誕生日で、同時に入隊日でもある明日。
エルフには申し訳ないけど非公開での入隊にした俺に、ヒチョリヒョンは「お前らしい」と言って笑った。
「俺らは見送り、行ってもいいんだろ?」
「うん。ていうかエルフも入隊セレモニーは見れると思うよ。非公開っていっても撮影が駄目なだけだから」
「そうか。ま、健康にな。しっかりやれよ」
そういって泣きそうな笑顔で頭を撫でてくれたヒチョリヒョンを、ぎゅっと抱きしめると「おいやめろ、」なんて言いながらヒチョリヒョンも抱きしめ返してくれた。
入隊日前日、最後にメンバーとゆっくり出来る時間を、噛み締めるように過ごす。
当日見送りにいけないから、とインスタでジョンスヒョンからのエールも貰って、自分の中での整理もついて、あとは行くだけ。意外とこの時間が一番焦れるなぁ、と1人笑う。
.......ジョンウニヒョンは何してるかな。
「写真撮ろう!」なんてジョンスヒョンの声に、後輩達に混ざって一緒に撮ってくれたジョンウニヒョン。元々ヒョクの見送りのために顔を合わせていたけど、それはメンバーとしてで....付き合ってる身として........恋人としてはまったく会えてない。
「次会うとき、幸せに」なんてコメントも嬉しいけど。俺はヒョン自身に会いたいのに。
俺らがいない間はKRYとしての仕事が多くなるだろうから、ヒョンはヒョンで変わらず忙しいのも分かるけど...でも、「体休めろ」なんて理由で俺を宿舎から追い出すなんて酷くない?(正確にはジョンウニヒョンの部屋から追い出された俺が拗ねてマンションに帰ってきたんだけど。同じことだ)
だって、2年だ。
2年って結構長い。もう兵役を終えた先輩によれば、「最初の1年は早いけど、あとの1年は長い。」という感じみたい。残り1年、からなかなか減らない時間にやきもきする、と笑いながら言っていた先輩を思い浮かべて、果たして俺は笑い事になるかな?なんて考えても意味のないことが頭に浮かぶ。
...駄目だ。やっぱりひとりで過ごすとろくなこと考えられない。だから今日は宿舎にいたかったのに。
今は夜の23時。少し迷惑かもしれないけど....ま、いいだろう。やっぱりジョンウニヒョンに会いたい。
出てきた宿舎へ早々に舞い戻ることを決めて、早速コートを羽織り車の鍵を手にした。
「部屋どうしようかな.....ヒョクの部屋借りればいいか.....ん?」
独り言を言ったタイミングでブーッブーッと携帯が振動した。
なにこれ、ヒョクが文句言ってるみたい。なんか笑える。
お前汚すんだから絶対俺の部屋に泊まんなよ!?と眉を釣り上げて言っていた親友の顔を思い出しながら、携帯の画面を確認すると、そこには予想外の人の名前。
慌てて手に持った車の鍵を置いて通話ボタンをタップする。
『....あ、ドンへ?』
「う、うん。どうしたの?ジョンウニヒョン」
『な、俺今そっちに向かってたんだけど案外寒くてさ。迎えに来てくんない?』
「えっ、向かってってどこに!?」
『じゃ、よろしくな』
ジョンウニヒョンが突拍子ないのはいつものことだけど、これは突拍子なさすぎるでしょ。
現在地も何も教えずに一方的に切られてしまった電話に少しの間呆然とした。
(えっ....どうしよう。向かってるって......マンションに?今から?そもそも自分が追い出したくせに?迎えに来てってことは徒歩なんだろうけど......どの道通って?こんな時間に?)
ぐるぐる駆け巡った考えをとりあえず頭の隅に押し込めて、再び車の鍵を持って駆け出す。
車に乗って、とりあえずジョンウニヒョンにもう一度電話。出ない。なんで!!!!
(前にも1回迎えに行ったはず......その時どこ通った.....?)
