



段田安則って不思議な役者さん。テレビや映画で観ると、演技が上手い普通のおじさんで、特に印象には残らないのに(あくまでも個人的な感想です!)、舞台になると、俄然光を放ち、大きな存在になるような気がする。観た舞台は少しだけれど、最初に彼の舞台姿を観たのは森光子の夫役。(テレビで視聴)浮気を重ね、森光子を泣かす悪い男の役。題名も詳しいストーリーも忘れたけれど、森光子相手に、まだまだキャリアの浅い彼が堂々たる演技で強烈な印象だった。『新橋ラプソディー』だったかしら?『おもろい女』より前だったはず。テレビではいい人の印象だったのに、根っからのワルの役がピッタリで新鮮だったわ。先日やはりテレビで観た、北村想作、『グッドバイ』の大学教授役。地味で堅物に見えるのに、8人の愛人がいる。そこはかとなく男の色気があり、8人の愛人がいるのも納得させられた。そして、この『元禄港歌-千年の恋の森』ごぜの初音役、宮沢りえと初めて会う場面なんて、段田の色気にゾワゾワした。心優しく、真面目で、でも心に傷を持つ越前屋の長男、信助に惹かれる初音。逢い引きに誘うのは初音の方から。





実の母である、やはりごぜの猿之助と会う場面。お互い母と息子であることを名乗ることは出来ない。でも互いを思いやる気持ちを隠し切れない。母性溢れる母親を猿之助が情感たっぷり。私は、凛々しい立ち役より、猿之助は女形の方が好き。名優お二人の共演は必見ね!

舞台放送前にインタビューがあった。蜷川幸雄と自分は共に一匹狼だと語る猿之助。


宮沢りえ、綺麗なだけでなく、複雑な内面も垣間見えて、魅力的だわー。



脇を固める、越前屋の主人夫婦、新橋耐子と市川猿弥の手堅い演技も良かった。ベテラン新橋耐子と猿弥はかなり年が離れているはず。芸達者の彼女としっかり夫婦に見えるのは、猿弥の体重の重さ?だけでなく彼の人間力だと思う。劇中歌は美空ひばり。昔、帝国劇場に初演を観に行った。信助は若き平幹二朗、初音は太地喜和子。お二人は輝くばかりの美しさで、本当に絵になったけど、演技にはちょっと引いてしまったわー。共にナルシストで、これでもか、と自分に酔っていて、全く相手を見ていない。惚れ合っている男女には私には見えなかったな。それに比べて、歌春役の市原悦子の演技の素晴らしいこと!恋する若い女性の可愛らしさ、情の深さ、女らしさ!そして、色っぽさ。目がくぎ付けになった。今回は鈴木杏が演じる。及第点だけど、女らしさに欠けるわよねー。美術と照明は、初演と同じ朝倉摂と吉井澄雄。舞台装置というより、もう建築物の朝倉摂の美術や、ドラマチックな吉井澄雄の照明は、狭いシアターコクーンの舞台では効果半減。あの幻想的で混沌としたカオス、他の人では絶対創れない独特な世界をまた帝劇で再構築して欲しいわ。劇中歌は、同じ蜷川作品での、森進一の時の方がはまった。鳥肌もんだったわ。原作は秋元松代。晩年一度だけリゾート地で、お見かけしたことがある。知り合いに会いにいったら、秋元先生とお喋りをしていた。さばさばした感じの方だった。舞台のお話を聞けるかしら?と期待したけど、太地喜和子さんが東京から訪ねていらっしゃって、お二人で食事に出て行かれてしまった。その後お目にかかるチャンスはなかった。この『元禄港歌』すでに古典。歌舞伎の演目のようにこれからも、繰り返しキャストを変えて上演して頂きたいわ〰〰!