「理佐さん理佐さん!あれ乗りましょうよ!」


大人モードなんてすぐに忘れて、気付けば私は遊園地を堪能していた。


理佐さんの手を引っ張って、


「はやくはやくー!」


なんて急かしたり


「カチューシャ着けましょうよ。」


なんて、ミッ◯ーの耳着けてみたり。


アトラクションの水が思ったよりもかかってびしょ濡れになって、2人で大笑いしたり。


好きな人といられる時間があまりにも楽しくて、幸せで…。


理佐さんも楽しそうにしてたから、それもまた嬉しくて。


私のテンションは終始高いままだった。


あっ、って気付いておしとやかにしようとしたって、気付けばはしゃいでしまう始末。



結果、はしゃぎすぎて疲れる私。


夕暮れ時、ベンチに2人並んで座って


「疲れた〜。」


って理佐さんの肩に頭を乗せた。


そんな私を見て、理佐さんはふふっと笑う。


私はムッとして、


「あ、理佐さん何で笑ってるんですか?」


と聞くと、理佐さんは


「いや、天ちゃんが可愛いから。」


なんて笑いながら言った。


恥ずかしくて、私の顔は一気に紅潮していく。


「天ちゃん、顔赤くなってるけど。」


理佐さんはそう言って、私の頬を掴んだ。

私の口はむにゅっと歪む。


「りゅしょしょん…。」


「はははっ!何て言ってるか分かんないよ。」


悪い顔して楽しそうに笑う理佐さん。

私もつられて笑う。


いつも優しい理佐さんがちょっとだけ意地悪になる瞬間。

それは、遠い存在な理佐さんが近づいてきてくれる瞬間でもある気がして、案外私は好きだった。





「…天ちゃんがそうやって楽しそうで良かった。」


「…え?」


「天ちゃんって、普段は大人びてるでしょ?無理してるんじゃないかな、って心配してた。」


理佐さんが私を見て、必然的に目が合う。


その目が、表情が、言葉が、全部が優しくて、胸の奥から何かが込み上げてくる。

それをグッと堪えて、飲み込んだ。


「…ああ、確かによく言われますね。大人っぽいね、とか。」


家では長女だからしっかりしなきゃいけないし、バイトでは自分より年上の人に囲まれてるから大人にならなきゃいけないし…


知らぬ間に、ずっと気を張っていた気がする。


「もっと甘えていいんだよ。無理に大人でいようとしなくたっていい。」


理佐さんが何気なく言ったその言葉に、込み上げてくるものが堪えきれなくなった。

私の意思に反して、目からはぽろっと滴が溢れて頬を流れる。


私は理佐さんに気づかれないように慌てて顔を逸らして、涙を拭こうとする。

でも理佐さんはそれを阻んだ。


私の顔は理佐さんの両手の平に挟まれ、理佐さんの方を向かされる。


また目が合う。


理佐さんの眉毛は八の字に下がり、心配そうにこちらを見ている。

そして私の頬に流れた涙を、何も言わずに両親指で拭った。


「理佐さん…。」


泣き声でそう呼びかけると、理佐さんは優しく微笑んだ。


その優しい表情にまた涙が溢れる。


何の感情なのだろう。

分からないけど、理佐さんが大好きで苦しかった。


「あらら、涙止まんないじゃん。」


理佐さんは少し笑いながら、小さな子をあやすかのように私を抱きしめる。


理佐さんの胸にすっぽりとおさまる私。


少しの間甘えて、理佐さんの胸の中で泣いて…





そして私はそっと理佐さんから離れた。




涙を拭いて、理佐さんを見る。


理佐さんは、イタズラ前の子どもみたいな顔をしていた。


「…お菓子、買ったげようか?」


「…そこまで子どもじゃないですー!」


「ははっ、そうだね。でも私も食べたいから買ってくる。これ被って待ってて。交換。」


そう言って理佐さんは私の頭につけたカチューシャを外し、キャラクターの形をした帽子を私に深く被せた。


「うん、似合ってる。」


そう一言言い残し、理佐さんは遠ざかっていく。


私は被された帽子をもっと深く被って、目に残った涙を拭う。


理佐さんは「カチューシャじゃなくて帽子がいい」なんて言ってカチューシャ買わなかったからお揃いに出来なくて。


でもこうやって交換出来るのも悪くないな、って思った。


……ああ、そっか。


私はふと、理佐さんが帽子とカチューシャを交換した理由に気付いて、胸が温かくなった。


きっと泣いちゃった私が、涙を隠せるように交換してくれたんだ。


どこまでも優しくて、大人で、やっぱり大好きだって改めて思う。

ずっと一緒にいたいって気持ちはどんどん膨れていく。


そしてまた、切なくなる。




「天ちゃん、お待たせ。」


理佐さんは可愛らしいスイーツを2つ持って、戻ってきた。


「わぁ、ありがとうございます!可愛い!」


「これ食べたら帰ろっか。」


「…帰りたくない…。」


ぽろっと溢れた本音。


「そだね。帰りたくないね。」


理佐さんはスイーツを頬張りながら、優しく微笑んだ。


胸がぎゅっと摘まれるように苦しかった。

この時ばかりはスイーツが胸やけしてしまいそうなくらいに。


私は無言でスイーツを頬張る。

理佐さんも、何も喋らなかった。


スイーツはどんどん減って、帰る時間はどんどん近づいてくる。


時間を稼ぐかのように、私はまた理佐さんの肩に頭を乗せた。


「理佐さんの肩、落ち着くなぁ。」


「そう?」


「理佐さんといると、不思議と子どもになっちゃうんです。でもそれが心地いい。」


「ふふっ。赤ちゃんみたい。」


「もぉ!それは子どもすぎますって!」


「よしよし。」


