記憶の曖昧さ、信念の不確かさ「浮世の画家」 | Mの映画カフェ♪

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AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD
1986年
カズオ・イシグロ 著
飛田 茂雄 訳
ハヤカワepi文庫

戦後の日本
高名な画家、小野と娘の暮らしが
一見、淡々と綴られているようですが

信頼できない語り手、なるほど

戦後の価値観の変化と
自分の過去の行動に、泰然としているように見えて実は心が揺れている主人公、
とだんだんに輪郭がみえてきて

一作目に比べて衝撃はないなぁと思っていたら

終盤、
えっ!!違うの!?

じゃ、周囲との軋轢は…
見合いの席での発言は…

混乱して読み終えたので、レビューを検索してみたのですが

終盤の長女との会話に言及しているものは、ほとんどない!何故!

そもそも全てが小野の目を通して語られるため、思い込みが混ざっている可能性もあり

故意なのかそうでないのか
(故意ですよね)
曖昧な事が放置されたり、年代も前後するので

何もかもが怪しく思えると
これはサスペンス!(だからハヤカワ?)

そして理想に燃えるあまり、仲間を切り捨てたり裏切ったり
その信念の不確かさも際立っています。

もうひとつ
カズオ・イシグロ作品は作者と全く異なる人物に語らせているのが特徴

一人称だと作者自身の投影が感じられるのが割と普通だと思うけれど。
戦中に活躍した日本の画家ですよ!フィクションだとしても
物語を創作する能力がすごいです。

次は(発表順に)「日の名残り」を読む予定
ル・シネマでの上映が延長されたので、観に行けるかも。朝早いからどうかなぁ



・・ネタバレです・・

太郎パパは本当に小野を知らなかったのでは…

・・・・・・・・・・