その②は、おそらくケンドリックの曲の中でも一番知名度が高いであろう「Alright」

一般的な認識として、この曲はBlack Lives Matterのデモ行進で歌われていたこともあり、元気が出る曲、希望の曲という印象が強いと思う。

 

が、実際はむしろ一番の窮地に追い込まれている曲というのはケンドリックをあまり知らない人によっては意外に思うかもしれない。

 

 

アルバム「To Pimp A Butterfly」の流れでいくと、アーティストとしての名声を得たものの、フッドの思考から抜け出せない友人たちを眼の前で見たり、自身の影響力を誤った方向に勢いで使ったりした事で、自責の念がMAXとなったのが「u」、そしてその次がこの「Alright」になるわけだ。

ちなみにこの曲の次は、ルーシー(悪魔)がケンドリックを誘惑しまくる「For Sale?」、更にその次でようやっとアルバムの物語をポジティブな方向へ導くキッカケとなる「Momma」が来る。

 

 

「きっと大丈夫だ」と繰り返されるフックとは対照的に、アウトローのThundercatのヴォーカルでは「死んでしまいたい」とはっきり口にしている。そんな中でケンドリックができる事は神頼みしかないのだけれど、そんな祈りを捧げた結果ルーシーが現れてしまうんだから、なんというかもう、救いようがない。

 

でも、そんなどん底だからこそ「上を向くしかない」。上を向けば、ほんの一筋の希望が見えるだろう、というポジティブな意味も当然含まれていて、ただただ「頑張ろう」「大丈夫だ」と歌うよりも、より深く絶望する人に寄り添っているからこそ、この曲は名曲たり得るのかもしれないなぁ、と思ったりした。

 

 

ちなみに以前も書いたけれど、この曲をBETアワードでパフォーマンスした際、パトカーの上に乗ってパフォーマンスした事で(「俺たちは警察が嫌いだ、すぐ黒人を殺そうとするから」という歌詞もある)、アメリカの保守系チャンネルであるFOXニュースにて「暴力を扇動している」と曲解されて批判されたことが、次作の「DAMN」に繋がっている。

 

そういう意味では、ケンドリックのキャリアにとっても重要な曲だったのかもしれない。だってその「DAMN」でピュリッツァー賞をとったんだから。