「さっきのつづき…つてわけには、いかねえだろな…」
 なんて残念がるタッちゃんの捨て台詞を南は確かに聞いた。南が予防線を張ったのを分かったタッちゃんは、自分の気持ちが改めて強引に迫ることはない。だから何もなければ平穏無事な留守番の時間を過ごせるはずだった。でも南にとって一旦落ち着くことは、自分が何をしたいか確認するためだった。夏の予選が近づいてるこの時期、長い時間タッちゃんと二人きりでいられる日なんてそうそうあることじゃない。だから南は残念そうにテレビを眺めるタッちゃんの横顔をを見て、自分の気持ちを再度確かめ、やることを決めた。
「タッちゃん、南の部屋に行こ」
「え?」
 戸惑いの表情を見せたタッちゃん、後日確認したけど何のことか分からなかったみたい。女の子が自分の部屋に男の子を誘う、そう一般化してその意味を推察することは出来なかったのです。南は無言の笑顔を返した後、勝手知ってる上杉家、メモと鉛筆を探し、書置きをタッちゃんと座ってた座卓に置き、タッちゃんの手を取って上杉家を後にしたのです。
「南…」
 それは恋人繋ぎ。タッちゃんはその意味を分かったろうか。
 タッちゃんにファーストキスをあげた後、タッちゃんとの性愛を知ったのは勉強部屋にカッちゃんの写真が貼られる前だった。それはタッちゃんと南、お互いの想いを確認し合えた愛しい時間だったけど、初めてにしては少々やり過ぎたのです。南はタッちゃんの精力を文字通り飲んでしまったし、タッちゃんは南に導かれるまま男の子を子供にさせる部分を手にしたばかりか、生殖の切れ目の上端も触れたのです。それは南の暴走でタッちゃんが下着に漏らするを防ごうと南が咄嗟にやったことだけど、それがさらなる暴走と気づいたのは南がすっかり飲み込んだ後だった。だから南はタッちゃんの指を使って自分の恥ずかしいを晒したのです。それでタッちゃんと南の仲の変化は周囲に気づかれずに済んだけど、初めての性愛で結構なことをしてしまったため、次をするのをタッちゃんも南も戸惑っていたのです。
 もっとも直後こそタッちゃんと一緒に思い悩んだけど、ふと悩むことが馬鹿らしいことに気づいた。性愛があろうがなかろうがタッちゃんと南の仲を裂くものは現実にはない。だから二人がその気になればいつだって出来る。だからタッちゃんとの実質初めてのむつみ合いは、タッちゃんにとっても南にとっても、相手への絶大な敬愛の証明と確認し合ったのです。
 とはいっても南がタッちゃんに抱きつくその時まで、タッちゃんと南の間が本当に潔癖だったかと言われればそうでもない。前にも記したように南のマッサージにかこつけて、タッちゃんは南の身体を、凝りをほぐすという名目にしては些か過剰にその手でその足で掴んで動かして抱きついてきたのです。南もタッちゃんもマッサージというものが容易に性愛に転化、若しくは性愛の入り口になると分かりつつ、スリルのあるスキンシップを楽しんでた。といってもそれで灯された南の情欲は自分で解消するしかなく、南が慰める回数は却って多くなってた。
 でもさっき咄嗟にタッちゃんの胸に飛び込み、厚みのある好きな男の子の胸に気づいてしまった。そしてタッちゃんも南の胸、左胸は確実に自分の胸板で感じてたはず。だからタッちゃんも南も相手のときめきを知ってしまった。タッちゃんはブレーキがよく効くから一度覚めたら自制は容易だけど、南は自分の欲求を確かめ、気持ちから自分の情熱を引き出そうとしたのです。
「ただいま」
 表の玄関から入り無人の我が家に挨拶する。まるで家屋そのものが生き物であるかのように。そしてこれから行うタッちゃんとの行為も、地球で連綿と続く生物、その中でも多細胞生物の、最も基本的な行動のひとつ、その練習だった。南は脱いだ靴を綺麗にそろえ、それに倣ってタッちゃんも左右の靴を同じ方向に向けてくれた。タッちゃんも南のただならぬ思いに気づいたらしい。後日そう話してくれた。
 階段を上がって二階の南の部屋に通し、床に座ってもらう。南はベッドに腰掛け、ひとつ深呼吸する。
「何緊張してんだよ南」
 その呼びかけに南は行動する。ぐずぐずしてたら自分の決心が鈍る。南は座っているタッちゃんに抱きついたのです。最初から強く南のふくらみを感じさせるのではなく、じわっとゆっくり、南の想いを感じてもらうように。
「南、何を…」
「さっきの再現」
 顔は互い違いだけど目を開けて、笑みを絶やさない気持ちで言ったのです。
「だからどうして…」
「正直に言いなさいタッちゃん。抱きついてきた南、どうしたかった?」
