【研究報告】  
    
      鼻臭を訴え自臭症と診断されてきた4例
                             
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    【Key words】
halitophobia, ozena of a new concept,  new ozena,  staphylococcus aureus,  pseudomonas aeruginosa
    
    【抄録】  
     鼻臭を訴え、精神科にて自臭症と診断されてきた4例を示す。しかし彼ら彼女らは実際に強い鼻臭を放っている。鼻甲介の萎縮および痂皮形成が認められないため、萎縮性鼻炎・臭鼻症の概念に当て嵌まらない。
     視覚的に認められず、臭気としてのみ認められる病態であるため見逃されてきたと考えられる。萎縮性鼻炎・臭鼻症と比べ発症年齢はやや遅く、男女の罹患数に差はない。
“屁の臭い”“魚の腐った臭い”の訴えが多く、前者の場合は黄色ブドウ球菌、後者の場合は緑膿菌が固有鼻腔そして副鼻腔に主体として増殖していると考えられた。
 この疾患の頻度は高いが、放置あるいは精神科にて自臭症と診断されている。新型臭鼻症と名付ける。
    
    【はじめに】
     最近、鼻臭を強く訴えている者が非常に多い。精神科にて自臭症と診断されているが、実際、彼ら彼女らは強い鼻臭を放っている。
     鼻腔内に痂皮形成はなく、古典的な臭鼻症と異なる。鼻副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎に対し現在は抗生剤が使用されていることがこういう病態が非常に多く出現する一つの原因と考えられた。4例を提示する。
    
    【症例】 
    (症例1)54歳、男性
    現病歴:症例は口臭を非常に気にしており、これに依る社会不安障害(対人緊張)があった。社会不安障害の治療歴は36年に及ぶ。
     幼い頃より虫歯が多く、歯よりの悪臭と自己判断し、幾つかの歯科を周り、歯の治療を徹底的に行ったが悪臭は軽減せず(自己判定)。口臭は胃食道逆流症に依ると自己診断し、大学病院などで24時間PHテストなどを受けたが、いずれも胃食道逆流症は否定された。胃食道逆流症でなくとも慢性胃炎あるいは機能性胃腸障害に依っても口臭が酷くなると症例自身考え、慢性胃炎あるいは機能性胃腸障害を治すように漢方治療を行っていた。しかし、治療結果は芳しくなかった。
     症例は、24時間PHテストの方法に矛盾がある、腹腔圧が掛かったときに逆流するのであり、検査の時は半絶食で調べるため陰性と出る、と主張し、2回目の24時間PHテストを受けると主張していた。
     症例が自分の臭いが口臭でなく鼻臭であると思い始めたのは、2回目の24時間PHテストを受ける直前、インターネットの「鼻臭で悩む友の会」を読んでからであった。症例は小学校低学年より重症の慢性鼻副鼻腔炎に非常に悩んでいたが、高校二年春より慢性鼻副鼻腔炎が軽症化したのか、分泌物が減少したのか、慢性鼻副鼻腔炎に悩まなくなった。
     この高校二年春、小学六年の頃から悩んできた重度のニキビが劇的に寛解した(授業中、出てくる鼻水に苦労しなくなった時期と全く一致する)。
     鼻汁が出て授業中に苦労しなくなった高校二年からか、記憶を辿ると少なくとも高校三年冬には鼻臭を強く発していたと考えている。
     ムピロシンを使用した(個人輸入し、3週間ほど使用した)が、芳しい効果は無かった(鼻腔の乾燥感は弱まることはなかった)。すでに固有鼻腔粘膜の健全性は著しく破壊されていたと推測される。
     現在は、馬油をときおり鼻腔内注入して凌いでいる。勤務先では机の上に馬油の瓶を置き、2,3時間おきに鼻腔内注入している。
     鼻腔の乾燥感が強い。
    
