‥なんなんだ?この胸のざわめきとやらは。刑事物でもあるかのように珍しく自分自身について考察しながら保田家の玄関の階段を降りていった。 どうもな‥。この妙な"ざわざわしい"気持ちはなんなんだ。どうも何かが引っかかる‥!どうやら本当に探偵ものかのように推理が始まったのである! いやいや、何が何やら‥。そういう問題ではないんだ。何かこう引っかかる。死んだ奴の家に寄ってきてみて帰ろうとしたのにはにかんでしまうような気持ちになるのは何故なんだ?そうだまずは観察から始めよう。"わさわさした"気持ちというか、そうだ、そういえばこんなことは1度ならず2度3度とあったではないか!毎回知久の家から帰る途中だ。いっつも鼻歌でも歌いながら帰ってたっけ。僕が鼻歌!まあそう珍しくあゝいや、珍しいなとか、にやけて帰って来てそれが夜中だったから母さんに怒られたとかそんなことがあったな。思い出す思い出す。ふむふむ。はぁ。何も合点がいかない。何かこう、違う視点で考えてみようか。僕と知久の違う点はなんだろうか。彼奴の家に寄った後変化が訪れるんだ、何かしらの"差"みたいなのはあるだろう。性格か?明るさ、声の大きさ、身長の大きさ‥。途端に思いがけなく赤月はフッと笑いが出てしまった。あゝあいつ、いつも身長について僻んでたなー、無駄な抵抗を。何をやってたんだか。すると凄まじい勢いで先日の葬式での知久の映像が雷光のように赤月の頭をかすめた。ははっ。あいつ本当に死にやがって。全く、残された謎を持たされてる遺族とか腐れ縁関係者各所の身にもなれよな。ま、彼奴にはもう"身"なんてものはないがな。また予知もしない笑いが彼の中に立ち込めた。彼奴いつまで経ってもエンターテイナーだな。今流行りのなんとかって性格診断とかじゃなくて彼奴は真の享楽者なんだ。それを受容しているんだよ。何が自殺だ。それ一体も一種のパフォーマンスにしやがって!大体謎が残りすぎなんだよ!あんな幸せそうな家族がいるってのに‥‥。

 

 

 幸せ‥。

 

 

ってなんだろうな。ぼくはしあわせなのかな。 しあわせ?ぼくは、しあわせ? 赤月は澱む自己の内面の精神世界へと沈んでいった。 目の前には三叉路が広がっていた。真夜中である。 僕は、一体今まで生きてきて幸せだったんだろうかな。 黒のリュックを背中に背負った間々ぼうっと立ち止まって居た。   

 

 

 

続く