どうしようも無い。って聞こえた気がする。面倒くさい。起きるのがやっとだ。すかさず間髪。もう妙では済まされない。どうかなって言ってみる。でも此処から這い上がれそうだって。言ってみる。雲から出始める水滴となり道を歩める。これきりにしようかな。だって後悔は無いのだから。須らく大事にされてきた伝統を守るには甚だ大きい夢ーーー。もう一回だけっと言って騙される。人間。それはキミ。
「そんなもんだって。」
復習を兼ねて赤月はもう一度言った。やって来た唐揚げと鮪のたたきを眺めた。
「いただきま~す。」
美夜が赤月の言葉を無視してそれを貪るように食べ始めた。
「いただきます。」
続けて赤月も倣った。
「あ、美味しい!」
「本当だ。」
美夜が元気に言った。さっきの微かな憂鬱は消え去ってしまったかのようだった。
「で、ところでこの後どうする?」
「え?この後?」
美夜が言った言葉に動揺を隠せないまま赤月が答える。
「この後ったらこの後だよ。ホテル!とか行くのかな~って思って。」
「え?」
予想外…と完全に白を切るのは自分のプライドに背くので出来なかったのだが、この話題が美夜から言い出したのに多少は驚いた。そんなことを口から言わせて仕舞うなんて…。まさにその口から。自分でも気持ち悪い事を想像し始めてしまったことに気が付いて目の前の美夜に申し訳なくなった。何よりこの思考が美夜に駄々洩れだという妄想が膨らんでしまった。とても恥ずかしくなった。何をしているんだ。僕は…。
「どうしたの?」
「え?いや、何でもない。」
「で、行くの?」
「い…ーーく?いや、やっぱり辞める?」
「どうしたのって。」
「いやぁ。」
「まさか、童貞?」
そうだよな。そう来るよな。とうとう来てしまったか。そうなんだ。僕はまだ童貞で…。こんなことで恥をかいてる。あゝ…。受け入れてもらえる筈が無い。あゝ!消えて無くなりたい!大体そんなのどうでもいいじゃないか、とは思っても今の赤月にとってそして美夜の目の前ではどうでもいい事では決して無かった。
「いや、その、まぁそう?なんだ…。」
やっと言うことが出来た。果たしてその言い方は断言とは程遠かったが、美夜の顔を伺うことも出来ずに俯いていた。
「そう…なの。」
「うん。」
「まぁ、そんなの私気にしないし!かわいいって思うかも!」
意外だった。しかしその解答も素早い妄想の中では既に確立されたものだったりする。でも美夜はそんなこと知らない。知りっこない。しかしそう言ってくれたのが嬉しかったのは事実だった。ほっとした。女性が怖い…と、自分がそう思っていたことに案外、気が付いた。
知りたくてたまらなかった。美夜のことを。でも知れば知るほど恐ろしいような気がして怖かった。何処までも先が無いような気がして怖かった。
「なにそれ。馬鹿にしてない?」
「馬鹿になんかしてないよ。」
赤月の思わず吐いて出たのは思っても無い事だった。
「いや、女子は『かわいい』って言ってる自分が可愛いんだよ。信じないね。」
「じゃ、ベットの上だったら信じる?」
こんな事を言われるのは完全に予想外だったので飲んでいたレモンサワーごとむせてしまった。
続く