野球人 牛島のたぐいまれな身体技法、投球術、頭脳 | 恋着、横着、漂着 遊び盛りゆるゆるのびのび60代

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2年早く退職して機能と効率のタガを外すことが出来ました。
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 10年程前の発行である。著者は、牛島投手のロッテ現役時代に肩の治療に携わった理学療法士である。牛島のベイスターズ監督時代の三年間には球団のフィジカル・コーチもつとめた。

 私は、投手として傑出していた江夏のファンであり、彼の投球術・・・身体技法や心理戦術などに未だにぞっこんである。

 その関連で、あ、そういえばあの投手のあの頃のピッチングは・・・と連想し、YouTubeで検索してみることがある。

 ある時、牛島のピッチングを観たくなって検索してみた。高卒三年後、リリーフとして複数イニングをジャイアンツ相手に投げている動画がヒットした。当時の実況もそのままで、「王助監督に『牛島の攻略法は?』と問いかけたところ、『逆に教えてください』と返された」といった、アナウンサーだったか解説者だったかの喋りも残っていた。この動画は、原がルーキーとして活躍した年であり、その原やベテランの淡口といったバッターを手玉にとる牛島の小気味よいピッチングを観ることが出来る。

 

 その牛島のプロ投手としての期間はケガにも悩まされ、長くはなかっただろうが、中日からロッテに移ってからも、印象に残るピッチング姿だったという記憶がある(当時は「プロ野球ニュース」という番組で、その日の全チーム全試合をダイジェストで紹介してくれていた)。

 高卒一年目のキャンプのミーティングで当時の稲尾コーチに「九回裏、二死満塁ツースリー。一点差で勝っている。どんな球を投げるか?」と問われ、「それまでの過程はどうなっているんですか」と問い返し、稲尾を驚かせたというエピソードはあまりに有名だが、その他あれこれはYouTube動画含めて、高校時代からの「武勇伝」めいたものが語られたり、書かれていたりというだけで、一プロ野球ファンとしては、どうにも不満だった。

 

 それが、本書で覆された。

 身体技法、特にキャッチボールの中で、一つ一つ自分の身体の部位ごとに状態を確認していく過程のきめ細かさや、体重移動のコツをピッチャー同士に押し相撲をさせて体感させるといった実践の数々は全く未知のものだった。

 また、投球フォームの分解写真が時折、野球関係雑誌に紹介されるが、牛島はバッターから見ての投球動作こそ重要と指摘する。

 これには唸った。

 そんな投球フォームの分解写真は見たことがい。しかし、それこそ掲載されるべきだろう。

 

 変化球の握りをすれば、意識して曲げようと思わず、ストレートと同じ投げ方で投げても、バッターの手許では微妙な変化をしてクセ玉になるはず、という指摘も素朴ながら本質を突いている。ツーシームだのフォーシームだのは、その延長にあるのだろう。

 その他、バッターのクセ、心理的傾向の読み方も、いくつか紹介されている。例えば、外角は振り回し、内角は軸の回転で巻き込むといった、空振りをほとんどしないバッターに、あえてど真ん中に投げて凡退させるといったように。

 味方の守りに配慮するピッチングテンポのあり方などの視野の広さもある。

 ピッチャーが好投した翌日は、試合半ばまで、その投球傾向がバッターの脳内に残存している、といったように、試合を、それも数試合を前後含めて俯瞰してゆく分析力も並みの選手にはないものだろう。おそらく、これは、既に現役ピッチャーの時代に持っていたもので、つまり彼が監督になってから慌てて知ったことではないのだ。

 

 長きにわたり公私ともに付き合った理学療法士であり、プロ野球チームのフィジカルコーチとして、牛島という野球人の間近にいて、その言動をいち早くキャッチしていた作者だからこそ、書けた内容である。

 牛島和彦という野球人からは、江夏豊という人からもそうであるように、もっともっと、野球の奥深さを引き出せるはずである。