    (症例2)49歳、女性
    現病歴:小学4年時、鼻副鼻腔炎になった。中学生になってから頻繁に鼻が詰まり夜は鼻呼吸が困難になった。同時に鼻から悪臭が発しているらしいことを知る。耳鼻咽喉科に鼻臭を訴えて行ったが、軽くあしらわれた。この頃、同級生より「臭い」と言われ激しい苛めを受けた経験がある。中学2年時、慢性鼻副鼻腔炎・臭鼻症などに効果があると言われる市販の漢方薬を服用始めて三ヶ月ほどで寛解(鼻臭を気にしないでも良いようになる)したが、高校1年時、再燃した。図書館で調べて自身の病態が臭鼻症らしいことを知る。中学生時は“屁の臭い”“便の臭い”がすると言われていた。
     20代の時、ある耳鼻咽喉科で「鼻の中が真っ黒だ! タバコをゴジラのようにプカプカ吸っているのだろう!(症例はタバコは吸わない)」と言われたことがある。このとき慢性鼻副鼻腔炎が非常に悪化し黄色い鼻汁が大量に出ており、職場で症例の居る所を指さして
“あの辺イカ臭い〜生臭い〜”と大騒ぎされた。これは抗生物質を7日間服用した直後のことであった。このときは緑膿菌が異常増殖していたと推定される。
     ムピロシンを使用したが、胃に来る(胃が荒れる)、効果が感じられないと数日で使用を中止した(個人輸入のムピロシンであった)。
     生理周期に寄って鼻臭が強くなったり弱くなったりする、特に月経中は臭いが強い、と主張する(自分では臭えないため、周囲の反応から判断している)。
     最近は“屁の臭い”を指摘されることが多いと言う。鼻の乾きを自覚している。
     鼻腔の乾燥感が強い。
    
    (症例3)52歳、男性
    現病歴:小学生低学年時より耳と鼻が悪く耳鼻科へ通院していた。中学・高校時代は大量の鼻水が出て授業中苦労した。
     高校卒業後、A社の東京支部に入社する。200名近い人がいるフロアで仕事を行う。そこで「臭い」と会社の社員から陰口を言われる。しかし、本人はあまり気に掛けないでいた。
     30歳時、大阪支部に移動となる。ここでも200名近い人がいるフロアで仕事を行う。東京支部に居たときの噂が伝わってきており、同じように「臭い」と会社の社員から陰口を言われる。若手の社員が症例の近くに来て臭いを嗅ぎ「臭い」と言うことが頻繁に起こった。症例は悩んで大学病院で慢性鼻副鼻腔炎の手術を受けた。時間的余裕が多い職場であったため、こういう苛めが起こり得たと推測される。
     インターネットで「鼻臭で悩む友の会」を見つけ、ここで自らが臭鼻症であるらしいことを知る。幾つかの耳鼻科を受診し、萎縮性鼻炎と診断されたこともある。
    また、ある耳鼻科では精神科への紹介状を書かれたこともあり、精神科を受診したこともある。
     精神科では自臭症と診断され、抗不安薬と抗うつ薬(alprazolam, sulpiride)を処方された。sulpirideは抗精神病薬としてではなく抗うつ薬として処方されたと思われる。性格は円満で、社会性は高い。
     鼻腔の乾燥感が強い。
    
    (症例4)28歳、女性
    現病歴:高校生時、鼻副鼻腔炎に罹患、耳鼻咽喉科受診し、抗生剤などの投与を受けてきた。鼻副鼻腔炎は数年で寛解し、耳鼻咽喉科への通院を中止した。臭いと言われ始めたのは耳鼻咽喉科へ通院していた高校時代の終わり頃であった。
     臭いと人から言われるため、人と接することを極力避けるようになった。社会不安障害と自己診断していた。腋臭と思い、腋臭の手術をしたのはこのためである。
     自分が臭いと思い、試験場で極度に緊張し、大学入試に失敗する。浪人となるが予備校に通うのは自分が臭いため通わず、自宅浪人する。しかし、大学入試模擬試験場での極度の緊張のため、成績不振が続き、大学進学を諦める。
     アルバイトをしようにも、自身が臭いためアルバイトが出来ない。実質上、閉じ籠もりに陥る。
     腋臭と思い、21歳時、腋臭の手術をするも周囲から臭いと言われ続けた。術後臭と数年間は自分で判断していたが、術後臭ではないらしく、臭いの原因が分からないで居た。1年余り前、鼻臭であることに気付く。
     耳鼻咽喉科を受診するも自臭症と診断され、心療内科受診を勧められる。しかし、心療内科への紹介状はそのままにしている。
    「鼻臭で悩む友の会」で自分と同じ悩みの人が多いことに気付く。
     鼻腔の乾燥感が強い。
    
