期待通りにして予想以上、素晴らしい作品だった。

 

『ヒックとドラゴン』は、元々米国のアニメーションスタジオ「Dream Works」が制作したCGアニメ作品だ。

世界に名だたるディズニーの覇権に後乗りで挑むだけあり、同社はディズニー作品との差別化を常に念頭に入れており、基本的に王道の子供向けストーリーからは一歩外れたところを狙ってくる。

 

今作もそういう作品だ。バイキングの長の子として生まれた主人公が、神によって新たな力を授かり悪しきドラゴンを打倒する……のではなく、努めて科学的な研究と開発でもって強大なドラゴンであるトゥースを理解し、やがて和解する。

 

そして今作は「人とドラゴン」だけでなく、「親と子」というこれまた越えがたい障壁にも挑んでいる。

息子であるヒックを溺愛しているがゆえに、ヒックがレールを外れることに不安を覚えずにはいられない不器用な父の姿には、付き添いで観に来た保護者にも感じるものがあるだろう。

 

非常にバランスよく練り上げられた上質な原作があるゆえに、今作の実写化アプローチは非常に謙虚なものとなっていた。

 

つまり原作の忠実な再現であり、余計なことは一切せず愚直なまでにアニメーションの現実化に取り組んでいる。

 

忠実な再現とはいえど、創造性を欠いているわけではない。時には派手なスラップスティックや時代錯誤な若者言葉も織り交ぜられる混沌とした原作のコミカルさと、実写化によってどうしても強調されるバイキングの厳格にして重厚な雰囲気を融合させるには、想像も及ばない繊細な調整が求められたであろう。どこぞの島国のコスプレ映画とは志が天地の差である。


 

完璧な調整によって見事に果たされた実写化は、全く同じ脚本でありながらも新たな驚きをもたらしてくれる。

鳥肌が立つほど恐ろしいドラゴン、生々しいまでに強調される父の苦悩、岸壁の合間を高速で飛び抜けるスリルと、一面に広がる青い空の美しさ。

 

原作に於いて存在したあらゆる刺激が、強烈に彩度を増して再来する。これこそが実写化の意義である。


 

翻って、今作は原作に忠実であるがゆえに、原作に存在した欠点……というよりは「ズレ」をも忠実に引き継いでいる。

 

というのもこの作品、原題は『How to train your dragon(ドラゴンの仕込み方)』である。

 

つまり未知の生物をいかに解析し、いかに訓練するか、そういうテイマーとしての成長の話という側面が大きい。

ヒックとトゥースが絆を育む過程は唯一無二のものではなく、マニュアル化、効率化して伝授も可能な「技術」なのである。

そしてこのドラゴン調教ノウハウはクライマックスに向けて急速に友人たち、さらには集落全体へと共有され、ドラゴンは人気の「ペット」になる。

 

どうにもヒックとトゥースの関係が矮小化されたような印象が拭えないが、これは作品の問題というよりは価値観の違いであろう。

八百万の精霊を尊重し人間はその一部と考える日本人と、人は神の似姿であるという信仰を持つ西欧の宗教観の違いである。

 

作品の完成度を損ねる汚点として指摘すべきではないが、日本人に向けてこの作品を紹介するにあたっては、その「ズレ」を踏まえて若干評点を下げざるを得ない。


 

とはいえ全体からすれば些細な問題である。

 

この作品は多様な層に鑑賞を推奨できる素晴らしい映画だ。

ことに幼い子供たちにとっては、きっとその後の人生にも影響を与える素晴らしい原体験となるだろう。