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先日、といってもすでに数ヶ月前のことになるが、ハワイ大学で行われた村上春樹の講演について書く予定だった。が、考えが変わった。いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの人気作家「世界のムラカミ」についてここで改めて何かを付け足すのではなく、ハワイ州外ではいまのところあまり知られていない作家リー・A・トノウチについて書きたい。

トノウチはハワイで生まれ育った沖縄系人である。小説や詩、文学批評などを手がける彼は今日のハワイ文壇を代表する作家のひとりだが、自らを「ピジン・ゲリラ」と称しその創作活動をピジン語で行っている点においてひときわ異彩を放っている。

一般にいういわゆるブロークンな「ピジン英語」とは異なり、独自の発音と体系と文法を持ったハワイアン・ピジンはむしろ「新しい形の英語」とみなされるべきだろう。とはいえ、他の言語についても同じことが言えるように、標準語より劣位にあるとみなされがちな方言や地域語にはときとして否定的、差別的なイメージがつきまとうことも事実である。

トノウチはそんな風潮に対抗し「ピジン革命」を展開する。自身の修士論文をふくめ、敷居の高い学術誌への投稿もピジンで貫いてきたことはよく知られている。それまで作家というと「シェイクスピアやフォークナー」という正統派のことだと思い込んでいた若き日のトノウチは、大学入学後に他のピジン語作家たちと出会い目が覚めるような思いをしたそうだ。

村上春樹は以前海外雑誌へのインタビューで「(最初の二冊の作品を著すことで)伝統的な日本の 小説を脱構築」したかったと述べているが、そんな反骨精神というべきか、長いものに巻かれないという姿勢は村上とトノウチに共通しているのかもしれない。

トノウチの最新作は「アジア系父子の人生におけるかけがえのない瞬間-ある沖縄系ハワイ人の記録」(日本語未訳)。表紙に紅型のデザインがあしらわれた本作は「家族とのつながりを通して自身のルーツ―ハワイにおける沖縄人」を模索する半自伝的作品。この夏の読書リストに加えたい。