2024年を迎えた新年だが、ふと、40年前の1984年7月24日にナゴヤ球場で行われたオールスター第3戦に江川卓(巨人)が起こした「新記録を狙ってタイ記録を逃したシーン」を思い出しました。

 状況は、セ・リーグの2番手として4回から登板した江川は、最初の打者の福本豊(阪急)を速球で見逃がしの三振。2人目の蓑田浩二(阪急)をカーブで見逃しの三振。3人目のブーマー・ウェルズ(阪急)を速球で空振りの三振。4人目の栗橋茂(近鉄)をカーブで空振りの三振。5人目の落合博満(ロッテ)を速球で空振りの三振。6人目の石毛宏典(西武)をカーブで空振りの三振。7人目の伊藤勤(西武)をカーブで空振りの三振。8人目のトミー・クルーズ(日本ハム)を速球で空振りの三振――に仕留めました。

 これで8連続三振。71年7月17日のオールスター第1戦(西宮球場)で江夏豊(阪神)が達成した9連続三振まで、あと1に迫りました。ここで9人目の大石大二郎(近鉄)に対し、伸びのある速球を2球続けてツーナッシングに追い込んだ時、江川の頭に思い浮かんだのは「江夏に次いで2人目の9連続三振」という新聞一面の見出しでした。このため、マウンドに捕手で同い年の中尾孝義(中日)を呼び、「次はワンバウンドのカーブを投げるから、空振りしたらわざと後ろへそらしてくれ」と頼みました。

 振り逃げの三振で連続三振の記録は9に伸び、さらに二死一塁から三振を奪えば、江夏の記録を破る「10連続三振」となるからです。しかし、3球目のカーブはワンバウンドとはならず、大石にバットの先でちょこんと当てられ、二塁ゴロ。新記録どころか、タイ記録にもなりませんでした。浮き上がるような高めの速球を投げれば、「9連続三振」のタイ記録達成の可能性は高かったが、大学時代から江川をよく知る中尾は「あの場面でパッとああしたアイデアが浮かぶのは、江川らしいところ。もしかしたら、『江川事件』も江川のアイデアから起きたのでは?」と、ジョークを交えて話していました。

 あれから40年後の今年、オールスターで「10連続三振」はともかく、「9連続三振」を狙えるのは、佐々木朗希(ロッテ)が最も近い存在のような気がします。

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 1984年の王監督の時から藤田、長嶋、原監督の時代まで20年以上、巨人を担当した某新聞社運動部元記者。