みんなの学び場美術館 館長 日下育子です。
本日は素敵な作家をご紹介いたします。
書家の川尾朋子さんです。
以下2013年3月の再放送でお届けいたします。
前回の舩木大輔さんからのリレーでご登場頂きます。
⇒ http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11181389645.html
http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11186116215.html
また川尾朋子さんからご紹介のエトリケンジさんとは、都合により順番を入れ替えてご登場いただきます。
⇒http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11192277628.html
http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11199958098.html
川尾朋子さんの作品のテーマ、作品制作の思いについてインタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。
今日は前編をお届いたします。お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。
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個展『呼呼応応』より 2011年
個展『呼呼応応』より 2011年
大丸のショーウィンドー
和室に垂直の2本の作品
嵐山駅の看板
日下
川尾朋子さんの制作テーマをお聴かせいただけますか。
川尾朋子さん
作品は2009年から『呼応シリーズ』を制作しています。「呼応」というのがテーマです。
日々、古典臨書といって、古典の書を模写するということをしています。中国の書の神様みたいな人たちがいて、その人たちが書いたもの、もちろん日本の書家も。その古典臨書を私は小さな時からしてきました。
日々、筆を持たないと落ち着かない感じで、修行の一環というよりも生活の一部みたいな感じでやっています。
その中で模写するというのは、見えている部分をものすごく近いように書くということでずっとやってきました。
今もなお、師事している祥洲先生、仮名を専門に教えていただいている橋本烽玉先生から指導を受けています。
書道というのが他の芸術と違うというのは追体験が出来るということがとても特徴だということを教えていただきました。それが一筆書きということなので。普通、制作過程というのはなかなか見えないものじゃないですか。
日本画でも、これはどこから描いたんだろうという順番なんて全然わからないし。でも、書道は書き順が決まっていて一回きりのものなのでわかるんですよね。
そういうことも含めて、どういう風に模写をしてということを考えると、見えてる部分だけじゃないなということを思ったんです。勿論その時代背景、その人の心境、環境、、、いろいろあると思うんですが、もうちょっとスキル的なことでいうと、空中での筆の動きがとても重要だと思ったんです。
例えばひらがなの『い』という字は、途中で空中で筆が動いてますよね、すごく簡単にいうとそこの部分を想像する作品。これが「呼応シリーズ」です。点と点の間にある、空中での筆の奇跡というか、『虚画』(きょかく)というのですが。
日下
見えないとこでの筆の動きを『虚画』(きょかく)というのですね。う~ん。なるほど~。
そこを感じる作品なんですね。素晴らしい・・・。
川尾朋子さん
そうなんです。押しつけがましいですけどね、なんか。あんまり言い過ぎるとそういう風に見て下さいという風になってしまうようで嫌なのですが。
テーマとしてはそれがただ書道だけじゃなくて、私と日下さんの間に何があるかということだったりとか、自分が大事にしているものだったりとか、何か二つのポイントを見る時のもっと想像力を働かすことができるきっかけというか・・・。ちょっとした何かになればいいなと思っているんですけど。
例えば『あの人こうして欲しいだろうなとか』思う時あるじゃないですか。
日下
はい。
川尾朋子さん
それがすごく日本人の悪いところでもあり、良いところでもあると思うんです。『察する』ことを、もっと良い風に伸ばすことができれば、ちょっとずつみんながハッピーになる。
二年前に展示のために、2カ月ほどベルリンに滞在した時に、察すること、が日本人の特徴としてあるなと思って、それを良い方向に伸ばすことができればいいなと思ったんですね。と同時に、私のテーマはとても日本っぽいと思ったんです。東洋の哲学が染みついている部分があり、そういうことに視点を置いたということすらも、やはり自分が日本、特に京都に住んでいたからだったのかなと思いました。