理佐さんは私の頭を撫でた。


また胸がぎゅっと摘まれる。

嬉しくて、心地よくて、でも苦しくて。


ずっとこのままでいられたらいいのに。

理佐さんとずっと一緒にいられたらいいのに。


想いが溢れて、私は理佐さんの腕をぎゅっと抱きしめた。



「…大好きです。理佐さんとこれからもずっと一緒にいたいです。離れたくない。」


溢れてしまった私の想いに、理佐さんは


「うん。そうだね。私も天ちゃんのこと好きだよ。妹みたいで可愛いなって。」


って優しく微笑みながら答える。


"妹みたい"って理佐さんの言葉に、"やっぱりそうだよな"なんて諦めの感情。


やっぱり振られちゃったや、なんて心の中で綺良ちゃんに報告して。


でもやっぱり、そんなすぐには割り切れなくて。


「理佐さん…どこにも行かないですよね?ずっと一緒にいてくれますよね…?」


こんなこと言っても理佐さんを困らせるだけだって分かってるのに。

意思に反して言葉は出てくる。

私は子どもだから、こんなやり方しか出来なかった。



「…ありがと、天ちゃん。」


理佐さんは少し困ったように微笑んでいた。


「…でもごめん。私、3月でバイト辞めちゃうんだ。だから、ずっとはいられない。」


なんとなく分かってた。

理佐さんとそんなに長く、一緒にはいられないって。


でもいざ本人からその言葉を聞くと、現実なんだって無理矢理突きつけられる。



「…そう、ですよね…。」


私は理佐さんの腕からそっと体を離した。


ずっと目を背けてきた現実が一気に押し寄せて、胸が張り裂けそうだ。


「大学卒業したら、どこかに行っちゃうんですか…?」


「卒業したら、海外に留学するんだ。夢…があるから。」


頭が真っ白になった。

言葉が出なかった。

寂しくて、苦しくて、張り裂けそうだ。



でも、夢のことを嬉しそうに話す理佐さんを見て、いくら子どもだからってこれ以上引き止めることは許されないと思った。


わがまま、言えないなって。



「…海外行く前に天ちゃんとの思い出が出来て良かった。ほんとに楽しかったよ。」


理佐さんは場を明るくするかのように明るく笑った。


私はまた帽子を深く被る。

じんわりと目に溜まっていく涙。


理佐さんは腕を回し、私の肩をさする。


「…ありがとね。気持ち伝えてくれて嬉しい。」


「………。」


どこまでも優しい理佐さんが愛しくて、だけどその優しさが苦しくもあった。

いっそ、突き放してくれた方が楽なんじゃないかって。


でも。

理佐さんがさすってくれる肩はじんわり暖かくて、それが心地よくて。

その優しさに縋っていたいとも、思ってしまう。


だから私は理佐さんのその優しさを利用するかのように、結局わがままを言ってしまった。


理佐さんは優しいから、きっと"うん、いいよ"って言ってくれるはずだから。


「これから離れちゃっても、私のお姉ちゃんでいてくださいね?」


これがせめてもの、わがまま。


そして、願い。


先輩後輩以上、恋人未満。



姉妹という特別な関係。



「言われなくても、天ちゃんは私の妹だよ。向こうにも遊びにおいでね。」


「絶対行きます。」


「約束。」


そう言って理佐さんは小指を出し、私の小指と絡ませた。


「…約束です。海外行っちゃうまでにも、たくさん思い出作りましょうね?」


涙声で理佐さんにお願いすると、理佐さんは笑って「もちろんっ。」って言う。


そして突然、私の手元に残っていたスイーツをパクッと食べた。


「あー!ちょっと!理佐さん!」


「お菓子食べてリセット。」


悪い顔してモグモグと食べる理佐さん。

結局引っ掻き回されちゃって、思わず笑みが溢れる。


「じゃあ私も最後の一口食べてリセットしよ…。」


ちゃんと一口残してくれてたのは、きっと理佐さんの優しさだ。


口に入れた瞬間、優しい甘さがフワッと広がった。


この時食べたスイーツの味は、一生忘れられないと思う。



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それ以降も、私たちはたくさん思い出を作った。


クリスマスだって、バレンタインだって一緒にいてくれた。


理佐さんの卒業式にだってお祝いに駆けつけた。



そして、理佐さんの旅立ちの日。

たくさんの人に愛されていた理佐さんのお見送りには、たくさんの人が駆けつけた。


皆と笑顔で抱擁する理佐さん。


そんな様子を遠くから見ていた私の元に、理佐さんが近づいてきた。


そして、ぎゅっと包み込むように抱きしめてくれた。


「理佐さん…。」


絶対泣かないって決めてたのに、わたしの目には目一杯の涙が溜まっていた。


「もぉ、泣かないの。永遠のお別れじゃないんだから。」


なんて理佐さんは笑いながら言ってたけど、理佐さんの目だって潤んでいた。


「元気でね。」


「理佐さんも。」


そんな短い言葉をかけ合って、私たちは離れてく。


搭乗口へと向かう理佐さんの背中。


優しくて、かっこよくて、可愛くて、大好きで、尊敬してて、たくさんのことを教えてくれたその背中。


じっと見つめ、そして私は思わず呼びかけた。


「お姉ちゃん!」


理佐さんはその呼び声に、驚いたように振り向く。


「またね。」


そう言った私に向けて、理佐さんは特大の笑顔を向けて、手を挙げた。



ありがとう。

これからもよろしくね、お姉ちゃん。



そう心に呟いて、私は理佐さんに背を向けた。




end.