「いや、そんなお構いもしなくても、ただ単に寄っただけなんで。」

 「いや〜お茶くらいは出させてよ。ほらアナタ!赤月くんが来てくださったのよ!」

 「ああ〜これはどうも。葬式以来だね?」

 「はい。」

輝明がブルーとオフホワイトのストライプ柄の寝巻き姿でソファに寝っ転がりながら恭しく応答した。赤月に気がつくとすぐ腰をあげてソファの肘掛けに置いておいた黒縁の眼鏡を取って掛けた。側のローテーブルに新聞やらテレビのリモコンやら細々した物が置いてあるが全体的に清潔感は保っているようだった。ダイニングやキッチンの方もこれといって変なところも無く普通の、ごく一般家庭の備え付けの空間といった具合で清潔感は保持しているらしく、葬式が有ったからといって家事が疎かになるような事は無かったらしい。もし家事掃除が手に付かず散らかり放題で、机に突っ伏している二人が出迎えでもしいたらどんな顔をしたらいいかと思ったら今の明るく出迎えてくれた二人に感謝すべきだと感じた。

 

 「良かった。意外と綺麗なんですね。」

 「そうよ。ちゃんと綺麗にしないと‥知久に怒られそうだからね。私達はそういう決まり文句でどうにか最近は生活しているの。気後れしないで欲しいんだけどね、本当は何もかも放り出して何処か新しい処へ行くか何にもしていないでボーッとしていたいのよ。でもそんなことしてちゃダメだった主人がいうもんだからね〜。」

 「そうだぞ!美冴、赤月くんが来てくれたんだからもっとこうパアッと明るくやらなくちゃな!しみったれていたって仕方が無いじゃないか。そうだ知久のアルバムでも持ってこよう。ついでに小さい頃のホームビデオでもこの際持ってこようか?」

実際にはから元気ということが見え見えだった。心の奥の棘が抜けないように時折引き攣った笑い方をするのだが、から元気でも沈んでるよりいい、もっとから元気にしていっそのこと心まで騙して仕舞えたら尚のこといいとでも言いそうな雰囲気だった。目の奥がどうしても悲しみに暮れたような腫れぼったさが抜けていなかった。 

 「あゝ、じゃあ観てみます。あいつの小さい頃なんて見たことないから。」

 「そういえば知久とは小学校の時からだったわよね。どうやって出会ったの?馴れ初めとかは?知久から赤月くんのことはしょっちゅう聴いたんだけど、小さい頃のことはそういえば聴いたかしら?聴かなかった?

 

 

 続く