライセンス」(1973~1980) の主演がありますが、なんといってもいちばんの当たり役は 《明智小五郎》 でしょう。

 

 テレ朝 「土曜ワイド劇場」 では1977年から54歳で急逝する1985年まで、全25作でダンディな明智を演じました。にしても、当時の 「土ワイ」 というのはエログロ祭りでしたから、お子ちゃまみつまめには目の毒でしたねぇ。

 

 勝美を演じる当時27歳の藤村志保さんは ‟姫君・令嬢をやらせたら日本一” の上品な女優。以前、ひし見ゆり子さんが仰言ってたのですが、「はすっ葉・汚れ役は誰でも出来るんです。難しいのは上品な役。人間性が出るから」 なんだとか。

 

 油問屋に利用され、思いを寄せていた格之助を裏切るハメになったばかりか、用済みと命を狙われる勝美。それを救った狂四郎のセリフはなかなかシビれます。

 「俺は母の顔を知らんが、女の胎から生まれたには相違ない。そのおふくろさまと同じ女性への狼藉は許さん」

 

 史実の 「大塩平八郎の乱」 をモチーフにしたストーリーはシリーズ中かなり異色で硬派。愛染の計画から江戸の民を守らんとする狂四郎は、今作では正統派ヒーローっぽい。自分としてはここまでのシリーズ最高傑作です。