お久しぶりです。
理佐ちゃん、卒業してしまいましたね……。
こんなタイミングで、今まで書き溜めてた理佐ちゃんの小説を2つほど放出しちゃいます。
りさてん、バイトの先輩後輩という設定です。
友情出演、増本さん
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理佐さんはいつだって優しかった。
いつも優しくて、美しくて、でも時々意地悪で。
いつもクールで大人で、かと思えば子どもみたいに笑ってて。
ずっと遠い存在だと思ってたのに、突然近くにやってきて、
そしてまた、理佐さんは遠くなった。
これは私と理佐さんが一緒に過ごした、ほんの1年間の物語。
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出会ったのは春。
高校生になって始めた飲食店のアルバイト。
理佐さんは大学4年生で、高校1年生の私の教育係だった。
「天ちゃん、これ、4番テーブルに持っていって。」
「…はい。」
理佐さんはとにかく仕事が出来た。
気が利いて、丁寧で迅速で、皆から頼られてて。
いつだって凛としてて、大人で、綺麗で。
噂では恋人が居ないらしいけど、そんなの絶対嘘だってくらい私には完璧に見えた。
そして、とても遠くて、手の届かない存在なんだって思ってた。
でも理佐さんは、意外と子どもっぽい一面もある。
バイト仲間にイタズラをして、ケラケラ笑ってるのを初めて目撃した日は驚いた。
普段はあんなにクールなのに、あんな風に笑うんだって、ギャップにやられた。
あとは何より、理佐さんはずっと優しかった。
あれは確か、私が慣れない仕事でミスをしてしまって、お客さんを怒らせてしまった時。
「も、申し訳ありません…。えっと…。」
どうしたらいいか分からなくてひたすら頭を下げる私の元に、理佐さんは来てくれた。
「天ちゃん、ここは私に任せて、あっち代わりにやっといてくれる?」
そう小声で囁いて、そっと肩を叩いてくれて。
言われるがまま、私は別の仕事をする。
その間も理佐さんはずっと謝り続けていた。
熱りが冷めてから、私はすぐに理佐さんの元へ向かった。
「理佐さん…ごめんなさい、私のせいで…。」
泣きそうになりながら謝ると、理佐さんは何故か笑っていた。
「あははっ。大丈夫だよ、慣れてるから。」
「え…?」
「あれ、天ちゃんじゃなくても間違えるし、誰も悪くないから。」
そう言って、笑いながら理佐さんは私を庇ってくれた。
「…でも…。」
と落ち込む私に、
「誰だってミスはするから。後悔は程々にね。」
って優しく頭を撫でてくれた。
私のせいで理佐さんはお客さんに怒られたのに。
私を責めたりしなかった。
「はい。この件はこれで終わり。また明日から楽しく頑張ろ。楽しく働いた方が絶対得だから。お菓子食べてリセット〜。」
理佐さんは少しおどけながら、私の手の平にチョコレートを乗せる。
一瞬触れたその手は、凄く暖かった。
私は理佐さんが大好きだった。
一緒にいるとホッとして、楽しくて、ふとした瞬間にドキッとさせられる。
そんな理佐さんとずっと一緒にいられたらいいな、というのが、私の願いだった。
そしてその想いは気づけば、先輩という垣根を越えた、淡い恋心に変わっていた。
しかし何も出来ないままあっという間に季節は移り変わり、冬の足音が近づく。
「今日も理佐さんはカッコいい…。」
バイトの休憩室から理佐さんを眺めてはため息をつく。
もはや休憩中の恒例行事だ。
「天さんはお馬鹿ですね。」
突然暴言を吐かれ、私は思わず「今馬鹿って言った?」と口答えした。
増本綺良だ。
年上だけど、バイト歴は私の方が長い。たまに喧嘩するけど、なんだかんだ仲良しだ。
「理佐さんは大学4年生ですよ。今、大学4年生の秋です。つまり、もうここにそう長くは居ないってことです。このまま何もしないつもりですか?」
綺良ちゃんにそう言われ、私はムッとした。
そんなことは分かってる。
だけど、どうせ理佐さんは私のことなんて相手にしてくれない。
理佐さんは大人で、私はまだまだ子どもで。
いつも可愛がってくれるのは嬉しいけど、時々、切なくなる。
理佐さんにとって、私はきっとただの後輩なんだって。
「いいの。理佐さんとは、今の関係のままで。」
私は強がった。
逃げてるだけだってことも、心のどこかでは分かってる。
でも綺良ちゃんは、そんな私の心の奥へと入り込む。
「ずっと一緒にいたいんでしょ?今の関係のままじゃ、きっとずっと一緒にはいられませんよ。」
「それは…そうだけど……。じゃあどうしたらいいの?」