 そこで南は言ったん腕をちょっと突っ張り、タッちゃんと真っ直ぐ向き合った。多分南の表情につられて、怪訝な顔が戸惑いになり、真顔になる。
「タッちゃん優しいから。こっちから誘わないと出来ないでしょ」
 本来なら男の子を傷つける言葉だけど、正直に告げるのが唆しにつながると南には分かってた。
「だから、ね」
 南は再度タッちゃんに抱きつく。
「さっきの続きしよ」
 ちょっとの間があってタッちゃんの左手が南の右のふくらみを覆う。真ん中の頂点の上下から挟む感じで。たったそれだけのことで南の情念は暴走しそうになる。それを我慢したのはタッちゃんの南に対する劣情の程度をできるだけ知りたかったから。その時の南の上衣は半袖にチョッキだったから暖かさは分からなかったけど、少し経ったから始まった南の右胸への、上下からの圧迫と開放には深呼吸してオーバーヒートを逃れるしかなかった。
「南、顔が真っ赤だぞ」
「うんタッちゃん…」
 早くも南はタッちゃんの顔を見れなくなった。それでも次の行動のためには、タッちゃんと南の距離を空けなければならない。
「タッちゃん熱い…釦外して」
「いいまか南」
「二度聞きはレディに失礼よ」
 南は思い切ってタッちゃんを正面から見た。これからタッちゃんのやること全てを許すと、分かって欲しくて。外される釦の一つひとつが南の防備なり塀、つまり南は自分から浅倉南の大事なものをタッちゃんに明け渡すことを意味した。それは南にとって恐ろしく甘美な誘惑。もちろん長年のタッちゃんと南、カッちゃんとの関係の結果の感情だった。しかしもちろん、情欲を持ってたのは南だけじゃなかった。チョッキの釦を外し、中のブラウスの釦を外してたタッちゃん、スリップで覆ってない南の素肌を見て我慢できるわけはなかった。我慢は多少した。ブラウスを大きく広げられるくらいに釦を外したから。でもそれまで。
「南!」
 タッちゃんは飛び込むように南の胸に顔を埋め、南を押し倒したのです。それでも南のふくらみらに手を置く自分の姿に引け目があるのか、タッちゃんの両手は南のそれぞれの肩を掴み、口づけたのは南の左の肩甲骨の上だった。ちょつと変態的と思った南は耐えられず、引き剝がして南の唇を捧げたのです。結局タッちゃんのやりたいようには出来なかった。南の方が音を上げてしまった。それでタッちゃんは勢いづいてくれたか、口を開けてくれ、そして南の二重の上衣をはだけてくれたのです。
 ふくらみを覆うだけの上半身を晒すのは一人の時なら自分の熱を冷ます最も効果的な方法だけど、好きな人とのむつみ合いになると身体からの熱が止めどもなく生じ、汗による気化熱のいっかな追いつかない。そして、気づいたら脚の付け根の女の子の最も大事な部分、そこが冷たくなってるのに気づいてしまった。タッちゃんは南の上半身を探るのに手一杯だから、染みになるのを嫌がって今履いてるロングスカートを脱ぐわけにはいかない。それにタッちゃんは南の上半身だけで満足するかも知れない。それがこの南からの誘惑の目論見に沿ったものなのか、分からなかったけど。
 タッちゃんの舌は開けていた南の口に入り込み、南の舌を探す。それに南は即座に応じ、お互いのざらつきを絡ませ合う。それでタッちゃんは南の劣情を確かめることが出来、スリップなしの南の上半身に右手を置いたのです。指をしっかり付けてその柔らかさを確かめるように揉む。もっともその柔らかさは生硬とは言わないまでも高校二年のそれ。弾ませても揉んでも元の形に戻る、生命力溢れたものだった。それが嬉しいのかタッちゃんは散々南の左のふくらみをいじり倒し、さらに掌で南の突起を擦ることまでする。最初は気づかなかったタッちゃんだけど、南の引きつけとタッちゃんの掌で覆う南のふくらみに気づき、タッちゃんは南の胸だけの覆いをずり上げたのです。
 いじられていない右は全体のふくらみも色づいた中心も落ち着いてたけど、さんざんいじられてた左は悲惨だった。ふくらみ全体が柔らかく大きくなり、色づいた中心はさらに真ん中が自己主張してた。それはタッちゃんが愛した、南が愛された証だった。だから南は勇気を振り絞り、
「続けていいよ…」
と言ったのです。「続けて…」で言い終えなかったのは我ながら大したものだと思う。それはタッちゃんが満足するまでさせてあげることだった。自己犠牲的ではあるけど、それこそが当時の南の想いだった。

 

[4838]番外編第百十六回「久しぶりのタッちゃんと南のむつみ合い ②」
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