日下
はい。川尾さんのホームページを拝見して、ギャラリストさんが書いた文章に『行間を読む』という言葉が出てきていましたね。その一文は
『彼女の打ち込む点、そして点と点を結ぶ、目には観えない感覚を共有する事、自身が日本人として大切にしている “行間を読む”つまり、“察する”というコミュニケーションが、すべての作品の根底にある。』(※)
というギャラリストさんの文章を拝読していたので、とってもよくわかりました。とても深いことをしていらっしゃると思いました。
私はその『行間を読む』とか、見えないところを『察する』とか、『虚画』(きょかく)と言うのも初めてお聴きしました。見えないところに思いを馳せるとか、『虚画』(きょかく)ということ、目には観えない感覚を共有することって、素晴らしい内容ですね。
※ギャラリスト 小山 聰さん の文章を引用
川尾朋子さん
『Imagine』という歌じゃないですけど、想像することかなと私は思っています。例えば震災。日本人って『ああして欲しい、こうして欲しい』ってあんまり言えないじゃないですか。そうなった時に、日本のみんなが凄く考えて『これが欲しいんじゃないか、あれが欲しいんじゃないか』って想像して、その次に行動するじゃないですか。その思いを馳せることで助ける事ができるんだなと、感じました。
日下
思いを馳せる・・・。相手に軸がある感じですね、自己軸というよりは。川尾さんのお話を受け止めながらお話をお聴きしていて、私は私で自分が過去に見聞きしたり、経験したものに照らし合わせながら、この感覚かな、あの感覚かなと考えながら今、お話をお聴きしています。
少しお話が戻るかも知れませんが、『虚画』とか見えないところを『察する』という感覚は、例えば今、川尾さんと私がお話している関係のように、相手を察するという感覚が、私の知っているものの中で何に近いかというと、空間の感じ方、まっさらな空間ではなく彫刻で作ったすきまの空間のようにみちっと詰まった空間という感じかたに近いと思うんですが。
川尾朋子さん
面白いですね、でもそれは私にはわからないと思うんです。やったことがないので(笑)そこになにかがあるという感覚なのかもしれないですね。
それで、この前の個展の画像ですが、あれは一個の点以外は全部線のように見えるんですけど、あれは筆が紙についていなくて、筆が空中で動いてそこから落ちた墨の痕跡、点から点に行く間の筆の軌跡なんです。で、一個の点だけが紙に接触していることになるんですけど、3m65cm×145cmの紙の中で、ただ一点だけ紙についているんですね。
今まではその点から点に行く空中での筆の軌跡を、作品を2つにしてその間を何も無くしてしまったものとか、空間に空中に作品を二つ配置してその間を歩いてもらったり、点と点の間を横切ってもらったり、ふすまに点を描いてその間を通ってもらったりと、いろんな方法で呼応シリーズを展開してきましたが、今回はこの方法で呼応を表現してみたんです。
今も私とか日下さんが椅子に座っているこの瞬間も、人の気持ち、メール、情報など、ものすごい量が通り抜けているという感覚があるんです。そういう中で自分は何を受け取って、何を発していくのかというのもすごく今、難しいと思う。
日下
そうですね。
川尾朋子さん
情報技術が発達したことによりたくさんのことをリアルタイムに知ることができるので。でも自分がやれること、24時間ということは昔と全然変わらないわけで。どう時間を使って、誰の気持ちを受け取って、自分はどう発するのかというのをすごく考えちゃいますね。特に去年の日本は特に。それだけに焦点を当てているわけではないですけど。そういう背景はあります、その作品には。
日下
この例えば、点のところだけが紙に接していて、それ以外の線を引く時にそういう、飛び交っている情報だとかそういうものを想像しながら点を・・・。
川尾朋子さん
情報というよりは気持ちですね。気持ちが点から点に移るときにいろいろ動いているというので、情報を発する人も何かしら気持ちがあって発しているだろうし受け取る方も、無感情で受け取る訳じゃないから。だからまあ、何か混沌としてましたもんね。本当に去年は。
日下
そういうお話を聴きながら作品を拝見すると、とっても深いなと思います。抽象というものの深い表現というか、結局これだけの線、これだけの大きさの紙があってこれだけの線の粗密があって、それだけその川尾朋子さんが気持ちを投げかけたという痕跡なわけですよね。
川尾朋子さん
怖いですよね。(笑)
パフォーマンス写真
日下
いえいえ。線を気持ちと見るか、人とのつながりと見るか、それは人それぞれなんでしょうけれど。面白いというか深みがありますよね。
こういう表現というのは、一旦始めたらきっと止まらないでいくものだと思うんですが、始まる前にイメージトレーニングというか、イメージが無いと出来ないと思うのですがいかがでしょうか。
