みつまめの「このレコード聴いてみた」
「MISCAST」
沢田研二
古今東西あまり関係なく(笑)、みつまめのお気に入りレコードを披露している「このレコ!」、今回は、久しぶりに邦楽から、このお方を取り上げます。
沢田研二 JULIE&EXOTICS
Vo:沢田研二
G:柴山和彦
G:安田尚哉
Key:西平 彰
B:吉田 建
G:上原 裕
゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
最近、CS放送の「ドリフ大爆笑」や「夜のヒットスタジオ」で、よくジュリーをみます。
’70年代から’80年代・・・スタイル、衣装、歌、楽曲。すべて素晴らしい。まさにスーパースター。
あの男性的とも、女性的とも違う独特の色気は、誰にも真似できない魅力です。
歌謡曲全盛時代を象徴する歌手だったことと相まって、ジュリーほどのスターは、おそらくもう出ないでしょう。
1985年、所属していた芸能界最大手・<ナベプロ>から独立すると、さしものジュリーも転機を迎えました。
’90年代以降は、テレビで過去の映像が封印され、「昭和最大のスーパースター」の思い出は、リアルタイムを知る視聴者の記憶のなかだけに残ることになりました。
封印は、一説には過去の栄光にすがることを拒絶したジュリー自身の意向、とも言われましたが、どうだか。ナベプロの意地悪じゃないの?(苦笑)
最近、肖像権ビジネスが歪(いびつ)なかたちで展開され、権利を持つプロダクションや、家族が再放映を許さず、独自にソフト化して商売するケースをよくみかけますが・・・。
そんなことをしてたら、そのスターが世間から忘れられるだけだよ(笑)。
いつまでも、世の中のひとが覚えてると思ったら、大間違い!
うれしいことに、ここ最近、ジュリーの活動がよく取り上げられるようになってきました。
2008年12月、還暦を記念して「人間60年・ジュリー祭り」と銘打った東京ドーム公演(大阪ドームでも)を大成功させると、2010年にはワイルドワンズと共演して大きな話題に。
さらに、今年9月からの全国ツアーでは、なんと<ザ・タイガース>を再結成させることを発表しました。
岸辺修三(一徳)氏、森本太郎氏に加え、なんと会うことすら解散コンサート(1969年)以来だったという、人見 豊(みのる)氏も参集。・・・あれっ、トッポは?(笑)
ツアー日程が決まると、各所でソールド・アウトを連発する人気ぶりだそうで、今だザ・タイガースを待望するファンが多いんだなぁ、と驚きました。
・・・・・・出りゃあいいのに、トッポ(笑)。
「MISCAST」は、ジュリーバリバリ全盛期の1982年12月に発表されました。
この年は「おまえにチェックイン」、「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」を大ヒットさせています。
このアルバムを特筆する理由は、何と言っても、
「井上陽水 全曲作詞・作曲」
ニューミュージック界の巨人にして、わたくし、みつまめの大リスペクト シンガー/ソングライターが、ジュリーのアルバムを手がけている、この事実!
もともと、2~3曲の楽曲提供を求められたそうですが、10曲出来てしまい、それならいっそ、全曲まとめてアルバムに、といういきさつで実現したということです。
演奏はEXOTICS、ムーン・ライダースの白井良明氏と岡田 徹氏がアレンジを手がけています。
吉田 建氏は’90年代後半、吉田拓郎さんが出演していた「LOVE LOVE あいしてる」という番組内のバンド、<LOVE LOVE ALL STARS>のバンド・マスターを務めていました。
西平 彰氏は氷室京介のレコーディング・ディレクター&アレンジャーとして有名。
上原“ユカリ”裕氏は、山下達郎の<シュガーベイブ>でキャリアをスタートし、大瀧詠一「ロング・バケーション」などでの名演でも知られるニューミュージック界の名ドラマー。
安田尚哉氏は’90年代に<上々台風>を結成。
柴山和彦氏は、現在でもジュリーと活動を共にしていて、EXOTICS時代は、ジュリーに次ぐ人気を博したイケメン・ギタリスト。
これらの超・凄腕バンドを配し、自由闊達・変幻自在なサウンドを実現した本作は、時代性にまったく左右されない、邦楽史上最強のアルバムに仕上がっています。誇張ではない(断言)。
陽水氏自身、『チャイニーズ フード』と『背中まで45分』を「ライオンとペリカン」で、『A.B.C.D.』を「9.5カラット」で、『ジャスト・フィット』と『ミスキャスト』を「クラムチャウダー」でカバーしていて、それぞれ味のある出来栄えになっています。
陽水氏も、ジュリー同様、「色気」を特徴とした歌唱ですが、他人のカバーを寄せ付けない独特の声を持っています。なかなかよそに楽曲提供しても、歌いこなせる歌手など少ない。その点、ジュリーは歌の上手さと味わいを兼ね備えた歌手です。それがこの種の<コラボレーション>にしては、異例に「噛み合った」完成度を達成できた要因かも知れません。
また陽水氏の楽曲の特色は、歌詞の難解さとメロディーのシンプルさ。
’80年代のこの時期は、その度合いが一層熟成しつつあり、『News』『デモンストレーションAir Line』では語感に重点を置いた耳心地のいい歌詞が響きます。<言葉>を楽器のように扱う芸当は、英語ならともかく、日本語だと難しい感じがしますけど・・・そこが井上陽水の天才たる所以なのです。
その極みは、『チャイニーズ フード』。ぜひ歌詞を何かでご覧いただきたい。<詩作>をしてみたことがお有りな向きには、おそらく後ろにひっくり返ると思いますよ(笑)。
当時シングル発売されたのは『背中まで45分』ですが、あまりヒットはしなかったそうです。そりゃそうでしょう、6分の尺に加え、歌詞の内容からカットが出来ない。持ち時間3分の当時のテレビ・ラジオではかけられない曲なんですから(笑)。
アルバム最後の『ミスキャスト』は、非常にシニカルにショー・ビジネス界の住人を嘲笑した曲。これを<ザ・芸能界>のナベプロのスター、ジュリーに歌わせるところ、シュール以外のなにものでもない(笑)。陽水氏の社会風刺は、いつでも直接的・感情的ではなく、示唆的・暗喩的でシニカルなのです。『最後のニュース』(「ハンサムボーイ」)や『ビルの最上階』(「九段」)のように。
そのうち、一回でもいいからジュリーと陽水の共演なんて、実現して欲しいと密かに期待してるんです。でないと、この作品が埋もれてしまう(笑)。それには、あまりにも惜しいアルバムなので。
まずは、9月からのザ・タイガース再結成で元気な姿をみせてくれるでしょう。その前に、ちょこっと体をシボってもらいたいですが。昔のスタイリッシュなジュリーをみるにつけ、現在の姿は・・・・・・(失笑)。
それと、ライブでMCのたびに「は~っ、シンド・・・。もう還暦なんでっせ・・・。」なんて言うのはやめていただきたい。あなたはスターなんだからっ。エイジレス・タイムレスでいこうぜっ。