一回きりの記憶を必死で引きずりだして、そのときジョンウニヒョンが持っていたコンビニの袋まで思い出した。
行く途中で買ったんだとしたら、そのコンビニがあるのはあの通りしかない
なんの確信もない賭けでしかない考え方だけど、今はもうこれしか判断材料がない。
エンジンをふかして出来る限り早く、だけど道行く人の顔を確認できるスピードで走らせる。
件のコンビニが近づいてきた。と、そのコンビニから出てきた人の頭に、見覚えのあるニット帽を発見。
(俺があげたやつ!)
気付いて駐車場に車を入れようとしたところで向こうも気付いて、呑気にこちらに手を振ってきた。
「おードンへ、ありがとな」
「ありがとな、じゃないよ!俺が分からなかったらどうするつもりだったの!?」
「ドンへなら分かってくれるだろ」
「しかも携帯は!?」
「充電切れた」
「何でそんな薄着なの!?」
「昼間暑かったから油断した。もう夜は冷えるなー」
車に乗り込んできたジョンウニヒョンは何を言ってもどこ吹く風で笑ってる。それを見たと同時に凄い脱力感が襲った。
(俺もアホの子アホの子言われてるけど、ジョンウニヒョンのがよっぽどアホでしょ!)
俺が迎えにこないとかそういう可能性なんてまったく考えてない(まあ考えなくてもいいんだけど)。
そうじゃないにしても、俺が明日に備えて早めに寝てたりしたらどうするつもりだったの?
脱力してる俺を他所に「出さないのか?」なんて袋をガサガサいじってるジョンウニヒョン。なんだか馬鹿らしくなって、ため息とともに車を発進させた。
帰りは行きよりもスムーズに着いて、車を車庫入れしてからエレベーターで部屋に向かう。
その間も、ジョンウニヒョンは他愛ない話で一人で盛り上がってる。
....無理矢理テンションあげてるなぁ.....
これはなんかあるな、と確信を持ちながら玄関のカギを開けた。
「おお。ドンへにしては綺麗さが保たれてる」
「.....最近こっち来てなかったし。ジョンウニヒョン、なんか飲む?」
部屋に入って一言目に失礼なことを言われてむっとしたけど、まあ正しいので何も言わない。
身体が冷えているであろうジョンウニヒョンのために軽く暖房を入れて、聞きながらカフェオレを準備する。
「んー....カフェオレ。」
「だろうと思った」
「..........じゃあ聞くなよ」
予想が当たったことに笑顔になる俺を見て、ぶつぶつと文句を言いながらもきちんとありがと。と言ってマグカップを受け取るヒョン。
袖を伸ばして両手でフーフーと息を吹きかけてる。もうヒョンだって30超えてるのに、妙に似合ってるのはなんなんだろう。
自分用に入れたコーヒーを啜って、一息ついたところで改めて向き直る。
「それで…急にどうしたの」
「..........」
「......言う気ないなら体に聞いてもいいんだけど」
「っ待てって、そこっ.....さするな!言うから!」
さっきの飄々とした態度はどこやら、分かりやすく言いにくそうにするヒョンに少し遠慮する気持ちも出たけど。まあ俺にも聞く権利があるよね。
ヒョンが弱い、内股の際を撫でればカッと顔を赤く染めて慌てて俺の手を掴む。そのまま俯いたジョンウニヒョンを下から除き込んだ。
突然こういうコトされるの、慣れないんだよね。でもジョンウニヒョンの気分が乗る前に、俺のペースに巻き込んどかないと。乗っちゃうと一気に俺が巻き込まれちゃう。
そんなことを考えながら根気よくジョンウニヒョンの次の言葉を待つ。
「あー .......あの、な」
「うん」
「俺、この、なんとかしようとは思ったんだけど」
「......?うん」
「駄目で.......つい飛び出して.....あー....」
途切れ途切れに話される言葉を、いつもより頭の回転を2倍ぐらいにして繋げる。
なんとかしようとは思ったけど駄目だった?飛び出して......俺のマンションに?