川尾朋子さん
はい、そうですね。書道って、書くまでの筆墨硯紙の準備、気持ちなど、準備の方が無茶苦茶長くかかるんですが、書くのは一瞬!イメージトレーニングみたいなものは凄くありますよね。
書道は特に他よりも即興性が高いと思うので、例えば漢字を一つ書くのにしても、この画をこうしたから次の画をこうして、じゃあこうなったらこうという風に、一画一画即興性がある。隣の文字を見ながらこっちはこうの方が空間的に頭の中でバ―っといろんなことを考えながらやっていくので、音楽に近いと思います。もう止まることが出来ないので。止まることなく次の画に進めて行かなくてはいけないというのはすごく音楽に似ている。あと作品については体力勝負というところがあります。制作の中で走ったりもしているので。
日下
なんかそんな感じがしますね。凄いですね。墨の量だって物凄そうですよね。直接触れないでこれだけの痕跡が
残っているって。墨もバケツで作っているという感じでしょうか。
川尾朋子さん
はい、そうです、もうバケツで。紙に乗っているだけじゃなくて紙の外にも、倍以上の墨が落ちている。そう思うとやはり凄い量でしたね。
日下
室内で書かれるのですか。
川尾朋子さん
はい。
日下
凄いですよね。
川尾朋子さん
はい、墨まみれになって書いています。
日下
ところで川尾さんは自家製の墨を制作していらっしゃるようですが。私のイメージですが、墨って普通のモノからかなりお高いモノまでいろいろあって、書道をされる方はいろいろ集めて、大事に使っていらっしゃるというイメージがあります。
墨って、煤から作るとそれだけで、相当なお仕事なんじゃないかと思いますが。私は昔、テレビでランプを焚いて底から煤を集めて墨を作るという、すごく時間のかかる作業を見たことがあったもので、どんな風に作ってらっしゃるのかなと
思って。
川尾朋子さん
煤は買っています。『墨から作ります。』というとそう思っちゃう人もいるんだなと思ったんですけど。煤を練るところから始めるという感じですかね。にかわとの調合だったり、自分の表現したい色が出るように、メディウムを変えたりとか。
日下
煤自体に結構種類があるものなのでしょうか。
川尾朋子さん
ありますね。菜種、胡麻、そういった油を不完全燃焼させたものが煤だから、いろんな種類があるんですよ。
煤はいつもお世話になっている四寳菴という書道用品店で購入しています。擦った墨でやることもありますし、自分の出したい色によりけりです。限定しているわじゃないですね。
日下
そうですか。勉強になります。ありがとうございます。
奈良県障害者芸術祭での展示下2点の作品は『森の行進』というテーマになっています。参加してもらった人無差別に、全員のモノが展示されているのですが、人それぞれの役割があって成立している、森も、地球もそうですが、みんなで認め合って歩いているというテーマです。
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編集後記
川尾朋子さんには、前回の舩木大輔さんのリレーでご登場頂きました。今回、初めて川尾朋子さんの制作への思いをお聴かせ頂きました。
あくまで『書』というものに基本を置きながら、『書く』という行為そのものに真摯に向き合いながら、ご自身の作品を作られていて、とても感覚を研ぎ澄ましていらっしゃる作家さんだと感じました。
皆さんもぜひ川尾朋子さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。
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◆川尾朋子さんのホームページ
◆SATOSHI KOYAMA GALLERY
◆川尾朋子さんが、明日!KBS京都ラジオに出演されます!!(← ※2012年当時の情報にて既に終了しています。)
妹尾和夫のパラダイスKyoto
⇒ http://www.kbs-kyoto.co.jp/radio/para/
放送日:2012年3月30日(金)
放送時間:11時~11時25分
パーソナリティ:妹尾和夫、遠藤奈美
(KBS京都アナウンサー)
◇ 今週のお客さま:書家・川尾朋子さん
みなさん、ぜひお聴きになってみてはいかがでしょうか。
◆川尾朋子さんがライブパフォーマンスをされます。 (← ※2012年当時の情報にて既に終了しています。)
4月4日(水)18時から
* 大丸京都店100周年感謝祭のオープニングの日です *
大丸京都店 エントランスホール
書いた作品ものが、2012年 4/8から24までエントランスホールに展示されます。
みなさん、ぜひご覧になってはいかがでしょうか。
http://www.daimaru.co.jp/kyoto/