ミーン、ミーン、ミーン。



そんな夏の風物詩を掻き消すほどの怒号がグラウンドに響き渡り、教室まで届く。
窓から外を見下ろすとそこにはギラギラと照りつける太陽をものともせず、滴る汗をそのままに一つのボールを追いかける男子たち。



「夏休みなのに、頑張るねぇ運動部」


「アタシらも補習頑張ってるしー」


「じゃあ先生も頑張ってる。頑張って君達の補習に付き合ってる。だらだらしないでしっかり補習受けるように」


はぁい、なんて間の抜けた返事をしたり欠伸をかましている生徒たちに心の中でため息をついて授業を再開する。



今は夏休み。だけど私たちは変わりなく、通常営業だ。
いつものように学校へ来て補習授業を行って、午後からは部活の指導。
さらに会議、日曜には研修も入るのだから、むしろ夏休みの方が忙しかったりする。
当然海や山に行く予定なんて入れる余裕はない。
唯一夏を感じられるようなイベントは、うちの生徒が悪さをしないように見回りとして祭りに行くことくらい。
教員になった時から少しの覚悟はしていたけど、こんなにもハードだったとは。





補習を終えた生徒を見送って、窓際の机に座る。


「今年はデキの悪いのが揃ってるなあ」


高校最後の夏休みをどう過ごすか。
大学進学を考えている3年生にとって、この長い休みは先の人生を左右すると言っていいほど大切な期間だ。
けれど補習を受けにくる生徒たちは進学どころか、無事に卒業出来るのかも怪しいところ。



『あの先生の授業って分かりにくいし眠くなんだよねー』


『佐藤先生の方が面白いしまだ良かったよね』



外から聞こえた甲高く大きな声につられて窓から顔を出すと、玄関を出て行く二人組の女子が視界に入る。

先程まで私の補習を受けていた生徒だった。

二人は片手に鏡を持って髪をいじり、不満を漏らしながら正門の方へ消えていった。




「…授業の進め方、見直すか…」



学校で学ぶのは生徒たちだけじゃない、教員だって学ぶことは多い。

明日は居眠りされないように、補習内容を改めよう。


気合を入れるために大きく伸びをすると、傾いた机の下でバサリと何かが落ちる。


まさか、教科書?参考書?
いや、この時期にそんな大事なものを置いていく生徒がいるなんて考えたくない。頭が痛くなる。

恐る恐る覗きこむと、そこには淡い青色の、綺麗な和綴じ本。



「…何だろ」


『古今和歌集です』


「っ!?」



本を手に取ると、背後から声がした。









*** to be continued...