    【考察】
     萎縮性鼻炎・臭鼻症は謎の疾患としてエジプトの古文書にも記載されている。萎縮性鼻炎・臭鼻症は「悪臭、萎縮、痂皮」の三主徴候を伴うとB.Frankel が提唱し、一つの疾患としての地歩を築いたとされる7)。
     以前は世界的に萎縮性鼻炎・臭鼻症の頻度は高く、その病因について様々な議論が為されてきた。女性ホルモン投与が効果があることが経験的に知られていたこと、老年期になると自然治癒することが多く認められたこと、女性が男性より罹患率が2倍余りであったこと、女性患者では生理周期に応じて鼻臭が強くなったり弱くなったりを繰り返すことが多かったこと、これらを併せると性ホルモンが萎縮性鼻炎・臭鼻症に大きく作用していたことを示唆した7)。しかし、萎縮性鼻炎・臭鼻症は減少を続け、現在では世界的にも非常に発生が少なくなった1,7)。
     鼻臭を訴えて耳鼻咽喉科受診しても萎縮性鼻炎・臭鼻症の疾患概念に当て嵌まらないため自臭症として精神科紹介される患者が全てと言って良い。しかし、この中には自臭症ではない患者が多く含まれているように考えられた。
     これは「悪臭」のみであり萎縮、痂皮がないため物体として認知することができず、今まで見逃されてきた疾患と言える。CT・MRIおよび鼻腔内視鏡にも映らず、悪臭の研究は進んでいない現代医学の盲点とも言える。
     便の臭い・屁の臭いの時は黄色ブドウ球菌、魚の腐ったような臭いの時は緑膿菌が異常増殖していると考えられる11)。
     4例ともに痂皮形成は認められないため古い概念の臭鼻症には当て嵌まらない。しかし、4例ともに強い鼻臭を放つ。
     以前にも存在した病態かもしれないが、CT・MRIおよび鼻腔内視鏡上、痂皮形成など何の異常も見られないため見逃されてきた可能性も考えられる。
     この疾患の頻度は高いが、ほぼ全てが自臭症と診断されている。しかし、その悪臭は同じ部屋に居ることを拒否する人が続出するほど強いこともあり、自臭症は否定される。この悪臭の強さは古典的な臭鼻症より弱いと考えられる。
    “苛め”が激増した現在「臭い人」として“苛め”を受けていることが非常に多い。また、社会逃避、引き籠もりに陥っている者の数も多い。症例4は単なる一例である。
     鼻前庭部には黄色ブドウ球菌が常在菌として生息しているが、粘膜で覆われた固有鼻腔には黄色ブドウ球菌が生息していることは通常無く、肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)、インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenza)、髄膜炎菌(Neiseria meningitides)など各種微生物が常在菌として定着している14)。しかし、固有鼻腔鼻粘膜の健全性が強く損なわれているという基盤の下に、固有鼻腔鼻粘膜に黄色ブドウ球菌、緑膿菌のうちその何かが強く増殖し、強い鼻臭を放つと考えられた。黄色ブドウ球菌の場合が非常に多く90%以上と考えられ、緑膿菌の場合は抗生剤の投与後が多いと考えられた。
     現在は、鼻副鼻腔炎にマクロライド系抗生物質の少量長期投与を行うことが一般化しているが、これにより分泌液(鼻汁)を産生する細胞が死滅し、黄色ブドウ球菌や緑膿菌が産生した代謝産物を喉の方へ押し遣ることができず、更に鼻臭が酷くなっていると考えられる4)。
