その時、ちょうど右手の曲がり角から女が曲がって歩いてきた。緑の派手な鞄を持っているのが印象的であるが、黒のロングワンピースと長い栗色のカールした髪の毛が絶妙にマッチしていてとてもお洒落に見えた。何より美人だった。鼻が際立っており目立ってはいたが控えめで、目がやや飛び出ていて睫毛が長かった。きっとカラコンを着けているであろう目は亜麻色で透明感があり、何処を見ているのか何を思考しているのかその仕組みを知りたくなるので思わず話しかけたくなって仕舞った。完璧な瓜実顔で見ているとにこやかな優しい気持ちになるのだった。黒色のワンピワースは白の大きめの花柄が入っていて大量生産されている気がしたが彼女が着ていると高級な布地を使った高級な服なのではと思えてくる。バックはパッと見た感じ(この全ての感想はパッと見たうちに赤月の脳内に湧き出たものだが)本当に高級な物で何処かのハイブランドのものだと判った。そのハイブランドのマークが前面に推し出ている物だったが、それが寧ろ顔の器量の良さと幾分かコラボレーションしていて全く邪魔なものになっていなかった。 本当に思わず声を掛けようと思った。

 

 「あの‥。」

しかしこの雑踏の中では赤月のか弱い声は誰の耳にも入らなかった。「えっ?」という彼女のよく分からない警戒と驚きの混じった顔が一瞬浮かんだが、気のせいだということになったようで刹那のうちに方向転換をしてとうとう2メートル程後方斜め30度辺りに移動してしまった。赤月はまだ話しかけるという気ではいたが、流石に無理かという諦めとまだいけるという曖昧な空間の中でウダウダしていたのだが、

 

 「あっ‥。」

と言い終わるか否かでその瞬間は終わって仕舞った。

 

 貴重な時間を過ごしたわけだったが、その気持ちを無駄にしないかのように胸に仕舞った間々、近くの喫茶店に入ることにした。 その喫茶店は地上30センチくらいの赤い看板に「パトステ」と書かれていて一体何が語源になっているのか謎だったが、古風な印象を受け創業40年は経っていそうな粋な店だった。正面の赤い窓枠のあるガラス扉を開けるとチリンチリンと来店を報せる小さい音が鳴った。

 

 「いらっしゃいませ〜。何名様でしょうか。」

 「1人で。」

 「はい、ご自由な席にお座りください〜。」 

 

多少ふくよかな女の店員が出迎えた。元気がよく、来た瞬間から笑顔だった。

 

 

 

続く