プロ野球の投手にとって、もっとも栄誉ある賞として知られる「沢村栄治賞」の今年の受賞者は、5年ぶりに「該当者なし」となりました。伝説の名投手の名を冠した1947年創設の表彰で、56年に創設された米大リーグのサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)よりも歴史が古い賞です。昨年まで3年連続受賞した山本由伸(当時オリックス)がドジャースに移籍したこともあるが、「完投型先発投手」が、分業制となった現在では希少価値となってしまったことが「該当者なし」の主な理由のようです。
沢村賞の選考基準は①勝利数15以上②奪三振数150以上③完投数10以上④防御率2.50以下⑤投球回数200以上⑥登板数25以上⑦勝率6割以上ーーの7項目。選考では5人が候補に挙がり、戸郷翔征(巨人)が一番多い4項目で基準を超えたが、勝利数12で物足りないため、「無理して選ぶ必要はない」との結論になりました。
選考基準の今年の最高投手の数字を見ていくと、①菅野智之(巨人)15勝②今井達也(西武)187③伊藤大海(日本ハム)、小島和哉(ロッテ)5④高橋宏斗(中日)1.38⑤東克樹(DeNA)183⑥桐敷拓馬(阪神)70⑦菅野智之(巨人).833ーー。
最も足りないのは③の「完投数10以上」で、基準の半分の5。過去10年で、10完投以上で受賞したのは、2018年の菅野と、20年の大野雄大(中日)の2人だけです。⑤の「投球回数200以上」も基準到達者は1人もいませんでした。
沢村賞の最多受賞者は3回で、山本の他、杉下茂(中日)、金田正一(国鉄)、村山実(阪神)、斎藤雅樹(巨人)。
歴代受賞者のうち、完投数47,投球回数448回1/3で、いずれも最多記録なのが1947年の第1回受賞者の別所昭(南海)。別所は、①勝利数30勝②奪三振191④防御率1.86⑥登板数55⑦勝率.612ーーで、他の5項目も、高いレベルの数字を残しています。
沢村賞については、昭和に活躍した年配のOBの多くは「先発完投型」の選考基準を貫くことを支持する一方、入団当初から分業制の時代を過ごした若手OBや現役選手などは「時代に合わない」と、選考基準を変えるべきだという意見が多く聞かれます。
現在の野球は「投球回数」より「投球数100」を先発投手の交代時期との考えが主流となっており、それを考えると、「投球数100以下で完投勝利」の投手が増えない限り、選考基準を見直す時期に入ってきたと思います。
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1984年の王監督の時から藤田、長嶋、原監督の時代まで20年以上、巨人を担当した某新聞社運動部元記者。