文章喫茶

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第一回「ボロ小屋」
 


 遠くに見えていたはずの小屋が目前に迫っていた。
「近くで見ると、やっぱキツいなぁ」
 私は車の助手席から小屋を見て言った。それを聞いた運転席にいる叔父さんは笑った。
「はっはっは! これから住む事になる家なんだよ?」
 分かってる。だから言ってみたんだ。自分自身への皮肉的な意味で言ってみただけ。
「“住めば都”って言葉、あれって自分自身への慰めだよね……」
 私は叔父さんの車から降りながらそう吐き捨てた。
「やっぱり姉さんの子だなぁ良い感じで醒めてるよ、ルイちゃんは」
 叔父さんは苦笑を浮かべながら頭を掻いた。
「まぁ娘だし、多少は似るよ」


 ここで軽く説明を挟むと、私は只今絶賛夜逃げ中である。浪費家の母のせいで住んでいたアパートを追い出されたのだ。女手一つで私を育ててくれた事に関しては凄く感謝している。しかし、私が中学二年生になった頃から、徐々に母の浪費が激しくなってしまったのだ。
「ねぇルイ、夜逃げするから」
 そう告げられたのは昨日の事だった。困惑する間もなく、私は叔父さんに連れられこの小屋へと来た。


「それにしても、ルイちゃんも大変だね」
 叔父さんは申し訳なさそうに言ってくる。
「そうでも無いですよ。それに、母には感謝してますし」
 私がそう告げると、叔父さんは肩を竦めてしまった。少し淡白に言い過ぎてしまったみたいだ。
「ルイちゃんは偉いよ、うん。叔父さんなら感謝してる、なんて言えないよ」
 思わず褒められてしまった。しかし、素直には喜べずにいる私がいた。なぜなら、私はここへ来る道中で、何度も母に対しての不平や不満を心の中で叫んだからだ。
「私だって……」
「じゃあ、僕はもう行くから! 何かあったら連絡してね?」
 そう言うと、叔父さんはそそくさと車に乗り込み、来た道をUターンして走り去った。恐らくは、私の言葉で居辛くったからだろう。
「ふぅ……」
 私はゆっくりと息を吐き出し、周りを見渡してみた。が、あるのはボロい小屋に、その隣に生えている大きな木、あとはまぁまぁ綺麗な砂浜だけだった。
「唯一の救いはオーシャンビューって所ぐらいかな……」

 こうして私の第二の人生は幕を開けたのだった。




連載モノ始めました。
「灯火」

 夜の海は好きだった。静まり返った砂浜には、波の音だけが聞こえる。昼間の喧騒は消え去り、残るのは祭りの痕だけ。散らかるゴミすらも、僕は大した感想を抱かない。そこに訪れる僕だけの世界が好きだった。
 そんな僕の世界に、ある日小さな光が迷い込んできた。儚げに見えるその小さな光は確かに存在している。にも関わらず、僕はその光の正体を掴めずにいる。月明かりとは違う、もっとハッキリと存在感のある光。それなのに、その光は月明かりよりも幻想的に見える。そんな不思議な光に、僕は心を奪われつつあった。僕だけの世界。それが好きだったはずなのに、僕はその世界に訪れた小さな侵入者を歓迎している。

 その日から毎晩。厳密に言えばその日からずっとその小さな光は海にいる。昼間は昼間で太陽の光とは別に存在している。辺りは明るいのに、その光だけはまた別物だと分かる。小さく、とても暖かな光。僕はその光の虜になってしまったようだ。
 そんな、明くる夜の事。僕は自分だけの世界に浸る、と言う楽しみではなく、あの光に会いたくて砂浜へと来ていた。だが、どういう訳だか光が消えていたのだ。あれ程の存在感を持っていたハズの光が消えているのだ。
 仕方なく今夜の僕は、また自分だけの世界へと堕ちていく事にした。


