「ミスタープロ野球」の長嶋茂雄さんが3日、亡くなられました。第2期監督時代、巨人担当キャップとして取材したが、その時、強烈な印象が残ったのが、1996年の札幌遠征での出来ことでした。
この年、巨人は開幕から波に乗れず、7月の段階で首位広島に11.5ゲーム差を付けられました。その広島と、毎年恒例の札幌遠征のカードが組まれていました。試合前日の札幌円山球場での練習開始前の時です。長嶋監督はホームベース付近で1人立っていたが、6月末の広島球場での広島戦に3連敗するなどチーム状態は最悪で、指揮官が周囲に醸し出す雰囲気も「俺に近付くな」というものでした。
このため、一般紙、スポーツ紙、野球雑誌、テレビなどの記者が誰も監督の近くに寄れない状況でした。その時、長嶋監督がどんな心境で広島戦を戦うのかを知りたくて、1人近寄って取材しました。
「何を聞いても、素っ気無く答えるだけだろう」と思っていたら、大違いでした。「首位広島を倒せば、ゲーム差は縮まりますが」などと、思い切って尋ねると、長嶋監督は「(報道陣の)皆さんは、なんで遠くで見守っているんですか」と、まず話し、「まだシーズン半分ですよ。まだまだ巻き返せますよ。むしろ、11.5ゲーム差から逆転優勝したら、それこそメークドラマですよ。エヘヘ」と、明るい表情で冗談混えて話してくれました。
この時の長嶋監督は強がりを見せたのではなく、心の底から「11.5ゲーム差をひっくり返して優勝する」ことを楽しんでいる様子でした。実際、翌日の試合では巨人打線は広島のエース・紀藤真琴に9連打を浴びせて乱打戦の末、10ー8で勝利すると、その後、4位から順位を上げていき、優勝しました。
そして、長嶋監督が口にした「メークドラマ」は、その年の「新語・流行語大賞」にも選ばれました。
「常に前向きで、明るい」という代名詞が付いている長嶋さんだが、札幌での前日練習の時は、初めてと言っていいほど、近寄り難い雰囲気を出していました。しかし、本人曰く「皆さんが勝手にそう思っているようだったので、そういう格好をして、試していただけですよ」。
絶望的な「11.5ゲーム差」を付けらていても、明るく、お茶目な面を忘れなかった長嶋さんの笑顔が忘れられません。合掌ーー。
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1984年の王監督の時代から、藤田、長嶋、原監督まで、20年以上巨人を担当した某新聞社運動部元記者。