まずテーマを絞れ

脚本に難があるのは細田作品としてはいつものことだが、さすがに今回は度を越している。

これまでの作品は、やり方はともかくとして、やりたいことは基本的に明白だった。
意図が明快にわかるからこそ、物語の筋が多少曲がっていてもどうにかこちらで解釈してやることが可能だった。
 
だが今作はそれすらも行方不明だ。
 
ネット利用者を非難したいのか、母子の愛を強調したいのか、青少年の淡い恋模様を描きたいのか、熱い友情を題材にしたいのか。
そのどれもが中途半端で、最優先事項がどれなのか見えてこない。
 
一応の本筋らしき主人公「鈴」のアバター「Bell」と「竜」の『美女と野獣』ごっこも、展開があまりにも雑だ。
鈴が何故竜に興味を持ち、惹かれていくかの過程がほとんど描かれず、いつの間にか鈴の頭は竜のことでいっぱいだし、竜の方もいつの間にか鈴にほだされて、イチャコラとダンスを踊理始めたりする。
 
本筋すらこの調子なものだから他の全ての要素が粗雑極まりない。
キャラクターの言動は悉く唐突で非合理だし、非人道的ですらある。
主人公の幼馴染は当然のようにネット環境への素顔の公開を推奨するし、親友はネットリテラシーの方向からは全く批判をしないまま「この子にそんな勇気はない!」と徹底して貶し続け、周囲の大人たちも身分露呈の危険性について危惧する様子がない。
それどころか凶悪な虐待犯に女子高生が一人で立ち向かおうとする際に、父親を含む大人たちは彼女を止めることなく送り出したりする。一人残らず正気には見えない。
 
今一つ仕草がぎこちないCGや、常にエコーがかかりっぱなしで声質を活かさない劇中歌など、映像、演出面でも難が多い。
 
単体で評価しても決して高い点数が付けられるものではないが、過去の細田監督の名作と比較すれば、褒めるべき点は何一つ見つからない。