本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・濱 嘉之 「警視庁公安部・青山 望 完全黙秘」(文春文庫,2011)

 

 

 著者は1957年福岡出身。中央大から警視庁に入庁し、公安部公安総務課などに努め、2004年警視で退官。自民党衆院議員の政策秘書の経験もあり、本名の江藤史朗としてテレビで事件コメンテイターも務めています。2007年、「警視庁情報官」 で小説家デビュー。

 

 実体験をもとにしたリアルな警察組織と公安捜査の描写がウリとのことで、警視庁公安総務課の若き筆頭警部、39歳の青山 望(のぞみ)を主人公とするシリーズ第一作目を読んでみた次第。

 

 福岡県内のパーティーで、現職財務大臣の刺殺事件が発生。MX事案(テロで殺傷)というらしい。現場で逮捕された男は完全黙秘。こういう場合、被告人が犯罪事実を認めたうえ反対弁論を放棄したとみなされるため、3ヶ月ほどで結審してしまうんだそう。

 

 現職閣僚が衆目で殺害されたうえ、‟マル被の割り付け(人定)” すらできないでは警察の威信に関わる、と刑事部と公安部が極秘捜査に乗り出し、青山と同期の仲間である捜査一課・捜査二課・組対のエースたちが任にあたります...

 

 

 事件は暴力団から芸能界、韓国利権、政界ルート、カルト宗教と ‟アンダーグラウンドオールスター” が登場するダイナミックなもので、ゾッとするほどリアリティじゅうぶん。

 

 驚くのは、公安が最大のターゲットにする 「反共原理連合」 とその上部の宗教団体 「世界真理教日本支部」 の描写です。モデルがなにか一目瞭然ですね。

 

 暴力団の資金源として振り込め詐欺や給付金詐欺、生活保護の不正受給から、漁労組合に喰らいこんでの海産物密輸、産地偽装などは現実の事件があっただけに具体的すぎる。

 

 また宗教団体の霊感商法に加え、政界と密着しての街宣活動、資金獲得。献金融資を得るために公共事業に関連企業を押し込んで便宜を図り、影響力を増していく手口などはもはやノンフィクションと言えそうです。

 

 これは探偵小説ではなく、あくまで粛々と捜査を展開する警察小説。主人公の青山警部は政界への忖度斟酌などなく徹底して巨悪を暴きます。「敵には敵の絆があるが、われわれの絆は正義の強さだ」 という彼の信念も、現実の警察に期待したいところです。