     抗生剤を飲んで数日のみだが劇的に悪臭が減ると言う患者が非常に多い。これは悪臭を放っているのは黄色ブドウ球菌であることを支持する。少なくとも黄色ブドウ球菌の場合、薬剤への耐性を得た黄色ブドウ球菌は、生息能を犠牲にしてその薬剤耐性を得ているため、普通の黄色ブドウ球菌より生息能が弱い2)ことが一般である。固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜に薬剤耐性の黄色ブドウ球菌が極少数隠れるように生息していることが想定される。   
     黄色ブドウ球菌が生存できない健全な固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜に戻すと良いことになるが、これは極めて至難と考えられる。鼻臭を訴える者の大部分は“鼻の乾き”を訴え、鼻汁を分泌する器官の多くが死滅していると考えられる。黄色ブドウ球菌は乾燥に強いが、湿潤状態では他の菌も増殖しやすくなり黄色ブドウ球菌は駆逐される。それ故、残された鼻汁を分泌する器官から鼻汁を十分に分泌するようにすると常在菌層が復活し黄色ブドウ球菌が生存できなくなり、鼻臭は治まると考えられる。
     固有鼻腔および副鼻腔の支配菌が黄色ブドウ球菌となったとき、抗生剤で黄色ブドウ球菌を駆逐することは、鼻前庭部に黄色ブドウ球菌が常在菌として存在しているため、極めて困難と考えられる。鼻前庭部から黄色ブドウ球菌が固有鼻腔そして副鼻腔へと渡ってくるためと、その固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜が黄色ブドウ球菌の代謝産物により破壊されているからである。
     本来なら黄色ブドウ球菌が生存できない固有鼻腔および副鼻腔に、黄色ブドウ球菌が生存できるような変化が起こったため、黄色ブドウ球菌が固有鼻腔および副鼻腔に支配的に存在し鼻臭を放つようになっている。その原因は
    1)長年の慢性鼻副鼻腔炎に依る固有鼻腔および副鼻腔粘膜の損傷
    2)抗生剤服用に依り鼻腔の常在菌であるインフルエンザ桿菌、肺炎球菌、Moraxella catarrhalisが死滅し、それに替わって黄色ブドウ球菌が固有鼻腔および副鼻腔の常在菌となった。黄色ブドウ球菌の代謝産物が固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜を損傷し、黄色ブドウ球菌が極めて生息しやすくなった
    3)排気ガスなどに依る固有鼻腔鼻粘膜の損傷
    などが考えられる。
     幼少期から重度の鼻副鼻腔炎であった者が学生時代にそれが治ったと思った頃から“鼻臭”を訴え始めることが非常に多く、これは固有鼻腔および副鼻腔の支配菌が黄色ブドウ球菌に移行したためと考えられる。
     症例2では中学生時、臭鼻症に効くとされる漢方薬の服用にて一年半ほど寛解していたが、これは漢方薬服用によって固有鼻腔鼻粘膜の健全性が高くなり、健全な鼻腔内に多い細菌が支配的となり、悪臭を放たなくなったためと考えられる。
     症例2が中学生時、鼻臭が酷かったのは、抗生剤の投与後である。抗生剤投与により固有鼻腔そして副鼻腔に於ける支配的な菌が緑膿菌に変化したためと考えられる。
     症例2が使用した臭鼻症に効くとされる漢方薬は普通、効かないとされる。これが中学生時に効いたのは、そのとき症例2の鼻腔に大量繁殖していたのは抗生剤投与後であることを考慮に入れると緑膿菌であった可能性が高いと推測される。黄色ブドウ球菌であったならば鼻腔の乾燥が強くなり、どのような方法を採っても効かないと考えられる。
     4例ともに古典的臭鼻症の特徴である固有鼻腔内の痂皮形成は認められない。固有鼻腔粘膜の健全性が強く損なわれているという基盤の下に、固有鼻腔鼻粘膜に黄色ブドウ球菌または緑膿菌が強く増殖し、強い鼻臭を放つと考えられた。現在、急速に増加している自称臭鼻症の多くはこれと考えられた。抗生剤の乱用が原因の一つとして考えられた。    