 どうしてだろうか、あの日を境に砂浜から光が消えてしまったのだ。自分自身でも信じられないほどに、あの光は僕の中で大きな存在になっていたのだと分かった。
 しかし、ふと考えを巡らせれば簡単なことだと気付く。単に以前の状況に戻ったのだと思えば、幾分かは気が楽になる。いや、実際にそうなのだから。
 以前の静寂と物鬱気さを取り戻した夜の海には、やはり僕しかいない。再び訪れた一人だけの世界は、思いの外気分が良かった。波の音と月明かりに酔いしれ、散らばるゴミ等気にも止めない。
 ……はずだった。僕は見付けてしまったのだ。ゴミの山の隙間から見え隠れする、今は懐かしいあの光を。光は消えてなどいなかったのだ。ただゴミに埋もれて見えなくなっていただけなのだ。
 気付くと、僕は夢中でゴミの山を掻き分けていた。そうしてあの光を救い出す。手で触れている感覚は無いのだが、その光の持つ暖かさで、手の上に在ることだけが分かる。小さく、でも暖かな光が。


 あの日以来、僕にはある日課が出来た。昼間の海に出て来ては、ゴミを拾うという。そうする事であの光を守れると思ったから。いや、もっと言うならば見失わないようにするために。
 自分自身の“希望”と言う名の光を。





久しぶりの更新になってしまいました(汗
お題「幻想」「蜘蛛」で書きました。






 青い世界がどこまでも続いている。海でも、空でもない。ただ青い空間がどこまでも続いているだけだ。
 この青い世界が造り出されてからどれ程経った頃だろう。一匹の黒い蜘蛛が迷い込んできた。
「…………」
 何の音も、誰の声も存在しない不思議な青い世界で、蜘蛛は歌った。蜘蛛は孤独を歌った。蜘蛛は空腹を歌った。蜘蛛は何かを歌った。
「…………」
 何もない青い世界で、蜘蛛はたった一匹。どこまでも続く青い世界は、空間の奥から幻想的な輝きを放つ。その輝きはオーロラの様な幻想的な輝きを放つ。
「…………」
 蜘蛛は嘆く。孤独を嘆く。空腹を嘆く。何かを嘆く。
「…………」
 静寂を壊したのは、一粒の涙だった。涙が青い世界に降り注がれた瞬間、幻想的な青い世界は一変した。風のない水面の様な青い世界は、落ちた涙を中心とする波状が永遠と続く世界となった。
「ポチャン」
 ようやく響いた音は、悲しくなるほど情けない、水溜まりに滴が落ちたときの様な音だった。
「ポチャン」
 しかし、蜘蛛にとっては嬉しかった。蜘蛛は楽しむ。孤独を楽しむ。空腹を楽しむ。何かを楽しむ。
「ポチャン」
 永遠に繰り返される波状の世界。蜘蛛は一匹で佇む。終わることのない幻想を佇む。
「ポチャン」
 一匹の蜘蛛は思う。この世界は自分を映す鏡であると。蜘蛛は思う。ならばと思う。蜘蛛は思う。自らを蝶だと思えば飛べると。蜘蛛は思う。この世界を飛んで行けると。
「……………」
 幻想なる青い世界が崩れ出す。音もなく崩れ出す。収縮しながら崩れ出す。蜘蛛を飲み込み崩れ出す。形を変えつつ崩れ出す。
「…………」
 

 一匹の蝶が舞う。幻想的な青い色をした蝶が舞い踊る。優雅に美しく舞う。喜びの舞いを踊る。蜘蛛は笑う。青い蝶の中で笑う。いつまでも続く夢を見て笑う。
「…………」
 一匹の蝶が止まる。美しい青い蝶が止まる。幻想的な青い花に止まる。
「…………」
 一輪の花が笑う。美しく咲きながら笑う。一匹の蝶が笑う。一輪の幻想的な花の中で笑う。永遠に終わらぬ幻想が歌った。世界を歌った。孤独を歌った。
「…………」
 青い世界にまた一つ。青い幻想にまた一つ。影が差す。終わらぬ幻想は歌う。愚かさを歌う。滑稽さを歌う。また一つ。幻想が生まれる。そして歌う。終わりない歌を歌う。




今回の作品はかなり独特です。
MASAワールド前回です(^_^;)