「....あ。」
「んだよ....」
「寂しかったの?」
そう言うと一瞬顔を上げて目を見開いて、すぐ俯いて。さっきとは比べ物にならないぐらい、耳まで真っ赤になって。
もう耐えきれなくなって、無理矢理顔をあげさせてごにょごにょと言い訳をする口を塞いだ。
「っん...ふ、あ、おい、」
「....んふふ、かーわいー。ジョンウニヒョンめちゃくちゃかわいい。もー、なんなの?行きにくくなっちゃうじゃん」
「...うるせぇ、可愛くない。調子のんな」
もう可愛くないこというジョンウニヒョンを、後ろから抱きしめた。
だって、寂しくなっちゃったんでしょ?俺が宿舎出ちゃって、気づいたらいなくて。
外の気温とか気にせずに、俺があげた帽子だけ身につけて、俺のいるところに向かっちゃったんでしょ?
本当、行動が読めない。突拍子ない。読めなさ過ぎて、突拍子なさすぎて、本当、かわいい。
「俺も、寂しかった。追い出されちゃって、最後なのにーって。だからまたジョンウニヒョンの所行こうとしてたら、あんな電話きたんだもん。びっくりしたよ」
「....会ったら、離れ難くなるだろ。仕方ないことだから割り切らないといけないのに」
「うん。じゃあ今日充電させてよ。2年分」
「……はあ?くふっ……エロオヤジみたいなこと言うなよ」
「えー?でもさ、こういう俺が好きなんでしょ?」
「だぁから、調子乗るなっての…」
無自覚に可愛いこと言い放って、もう俺は限界だから。
ジョンウニヒョンだっていいんでしょ?ほら、口では否定してるけど笑っちゃってるよ?
片側だけ上げる、いつもの笑い方。かわいー。
「あ、待て!」
「……なに?」
いい雰囲気だったのに急に体に力が入って俺を引き剥がしにかかるジョンウニヒョン。
本当気分屋だなぁ……
半ば呆れながらいそいそとコンビニ袋を漁るジョンウニヒョンを見る。
そしてやっと戻ってきたジョンウニヒョンの手には、シウォナが好きな某飲料メーカーの黒い炭酸。
「誕生日おめでとう」
「え?あ、12時こえて……ってプレゼントこれー?シウォナの好物じゃん」
「いらないならいーけど?それこそシウォナにでもやろうかな」
「あー!だめ!もらうから!」
本気で袋に戻そうとするジョンウニヒョンの手を慌てて掴む。そんな俺の様子を見て、ジョンウニヒョンはとろける様な笑顔で笑った。
炭酸を床に落として、猫のように目を細める。
「ほら。本命のプレゼントはこっちだ」
そうやって俺に手を差し出してくるジョンウニヒョン。
あー、今回も最後はこの人に呑まれちゃうんだなぁ。
そう思いながら、差し出された手を握り返した。
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「あ、そろそろなくなるかも…」
幸せそのもの、といえる時間を過ごした翌日。移動している車の中で、昨日もらった炭酸を飲む。
(昨日のジョンウニヒョン可愛かったなぁ…)
よろしくないことを考えて、にやにやと口角が上がるのが自分でも分かるけど気にしない。今更だし。
そんなことを考えながら残り少ない炭酸を飲み干そうとぐ、とペットボトルを傾けると、何か黒い文字が見えた。
「え?」
思わず口を離してみると飲み物自体の色に隠れて見えなくなる。
(うわ、うわ……!)
急いで全部飲み干してペットボトルの表面を勢いよく見た。
『浮気せずに待っててやるから、お前も気をつけて行ってこい。サランへ、俺のドンへ』
声にならない。やばい。
運転手の人に心配されてるけど、そんなの構ってられない。
(こんなことされて浮気なんてできるわけない!!!)
ジョンウニヒョン、待ってて。
浮気なんてしてる暇ないぐらい、格好良くなって帰るから。
END