     女性患者に於いては症例2のように、生理のサイクルに呼応して鼻臭が強くなったり鼻臭がほとんど無くなることが多く観察される。これは生理のサイクルに呼応して固有鼻腔そして副鼻腔の微生物叢が変化するためと推測される1,7) 。「鼻臭で悩む友の会」に参加している女性数名は“月経中は鼻臭が強くなる”と主張するが、これは古来、鼻臭症の病因としてホルモン説があり、月経中は臭鼻症の悪臭が増大する1)と一致する。この「鼻臭で悩む友の会」に参加している女性数名は自分自身では悪臭が分からないため周囲の反応で推測しているが、彼女らの周囲の反応への敏感度は非常に高く、正しい判断と思われる。「鼻臭で悩む友の会」に参加している者は70名を優に超え、男女差はない。
     痂皮形成による痂皮に於ける細菌の増殖と排泄物の貯留ではなく、固有鼻腔に於ける黄色ブドウ球菌または緑膿菌の異常増殖とその排泄物の貯留という病態であるため、夜、帰宅後、生理食塩水にて鼻腔洗浄しても翌日の朝には鼻腔より悪臭を放つ例が全てと言って良い。生理食塩水による鼻腔洗浄は一時的には奏功するが、その効果継続時間は長くない。よって出勤または登校前に鼻腔洗浄することを勧めているが、午後には鼻臭を放ち始める者が多い。
     鼻副鼻腔炎さらにアレルギー性鼻炎に対し、抗生剤を投与することが一般であり、本来、固有鼻腔および副鼻腔に支配的な菌が駆逐され、本来は基本的には鼻前庭部のみに存在する黄色ブドウ球菌が固有鼻腔および副鼻腔に於ける支配的な菌になるためと推測される。
     そして臭いの研究は現在、ほとんど行われていない。臭鼻症の研究は昔こそ盛んに行われていたが、今はその発症がほとんど見かけられなくなったため全く行われていない。
    「鼻臭で悩む友の会」に参加している者は、大部分が鼻副鼻腔炎あるいはアレルギー性鼻炎にて耳鼻咽喉科に現在も通院しており、大部分が若年者であり、頻繁に抗生剤の投与を受けている。幼年期から重度の鼻副鼻腔炎またはアレルギー性鼻炎に罹患していた者が多いが、20歳近くに鼻副鼻腔炎またはアレルギー性鼻炎に罹患して初発した者も多い。
     乳酸菌溶液17)の鼻腔吸入により寛解した例が男性患者に1名見られたが、これはアレルギー性鼻炎が半年前に発症した者で、固有鼻腔鼻粘膜の健全性が高かったためと推測された。乳酸菌溶液の鼻腔吸入によっても一時的な効果しか得られない者が大部分であるが、これは長年、鼻副鼻腔炎またはアレルギー性鼻炎に罹患してきたため固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜が永久的または半永久的に破壊されているためと推測された。
     ムピロシン12)に期待し、症例1症例2症例4が使用したが芳しい結果はない(3例とも海外より個人輸入した安価なムピロシンを使用した)。この薬剤は有効性がブドウ球菌やレンサ球菌にほぼ限られ、固有鼻腔および副鼻腔に於ける常在菌叢の回復を阻害しない。しかし、“鼻の乾き”を訴える中等症以上の患者には効果はないと考えられた。固有鼻腔および副鼻腔鼻粘膜が永久的または半永久的に破壊されているために鼻汁分泌が少なく乾燥に強い黄色ブドウ球菌の増殖を抑えることは一時的と考えられるからである。
    “臭鼻症”で検索すると現在は中国に多いことが分かる。これは中国の大気汚染が激しい故と考えられる。固有鼻腔の鼻粘膜が破壊されるほど中国の大気汚染が激しいことが想定される。
     この病態は萎縮性鼻炎・臭鼻症が多く存在していた以前、有ったが見逃されてきたのか、それとも無かったのか、これについて判断は微妙である。
    
