平井「(微笑み)貴女っていつもマイペースね」
平井は唯をジロジロと見る。
唯は視線が泳ぐ。
平井はクスクスと笑いながら離れていく。
平井「(呟く)似ているのやら、似ていないのやら、中の人って」
唯はホッとして外を見る。
いい天気である。
○町中華「紅屋」・店内(夜)
『甘イワナ☆』の鼻歌。
割烹着の唯が歌いながら、
ラーメンを運んでいる。
客席は埋まり賑わっている。
カウンターに置かれた烏賊の
駄菓子、『ご自由に、どうぞ』と
手書きで書かれている。
平井が入ってくる。
平井「こんなお店で働いているのね?」
露骨に嫌そうな顔をする唯。
平井「私は客よ。客にそんな顔を見せるものじゃないわ」
平井は烏賊の駄菓子を取り、
袋を開けて咥える。
店主(51)、ラーメンを作りながら、
店主「おい唯ちゃん! 注文(とって)」
唯、平井と目を合わせないように
注意しながら、
唯「ご注文は?」
平井「(クスクス)私ってそんなに嫌われているの?」
唯「(面倒)何にします?」
平井「貴女のお勧めはなぁ~に?」
唯「……セットがお得です」
平井「(更に烏賊の駄菓子を咥えて)じゃあ、それでいいわ」
唯は伝票を書く。
平井「(烏賊をくちゃくちゃ)ネットで有名になって貢いでもらえばいいのに……」
唯は平井を睨みつける。
○唯の家・玄関(深夜)
オープニングの古い小汚ない家である。
唯は何も言わず、静かに玄関を開けて入っていく。
○唯の家・階段(深夜)
男女の声が聞こえる。
唯はなるべく音を立てないように
2階へ上がろうとするが、
古い家のため、ギィーギィーと
音がしてしまう。
陽子(39)の声「あっ! 唯ちゃん帰ってきていたの?」
男の声「唯ちゃん。今日もお邪魔させてもらっているよ」
顔をしかめる唯。
唯は黙々と階段を上がっていく。
○唯の家・唯の部屋(深夜)
唯はドアを静かに閉める。
泣きそうな顔。
巨大なRIM人形と目が合う。
唯「……RIM」
唯はRIM人形を手にとりじっと見る。
唯「私もRIMになり……(声にならない)」
唯はRIM人形を持ったまま
パソコンを点けると
黙々とお絵かきを始める。
画面に描かれていく
味のあるRIMイラスト。
と、パソコンのシステムメッセージが
来ていることに気づく。
唯は烏賊の駄菓子を開けて口に咥える。
メッセージをクリック。
ヴォイスドラマの声優募集。
唯「(烏賊の駄菓子を噛みながら)声優の募集か……」
RIM人形を見て、