本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・鯨 統一郎 「鬼のすべて」(光文社文庫,2008)

 

 

 著者は國學院大文学部卒、という以外プロフィールが明らかにされていない、いわゆる覆面作家です。2001年に文藝春秋から出た単行本の文庫化。

 

 1998年のデビュー作 「邪馬台国はどこですか?」 は文壇の各新人賞から選外になりながら、あまりの好評価に、連作短編集として文庫書き下ろしで単行本になった、当時異例の新人でした。

 

 タイトルどおり、歴史や伝記の最新研究を元にした大胆な新解釈を、推理小説とドッキングさせた作風を得意としています。

 

 どちらかというとユーモアミステリーのイメージが強い探偵小説家ですが、本書はいたってシリアス。ユーモアを期待していたので、読み出したとたん ありゃ と思った叫び

 

 警視庁捜査一課の女性刑事・渡辺みさとが、鬼に見立てられた惨殺死体となって発見された友人・世衣子のカタキを取るべく、懸命の捜査に打ち込みます。

 

 ところが、作中の警視庁は違和感があるほど女性蔑視にあふれており、渡辺刑事はパワハラ、セクハラが横行する現場に往生。

 そんな彼女に助力したのが、警視庁を辞し、今は民間人となったかつての敏腕刑事・ハルアキでした。

 

 物語の主軸は <鬼の正体> で、伝記民話に出てくる鬼がなぜ赤肌にツノ、金棒に虎のパンツという風貌なのか、など、「日本書紀」 や 「風土記」 の記述を総動員して、異民族説や産鉄民説にギリシャ神話伝来説、はたまたウィルス感染説まで、有力な研究も荒唐無稽な奇説も、ゴッタ煮で紹介していきます。

 

 「日本から鬼を消す」 ことを念願とするハルアキ、本名は阿部晴明というのでした(笑)。

 

 犯人は新聞各紙に犯行声明文を送るなど、無差別連続殺人を予感させるも、結末はごく個人的な動機に集約されます。

 多くの探偵小説が、小さく始まって大事件に開展していくスケール感で引っ張っていきますが、本書は逆に大きく始まって小さく終わるミステリーでした。

 

 そして、渡辺刑事が悩まされた女性蔑視の歴史的風土、これも 鬼 を探究していく過程で正体を提示します。これは納得できるものがあり、それを言いたいがための設定だったんだな、と得心しました。

 

 

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