    【余記】
     真菌培養の信頼度は低く、真菌培養(-)であっても、真菌異常増殖により悪臭を放っているのではないとは断定できない。真菌は鼻腔の常在菌であり、CT検査も行い総合的に判断することが必要である5)。「鼻臭で悩む友の会」への参加者に鼻腔および副鼻腔の真菌感染により悪臭を放っている者も極少数ながら含まれていると筆者は考えている。
     また、黄色ブドウ球菌の変遷が新型臭鼻症という病態を産んだと確信する。古典的な臭鼻症がほとんど見られなくなったのも黄色ブドウ球菌の変遷故と確信する。
     自動車などの排気ガスまたは激しい大気汚染が固有鼻腔鼻粘膜を破壊し、新型臭鼻症という病態を生んだ可能性も高いと考えられる。
    
    
    【文献】
    1) 古内一郎:萎縮性鼻炎. アレルギーの臨床 9(3):172-175, 1989
    2) 菊池 賢:MRSA/各種耐性菌の現状と対策. 日医雑誌 第127巻・第三号:347-351, 2002
    3) A.Konvalinka, L.Errett, I.W.Fong : Impact of treating Staphylococcus aureus nasal carriers on wound infections in cardiac surgery, Journal of Hospital Infection 64, 162-168, 2006
    4) 工藤翔二,木村 仁,植竹健司:びまん性汎細気管支炎に対するマクロライド系抗生剤の少量長期投与の臨床効果.日胸疾会誌22:254,1984.
    5) 石光亮太郎:当科における鼻副鼻腔真菌症の治療経験. 日本耳鼻咽喉科感染症研究会誌. 第17巻. 第1号:143-147, 1999
    6) 宮本忠雄 : 体臭(口臭)を訴える患者についての精神医学的諸問題. 歯界展望25: 461-471. 1965
    7) 武藤二郎:萎縮性鼻炎・臭鼻症. JOHNS 8:1015-1019, 1992
    8) 中沢晶子: 体臭を訴える病者の心性について-人間学的観点からの一考察-. 精神経誌65: 879-884, 1963
    9) 近江健作:萎縮性鼻炎の細菌学的研究:久保式萎縮性鼻炎手術施行前後に於ける鼻腔微生物叢の変遷に就いて. The Journal of Chiba Medical Society 32(6): 937-952, 1957
    10) 大橋浩文:月経周期に伴う膣内細菌の変動. 感染症学雑誌 54(7):321-330, 1970
    11) 立花隆夫:褥瘡の対処と治療. 診断と治療 90:1601-1607, 2002
    12) 田仲 曜、島田英雄、千野 修ほか:食道癌手術におけるムピロシン軟膏の有用性. 日消外会誌 33(5):567-571, 2000
    13) 横井秀也:萎縮性鼻炎の臨床統計及び本症に対するグリンポール使用経験. 耳鼻臨床49(6):39-49, 1956
    14) 宇田川優子: 小児鼻・副鼻腔炎の細菌学的検討. 小児耳17(1): 48-51, 1996
    15) 内田安信: 歯科心身症の診断と治療、第1版, 医歯薬出版, 東京, pp69-107, 1986
    16) 内田安信, 小関英邦(内田安信編著): 歯科心身症と行動療法. 初版. 岩崎学術出版. 東京. pp1-50, 1986
    17) 鷺谷敦廣: Lactobacillus acidophilus L-92 株の抗アレルギー作用について. 日本乳酸菌学会誌 21(3): 207-213, 2010
    
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    4 cases suffering from nose smell, which are misdiagnosed as halitophobia *
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              Summary
    
    4 cases suffering from nose smell, which are misdiagnosed as halitophobia
    
                   T
    
      I experienced misdiagnosed halitophobia in psychiatry 4 cases which complain of nose smell.  But, which really show strong nose smell. Because atrophy of the turbinal and the crust formation are not accepted, it does not apply to a concept of the atrophic nasal inflammation, ozena.
     It is also contemplated that has been overlooked since it is a medical condition that can not be recognized visually, it is recognized only as an odor.  Complained of  "stool odor" ,"farting smells" the most,  I was considered Staphylococcus aureus or Pseudomonas aeruginosa is growing mainly in specific nasal cavity this.
      Stench is mitigated by performing the nasal inhalation solution of lactic acid bacteria.  The frequency of this illness is high,  I name this  new ozena.
    
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