「卒論のデータ消して留年してもらいますか?それとも無理矢理ここの社員になってもらいますか?」
「…馬鹿なの?」
「冗談です。」
「もう…こっちは本気で悩んでるんだけど…。」
私は不貞腐れて机に顎を乗せる。
すると、見兼ねた綺良ちゃんがドヤ顔で私の視界に入ってきた。
「天さんは幸運ですね。何故なら近くに恋愛エキスパートの私がいるから。」
「綺良ちゃんがエキスパート?」
「はい。いいですか、天さん。まずは理佐さんとデートに行くんです。そしてその後、告白するんです。」
「…振られるよ、きっと。」
「振られる可能性はありますけど、このまま何もしないのも後悔が残るだけだと思うんですよね。だったらアタックあるのみです。名付けて、ラブアタック大さ___ 」
「___デートはありだな…。」
私は立ち上がり、顎に手を当て考え始めた。
「ちょっと天さん?一番大事なところ…。」
「告白はまぁ置いとくとして…。ただ遊びに行くという名目なら理佐さんはきっと行ってくれる。優しいから。」
ポツポツと一人で呟きながら、推理中の探偵のような足取りで休憩室を歩き回る。
しかし頭の中ではぐるぐると色んな考えが巡り、ポジティブとネガティブが入り混じる。
「…いやでも…今さら思い出作っても苦しくなるだけかも…。それならいっそこのままでも…。あああどうしよう…。」
私は頭を抱えて座り込む。
すると綺良ちゃんは
「天さん、大馬鹿者ですね。」
とぶっ込んだ。
「ひどい…。」
「ひどいのは天さんです。まるで思い出作るのが悪いみたいな言い方。」
「だって…これから一緒にいられないのに、好きな人との思い出だけが残るんだよ?辛すぎない?」
「気持ちは分かりますけど。…じゃあ天さんは、理佐さんと出会えたこと後悔してるんですか?」
綺良ちゃんに問われ、私は思わず立ち上がった。
そんなはずない。
理佐さんに出会って、色んなこと教えてもらって、色んな気持ちを知って、理佐さんとのかけがえのない日々は今の私にとって宝物で。
後悔なんてするはずがない。
私は理佐さんに出会えて良かった。
それを綺良ちゃんにぶつけようとした時、私は気付いた。
「…あ。」
「気付きましたか?」
綺良ちゃんはドヤ顔で眉毛をピクピクさせながら、こちらを見ていた。
少しムカつきながら、私は綺良ちゃんの問いに渋々答える。
「…理佐さんと出会えて良かったと思ってる。」
「出会えて良かったと思えてるなら、これから作る思い出だってきっと、悪いものにはならないはずなんです。」
綺良ちゃんはこうやって時々、正論をぶつけてくることがある。
ドヤ顔はムカつくけど。
「ごもっともです…。」
私は潔く綺良ちゃんの言うことを聞き、デートのことを考え始める。
考え始めてみると、段々とワクワクしてきて胸は躍る。
我ながら、単純だと思う。
「えー!どうやって誘おっかな…。場所はどこがいいかな…。水族館…?映画…?観光地巡り…?いや、やっぱ遊園地がいいかな…。」
「私は遊園地行きたいな、天ちゃん。」
「ですよね、遊園地……って理佐さん!!?」
私は驚きのあまり後ずさる。
気付けば理佐さんが休憩室に入ってきてて、私の独り言に理佐さんが返答しているという異常事態。
いつからいたの?
というか、どこから聞いてた??
固まる私に、理佐さんは問いかける。
「…遊園地、一緒に行こうよ。」
「ゆ、遊園地、行きましょう。」
「やったー。けってーい。」
緩い口調で喜ぶ理佐さんは、同じく固まる綺良ちゃんにも問う。
「綺良ちゃんも行く?遊園地。」
「あ、いえ、私は遊園地興味無いので行かないです。2人で行ってきてください。じゃあ、私は仕事に戻ります。」
そう言って綺良ちゃんはそそくさと休憩室から出て行く。
私は、綺良ちゃんがほんとは遊園地好きなの知ってるからね、と感謝の念を送っておいた。
休憩室には、私と理佐さんの2人だけになる。
今までだって何度もあったのに、今日は何だかいつもより気まずい。
理佐さんは椅子に座り、スマホを見ながら
「いつ行く?てか、誰か他の人誘う?」
と問う。
理佐さんにとってはきっと何気ない日常で、バイトの後輩と遊びに行くただの休日。
でも、私にとっては一大事。
その日くらいは、理佐さんを一人占めしたっていいよね?
「…2人で行きましょ。」
思いきってそう言うと、理佐さんは
「そだね。天ちゃんと2人って無かったもんね。」
って了承してくれた。
それから、理佐さんと私は計画を立てた。
その時間はどんな時間よりも楽しくて、嬉しくて、幸せだった。
そして迎えたデート当日。
はじめての、理佐さんとのデート。
私はちょっとだけ背伸びして、大人っぽい服装とメイクをした。
今日は大人モードの私で行く、なんて決めて。